籠絡

01


 平和な国だった。
 現国王になって戦は一度もない。強力な軍事力を有しながら、外交に力を入れて交流や物流を盛んにすることで、平和的な関係を各国と結ぶことに成功した。

 王子であるカイルが現国王、つまり実の父親から学ぶことは多かった。
 それと共に、尊敬もしている。

 しかし、ただひとつだけ、気に食わないことがあった。

 国王とその近辺、もといその一族を護衛する、近衛師団。それをまとめる師団長・サリは、当然何よりも国王を優先する。


 カイルよりも、だ。


 それがカイルには気に入らない。他の誰であっても気にすることはないし、当然だと納得もできる。しかし、サリだけは、我慢できなかった。
 あの端正な顔が、自分に向けて笑み崩れたり泣き崩れたり、赤面したり怯えたり。そんなことを想像するだけで、カイルは躯が熱くなる。

 あの灰色の目が自分だけしか見れなくなればいい。そう思う。

 だが悔しいことに、サリの1番は国王であり、また。
 26歳のサリが、15歳になったばかりのカイルを対象として見ることはないだろう。そもそも臣下と王太子だ。クソ真面目なサリのことだ、有り得ない。

 そのクソ真面目なあの表情が快楽に蕩けるところを想像して、何度自分を慰めたか知れない。


 しかしそれも今日までだ。


 国王に無理を言って、サリを1日借りた。

 この猶予に、サリの頭から国王を消す。
 無論、執務中は無理だろうが、彼に、カイルを刻み込んでみせる。

 ドアがノックされる。

「殿下。近衛師団長殿が」
「通せ」

 耳障りな侍女の声。待ちきれない。

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