カミツキ!

01


 幼い頃から、ほぼ毎日欠かさず参拝する人の子が居た。今ではもはや彼しか掌を合わせる者は居ない。
 神力は徐々に失われ、彼に固執し執着し、変質し始めている己を感じてはいる。


「梓織、先行くぞー」
「あ、待って。行く行く」


 瞼を伏せていた彼が、ぱ、と笑顔を浮かべ振り返る。その笑みを眺めるだけで神力が尽き掛け形も保てぬような躯が熱くなる。



(欲しい…)



 彼が欲しい。彼だけが欲しい。彼の世界を一色に染め上げて──狂わせたい。


『シオリ』

「、…?」
『!』


 欲を乗せて呼んだ声に、彼が振り向いた。神力もなく届く筈も無いのに。無かったのに。
 届いてしまったが故に、箍が外れた。

「…気のせいか」
 彼が呟いてその背が遠のく。




『…愛している、シオリ…』




 ぞわりとなにかが歪むのを感じた。
 それが神としての本質であると、知っていた。



   §



「朝から良くはなかったけど、なんか夕方からもっと顔色悪いぞ」


 いつもの部活帰り。いつも通り馴染みのコンビニで買い食いをしている時、親友が言った。

「ん、はは、だいじょぶ。なんかぞくっとしただけ」
「なん、風邪?」

 親友が首筋に触れる。
 途端、静電気が走るみたいな感覚に躯が跳ねた。


「ッぁん、」


 か細い変な声が出て「っ?」自分自身でも驚いた。もちろん目の前の親友も目を真ん丸にしている。


 …くにっ、

「ッんあっ?」
「おい、梓織? 大丈夫か?」


 次は触られてもないのに、ぞくッと躯が痺れた。躯の奥に、なにか走る。


「っ? や、な、なんだろ…ちょっと、なんか、お腹が」
「腹イタ?」

 …くにっ、くにっ、

「ッは、ぁ…ッ? っぁ、っ」
「お、おい梓織」



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