長い夜の始まり

08


 
「ゃめ…っ、は、あ! ぁ!」
「ダメだよ。トばないで」
「ぅあっ!!」

 突かれるたびに声を上げて、『今』から逃避しようとする遊糸の意識を引き止めるため、六花はきつく亀頭に歯を立てた。
 びくっ、と遊糸の膝が跳ね上がって、「ん!」六花の胸を蹴る。自業自得と言えど、苦しい。仕方なく六花は口を離した。

 再び遊糸の顎を掴んで引き寄せ寄せ、囁く。

「ったく…。ほら、『ごめんなさい』は?」

 堕ちろ。
 認めない。

 薬漬けにされて、犯されて溶かされて、それなのに『自分』のままでいようとするなんて。

 認めない。

「ひぅ…っ」

 人工的な金茶色の髪。彼の素行がさほど良くないことなど、ほんの僅かな同棲生活でも見て取れた。

 それでも彼は愛されていた。
 父に。友人に。バイト先の人間に。

──どうして?

 なにが違う? この『自分』が違うというのか。その『自分』は、どうやって培ったというのか。

 犯されて涙を流す遊糸を目の当たりにして、六花は自分でも意識していなかった、胸に渦巻くどす黒い感情に気付いた。

「判る、兄さん? 『ごめんなさい』、言える?」
「ぅ、…ご、ごめ、なさ…っは! ぁ! ぁ!」
「聞こえないよ」
「ひく…っ、あ! ひぁ! っぁ、や…ッ! ごめ、ごめんなさい…っ!」
「遊糸…! いいよ、いいんだよ、これからを大切にしていこうな…!」


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