カミツキ!

09


 明らかに『神』の声は怒気を帯びていた。あのまま親友達の側に居続けたら確実に彼らの前で絶頂させられる確信があった。


 意識の遠くでチャイムが鳴るのを聞く。

 体育の授業中だ。誰もいない教室へ避難して、梓織は乱れる吐息のまま声を荒げた。


「っあのなあ! 神さまが変なことしなきゃエロい事になんかなんないか、ら、」


 どうせどこに居るのかも分からない。適当な方向に視線を走らせた梓織は絶句した。

 背の高い、長く黒い着物のような衣装に身を包んだ男が立っていた。まっすぐな長い白髪に、切れ長の赤い瞳。

 見目の年の頃は声の印象の通り、梓織よりやや上。美しい顔。

 硬直する梓織に構わず、その男はいつもの『神』の声で微笑んだ。


「嗚呼…シオリ。お主は愚かで愛おしい。あれほどあの者どもに劣情を抱かれておりながら、気付きもしないとは」
「っや、やっぱり、神さま…?」


 嫉妬ゆえの戯れ言は耳を素通りした。問う梓織に『神』は鷹揚に頷く。


「そうだ。分かるか、シオリ。幾千の人間に信仰されるよりも迅速に、お主のいやらしく甘美な精氣が儂の神気を蘇らせたのだ。こうして実体を現わせる程に」


 両手を広げて神は梓織の躯を抱き締め、顎を掬って唇を吸った。


「んっ…!?」


 無防備だった唇を食まれ、濡れた熱い舌が確かに梓織の口内を蹂躙し始める。


(ぃ、や…っ)

 そう思うのに、逃げる事ができない。


 あたたかくてぬめるものが生き物みたいに動く。互いの唾液を掻き混ぜられて、もはやどちらのものか分からないそれを絡められ、ぢゅぱぢゅぱと下品な音と共に舌を吸い出される。

 ぞくぞくと快感が躯を蝕み、つんつんと乳首が白い体操服を押し上げ擦れて、



(ッだめ、だ…きもち、ぃ…)



 ただでさえ梓織の躯は度重なる悪戯と、射精を許されぬ日々によって途方もなく快楽と快感に弱くなっている。

 染めた茶色の髪にこめかみから手を挿し入れられ、さらさらと撫でられながら何度も角度を変えてキスをされる。

 触られてもいないのに乳首だけでなく股間にも熱が集まり始め、じゅくっ…と『痼り』までもが疼き始めた。


「愛いな…。儂のシオリ…。嗚呼、触れられる…味わえる…堪らぬ…愛い、愛いぞ…」


 熱い吐息が、低い声が、耳に掛かる。

 ぞくっ…と躯が震えた。これまでの悪戯だけではない。確かに見ず知らずの男に性的に襲われているという事実が身を竦ませる。

 強張る梓織の頬を神が撫でた。


「さぁ、良く耐えたな。熟成した種を飲み干してやろう」
「んぁッ! ッあ、ゃだ…っ!」


 ハーフパンツの股間、的確に双球をたぷたぷと指先で弄ばれて、咄嗟に梓織は身を捩って逃げた。

 ぴりッ──と、神の気配が棘を纏う。それにまたびくりと肩は跳ねるが、梓織は必死で首を振った。


「が、がっこ…やだ…っ」



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