嘘はいけません

03



「岡、部?」

 クラスの男児だ。
 だが、こんなところに居るには相応しくない。

 狭い個室に這入って来た岡部は、にやにやと獲物を追い詰めた肉食獣のような笑みを向けて来る。

 その笑みは、どこか後藤を思わせて。
 俺は、成す術もなく、立ち尽くす。

「先生。これなーんだ」

 語尾に「☆」がつきそうな感じで言われたところで、可愛くなんかない。

 取り出された携帯の画面を見た途端、血の気が引くのを確かに感じた。

 教室で絡み合うふたりの姿。片方の顔は見えないが、もう片方はのけぞり喘いでいるのが静止画でも判る。

 これは――昨日の、行為、だ…。

「これじゃ顔小さくて見えないですかね。実際はデジカメで撮ったから、もっと綺麗ですよ」

 デジカメなら、音はあんまりしませんからね。くすくす笑って岡部が言う。

 だから――だから教室は嫌だと言ったのに。

 そんな意味のないことばかりが頭を埋める。まともな思考が働かない。

「イイ顔してますよ、先生。後藤がイイのか、…それとも」
「ッ!」

 岡部の手がスラックスの股間に触れて、ビクリと後じさるものの、後ろはすぐ便器で、それ以上逃れようがない。

 手を払おうとするが、グリ、とそこを刺激されて、痛みに一瞬頭が真っ白になった。

「いッ! …あっ…」


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