好きってなんですか?

01



「先生」

 忘れ物をしたので、理科準備室を開けて下さい。
 そう言われて、場所が場所だし、放課後も遅い時間だったので付き合った。

「何忘れたんだよ?」
「…携帯」
「…違反すんなよ…」

 道すがら訊くと、小さく後藤が返す。呆れて言うものの、今時携帯電話を学校に持ってきていない高校生など、ほとんど居ない。持っていないと登下校が物騒だ、とまで言われているのだ。

 鍵を開けて薄暗い室内に行って来いと促す。駆け足で入っていった後藤が戻らないことに焦れたのはその30秒後。そんなに広い室内ではない。

「後藤? 見つからないのか?」

 ひょいと覗き込めば、大机の足許に蹲る生徒。

「後藤っ? 腹でも痛いのか? 気持ち悪いのか?」

 場所が場所だ。何かしらの薬品にでも触れて痛むのかもしれない。臭気に当てられたのかもしれない。

 鍵穴に挿したままの鍵も放置して、後藤の傍に寄る。異臭は、ない。


「ッせんせ…っ」


 反応があることに安堵する。しゃがみ込む後藤の背に手を当て、同じようにしゃがみ、


「っ――?!」


 突然のキス。

 体重をかけられてバランスを崩し、だんと背が背後の戸棚にぶつかって、押し付けられた形になる。

 期を図ったようにバシンと音を立てて勝手に扉が閉まり、鍵が落とされる音がした。

 執拗に絡まってくる舌。掻き混ざる唾液。

「んん、ん…っんッん」

 ダメ。

 イヤ。



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