タチ専が異世界転生したら超堅物ノンケで!?

01



「クオン、非番だし夜飲みに行かないか?」
「ああいや、…遠慮しておくよ。みんなで楽しんで来てくれ」

 肩を抱いて笑う同僚、アーヴに俺は少し眉を寄せつつ首を振る。そうかと残念そうに離れていく彼に、

「お前も懲りねーなぁ」
「クオンが来るわけないじゃ〜ん」

と、他の騎士達が話し掛けるのが聞こえる。申し訳ない心地はあるが、厳しい家系に育ったが故に周囲を楽しませる自信がないので仕方ない。
 折角の酒の場を白けさせるのは申し訳ない。



「誰か!!」



 そのまま酒場に洒落込むのだろう彼らを見送ろうとしたとき、悲鳴が渡った。
 川に子供が落ちたのだとざわめきの中から知ったときには身体は既に飛び込んでいて、全身を冷たい水が打った途端──泡が弾けるように、思い出した。

「──!!」

「クオン!」
「任せる。温めてやってくれ」

 わらわらと人や同僚が集まって来るのに救い出した子供を預けて、さほど深くない川から上がった。
 とにかく俺は『思い出した』ことに混乱していたから、挨拶もそこそこに急ぎ立ち去り、部屋で濡れた服を脱ぎ捨てて、椅子に腰掛けて深く項垂れた。



 俺はクオン・アイリオス。厳格な騎士の家系の嫡男で、王国騎士として勤務している。
 そうして26年間生きて来た。酒も飲まない。女性経験もない。
 だが。

 川に飛び込んだ。それがスイッチだったのだろう。

 『俺』は『浜野達海』だった。実に不真面目に生きた人生を22年で終えたはずのタチ専門のバイ。とにかく気持ちいーコトが大好きな酒飲み大学生。

 死因は思い出せない。
 …なんて格好いいことを言えたら良かったが、しこたま飲んで酔っ払った末の、川への転落からの溺死。まだ他人を巻き込んでないだけマシだったと言えよう。

 死んで、転生して。
 同じ魂でもこんなに別の性質になれるのかと今は思うけど──たぶん、前世の死因になった飲酒とか川とか、そういうのを無意識的にずっと避けて来たんだろう──。

 なんの因果か、俺はクオンのまま、『達海』だった前世をすとんと受け容れた。クオンの身体のまま、『達海』の嗜好を思い出した。
 間違いなく俺はクオンで、勤勉に王都の市民を守る意思を確実に持ったまま、突然、学ぶつもりもない気持ちいーコトの知識を得てしまったわけだ。

 異世界転生とか言うやつだって、現代っ子の『俺』は現実味もなく飲み込んで、色々考えて。


(とりあえずヌこ)


 うん、と顔を上げた。

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