in 【化学室】

仲間 和正の場合 2



「ああ、ありがとう」

 にこりと笑う真尋の表情が、どこか痛々しい。なんだか見ていられなくて、急いでファイルを掴んで身体を翻したとき、鞄がビーカーに当たって床に落ちた。


 がしゃん!

「あ! ご、ごめんなさい!」
「大丈夫か、触るな」


 真尋が駆け寄ってくる。咄嗟にしゃがんだ和正を押し留めて、掴んでいたガラス片に触れた真尋の指先が、小さく切れた。

「っつ!」

「黒川さっ…!」
「ほら、こうなるから。大丈夫、片付けとくから」

 白くて、少し骨張った指先に膨らむ、丸い紅。


(俺の所為で)


 申し訳なさが和正の頭を埋める。真尋の手首を掴むと、気付けばその指先を、和正は自らの唇に咥えていた。強く吸う。やんわりと舐める。

「ッ! なか、ま…っ」

 びくり、と真尋の肩が震える。

 どこか色を含んだその声に驚いて、和正が指を咥えたまま真尋を見ると、真尋の頬はかぁ、と赤く染まっていた。

 れる、と和正の舌が動く度に、「ン、」と真尋が呻く。


 これは、もしかして。


 どきどきと心臓が脈打つ。ねっとりと傷のついた人差し指だけでなく、中指、薬指としゃぶっていく。


「ッ…ふぁ…っ、ぁっぁんっ…ッぁ、こ、こら、仲間…っ」


 真尋の逆の手が、和正の頭を押す。顔を上げて、その手もぺろりと舐めてやると、「んぁ、」と真尋は更に赤面した。

 その反応に、ぞくぞくする。――欲情、する。


「黒川さん、指、気持ちいいの? なんかすごく…えっちな声」
「! ち、ちが…」



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