淫妖奇譚 弐 01 時は平安、処は京。 装いは狩衣に袴、烏帽子はなく、長い髪は首の後ろでひとつに結わう。 双葉は欠伸を噛み殺し、訥々と語る男の禿げ上がった頭頂部を見た。 聞けば依頼対象はちゃちな妖だが、お上直属の組織に加わらない、私立の陰陽師である双葉にとってはよくあることだ。 その分、いただくものはいただく。 あっさりと高額で仕事を引き受けた双葉は、件の部屋へ向かう。いつも通り、依頼人は連れない。 『お前は仕事を選ぶということをせんのか』 「煩いな。世のため人のため、妖のため金のため、それが俺の信条なんだ」 胸の内から双葉に語りかけるのは、以前に双葉が血筋から解放した、犬神だ。 色々あって双葉の魂に棲み付いているのだが、 『双葉、すぐ喚べよ。瞬時に一掃してくれる』 「報酬が躯って言われて喚ぶ莫迦がどこに居ると? しかもこんなちゃちな妖相手で」 これがとんでもない色魔で、一方的な契約を交わされて以来、なんとか双葉は喚び出すことなく済んでいるが、なんとも気が重い。 うんざりしながら障子を開く。双葉が足を踏み入れた途端、ざわっ、と気配が変わった。 「こいつか」 角の柱に近寄る。それは、木が爛れたようにいくつもの隆起が垂れ下がり、そのひとつひとつに目のように木目があった。 逆柱と言い、根と枝の方向を樹であった頃と違えられて使われた柱が成る妖だ。 よくあることではないが、珍しいというほどのことでもない。 [*前] | [次#] 『幻想世界』目次へ / 品書へ |