君が判りません・前篇

01


 それは木曜の早朝。

「あれっ、早いですねー、青木先生」

 背後から声を掛けられて、ぎくりとした。
 振り向けば、同じ数学科担当の教師がいた。俺よりいくらか年下で、童顔で生徒に懐かれやすい性格の。

 手にはノートを抱えているから、早めに登校して採点でもするところなのだろう。
 一方の俺はと言うと、生徒に犯され、ア○ルにローターを入れられに行くところだ。

 …などと、誰が言えようか。

「ひ、廣瀬先生。おはようございます、先生こそ早いですね」
「あはは、僕は宿題が終らなくて。生徒に偉そうなこと言えませんよ」

 困ったように笑って、廣瀬はノートを抱え直す。早朝の校舎には、朝練に励む生徒達の声だけが響いている。

「青木先生はどうしたんです? 僕みたいなポカはしてないでしょう?」
「そっ、そのッ…、ね、熱心な生徒がいまして」

 何に熱心なのかは当然伏せる。だが廣瀬は「ああ、」納得したらしかった。

「朝からマンツーマンですか。青木先生は予約でいっぱいですもんね」
「は、はあ、そんなとこです…」

 担当は2年だが、3年の数学の一部も受け持っているが故に、事実時間があれば補習は個々人にしている。嘘は、ついていない。

 うんうんと廣瀬は何故か満足げに肯いた。

「凄いですよねぇ。僕なんか1年だけで手一杯ですよ」
「はは…、廣瀬先生だってすぐ慣れますよ。生徒にも好かれてるみたいだし」
「いやぁ、青木先生には適いませんよ。みんな青木先生がいいって言いますもん」
「僕にはそんなこと、言ってくれませんけどねぇ」
「あはは、直接は言いづらいですよ。あ、生徒を待たせちゃいますね。引き止めちゃってすみません、行ってあげて下さい」


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