in 【教室】

イントロダクション 1


 今週の当番である更衣室の掃除を終えた恒太は、教室へ戻るべく、廊下を歩いていた。
 廊下の窓の下では、今から部活なのだろう生徒達が、ユニフォームに着替えて校庭へと駆けて行く。

 それをなんとなく眺めて、ふと前を見たとき、「ひゃっ」恒太は驚いて思わず声を上げてしまった。まっすぐな黒髪が跳ねる。
 そこにいたのは、校長だ。

「こ、こんにちは」

 慌てて頭を下げた恒太に、校長はにこりと笑ってなにかを差し出した。

「ハッピー・【クロッカス。・デイ】」
「くろっかす…デイ?」

 恒太が首を傾げると、校長はにこにこしたまま肯いた。

「どうぞ、君のです」
「僕の?」

 ピンク色の袋で包装されているそれを、恒太は恐る恐る受け取る。

(【クロッカス。・デイ】なんて聞いたことないけど…)
 どこかの国の祝日だろうか。

 この校長、普段は校長室から全く出て来ず、得体が知れないと噂されるような人物だ。わけの判らない祝日をひとりで祝っていても、おかしくないのかもしれない。

「あ、ありがとう、ございます…」
「開けてみて下さい」

 笑顔のまま促されて、恒太はそれに従う。
 中身は、花の形のクッキーだった。もしかしたらクロッカスの花の形なのかもしれないが、恒太は知らない。
 そして中央には、『不思議の国のアリス』のように、『Eat Me!』と書かれていた。

「えっ、と…」
 どういう反応をすべきか悩む。

 ちらりと校長を窺うと、彼は目を細めて掌を恒太に向けて促した。食べろということだろう。

「い、いただきます…」


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