10/10/31 02:07
 季節ネタ。
 エロなし。




 朝は呼ばれなかった。
 そして、放課後。誰もいない教室。

「トリックオアトリート、せんせっ」

 開口1番、これだ。
 なんて想定通り。
 ハロウィンというのはそんなに浸透した祭りでもないくせに、この台詞だけは有名だ。
 俺は溜息をつきつつ、ポケットから飴を取り出して後藤に突きつけた。

「濃厚ミルク飴って先生……これはお誘い?」
「ばッ! なんでそうなる!」

 単にしつこいくらい甘い味が好きなだけだ。そんなこと、意識したこともない。
 顔を赤らめる俺に、包装を破いてぽいと口に飴を放り込んだ後藤はにやにや笑って見せる。

「そうだよね、先生のは俺が毎日絞ってるから、そんな濃くないもんね」
「〜〜っ!」

 お菓子をやったのに、悪戯されている気分だ。
 完全に耳や首まで熱い。

「ねえ、先生も言ってよ」
「……は?」
「お決まりの台詞。先生も言って?」

 にこにこ笑う後藤に、確実になにか企んでやがるとは思ったものの、後藤から俺は逃げることなんて出来ない。仕方なく、口を開く。

「……トリックオア、トリート」
「ん」

 言った途端にぐいと胸倉を掴まれて引き寄せられ、キスされた。
 驚く暇もなく、甘ったるい飴が口の中に押し込まれる。
 そのまま口内を掻き回されて、ゾクゾクと腰に快感がわだかまる。目尻に涙が溜まる。ちゅくちゅくと卑猥な水音が鼓膜を犯す。

「んッ……ふ、ぁ」
「えっちぃ顔」

 キスだけなのに、と後藤が笑う。
 悔しい話だが、日に日に後藤のキスは上手く、エロくなっていって、俺の躯はすぐに力が抜けてしまうのだ。
 違う、違うぞ、青木啓介。
 そう、これは後藤のテクが凄過ぎるだけで。勘違いするな、流されるな。
 ぐいと口許を拭って、俺は赤い顔を背ける。

「っ、これ、俺がやった奴だろ」
「無効?」
「当たりま──」

 しまった。

 にやりと、後藤が笑う。
 俺の莫迦。有効だって言っておけば、そこで終ったのに。

「いいよ、先生。俺に悪戯して?」
「ゃ、あの、やっぱいい、もう、ほら、大人げないし」
「ダメだよ、俺、お菓子用意してなかったんだもん。そうだ、先生仮装しなきゃね。俺んち来てよ、先生。羽と尻尾つけてさ、先生から欲しがって欲しいな」
「あのな後藤、そういうのは可愛い女の子がやるからいいのであって」
「大丈夫、先生はそこらの女より可愛いよ」
「お前の目はどうかしてる、ちょ、こら」

 腕を引かれて、完全に後藤は『お持ち帰り』モードだ。
 最初からこれが目的だったな?!

「先生に言葉攻めされたりさ、そういうの憧れだよね!」
「そ、そんなことするか!」

 結局。
 俺は後藤に『言葉攻めを強要される』という言葉攻を受けて、いつものごとく、頂かれてしまったのだった。
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