アクマナサカナ

01


 海の色を眺めて、氷晴は目を細めた。
 初めて叔父と漁に出てから、既に3年が経過して、氷晴は19歳になっていた。

 操舵室には叔父と、すっかり体調の回復した父がいる。
 最近では蛸壷漁よりも定置網漁に重点を置いていて、だから氷晴は『あれ』以来、王に会っていない。
 一応あの大きな蛸壷はいつも仕掛けてはいるのだが、王は掛からないのだ。

 そうこうしている内に3年。
 3年も経ってしまった。

 王以外の蛸を見てもあのときの異常な感情は起こることはなく、そして月日が氷晴を落ち着かせた。

――『あれ』はもう、忘れよう…。

 蛸に犯されるなんて非現実的なこと。
 そもそも、王の存在さえ疑わしいものだったのだ。

――あの蛸壷も、今日上げたら割ろう。

 もう自分はいっぱしの漁師なのだから。


「おぅい、ヒバ! 巻き上げるぞ!」
「はーい!」


 いつの間にか甲板に出ていた叔父が呼ぶ。
 氷晴は殊更明るく返事をして、彼らの傍へ駆け寄った。

 目の揃った網を巻き上げ、掛かった魚を素早く選り分ける。あまりに小さな魚や、食べられない雑魚はリリースだ。

 蛸壷を上げるのは、いつも最後だった。
 ほとんどもう、網を固定するための重しのような扱いになっている。

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