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珍しく、不死川が酒瓶片手にやってきた。と思ったらあっという間に潰れた。
雛鶴が持ってきた水を勧めるも、不死川は一向に口など付けずグデングデンに管を巻いている。
「嫌いってなんだよォォ……ありえねェだろボゲがァ!!」
悲痛な声を上げながら、ぐいっとまた一杯。
ガン!!と力いっぱい机に叩きつけられたおちょこをササッと奪う。
壊されたらたまんねぇ、高えんだコレは。
「案ずるな不死川!!
女子など星の数いるとよく言うだろう!!!!」
「まだ別れてねェ!!喧嘩してるだけェ!!」
「? 星には手が届かない。」
「ブッッ…殺されてェのか冨岡ァアアア!!!!」
天然発言をした冨岡に掴みかかる不死川を「どうどう!!」と煉獄が宥めている。
冨岡も呼んだのは間違いだったな。面白そうだと思ったんだが。
「なぁ…お前らいっつも喧嘩してるよな?何が楽しいわけ?
鼻っぱしらの強い女のどこがいいんだよ。」
「アァ!?」
俺の言葉に、不死川の据わりきった目がぎらりと光った。
「カワイイだろぉがァ!!」
「ぷすーーーーッ!!!!」
ド派手に吹き出した煉獄。かっ開いた目のまま、ぷるぷると肩を震わせている。
あーあぁ…煉獄も相当酔ってきてんなぁ。
今にも煉獄に殴りかかりそうな不死川を押さえ込み、周辺の徳利やお猪口を壊されないようどかした。
「落ち着け不死川!」
「うrrrrっせぇ!!おめェらこそつまんねー女の趣味しやがって!
口を開きゃァ『大和撫子』だの『清楚淑女』だの!!」
「よもや!?どこが駄目なのか!?」
「わかってねェなァ…!?
女は我儘なくれェがかぁいいんだよォ!!
なまえが可愛い我儘言うだろォ!?叶えてやるだろォ!?可愛い顔で『ありがと』なんて言うだろォ!?
ホラァかーぁいいいィ!!!!」
煉獄が笑いを耐えすぎて窒息死しそうになっている。普段の開眼ヅラは崩れちゃいねえがプルプルしたまま顔から血の気が失せている。
オイ息を吸え煉獄!!
「………ちょっと、実弥。」
男臭い酒盛りの場に、不機嫌丸出しの女の声が響いた。
見ると、いつからそこに居たのか、不死川の恋人であるなまえが襖を開けて立っている。彼女を介抱するよう背後に立つのは胡蝶で、さらにその後ろには目を輝かせ口元を手で隠した甘露寺まで立っていた。
「なまえにお前らまで…なんでいるんだ?」
頭が追いつかずに尋ねると、胡蝶が冷たい笑顔を貼り付けたまま口を開いた。
「なまえさんが酔っ払ってしまって…不死川さんに討ち入りすると言って聞かないので、連れてきました。」
にっこりとそうのたまう胡蝶に頭痛がする。
いや止めろよ。怖えな。
相当酔ってるんだろう。覚束ない足取りで俺の横を通り過ぎるなまえは、ただ一点不死川を睨んでいる。不死川は不死川で、先程恥ずか死モノの発言をしていたにもかかわらず、ギロリと歩み寄るなまえにガンを飛ばしていた。
「昼間わたしを怒鳴りつけといて、今度はガン飛ばすのぉ?何様だよあんた」
「アァ?風柱様だァ!てめェこそ俺のこと勝手に嫌ってんじゃねェよゴラァ!!」
「あんたこそ何他の女の子の頭撫でてんのよ!?
寝顔だって晒してさぁ!?私には見せてくれたことないのに!!この雄っぱい!!!!」
「意味わかんねえこと言ってんじゃねェ!!
いつ俺が他の女に触ったってんだよォ!?」
「はぁ!?とぼける気かよ!!
しのぶちゃんちで私の友達の頭撫でたでしょうが!!」
俺の屋敷に2人の怒鳴り声がギャーギャーと響き渡る。もうこうなればいつもの事だ。気付いたら勝手に仲直りしてんだろ。
胡蝶も甘露寺も慣れっこの笑顔でその様子を見ている。
「おい煉獄、冨岡!飲み直そうぜ。」
「む!そうだな!!」
無事息を吹き返した煉獄と終始顔色の変わらない冨岡も誘い、新たに登場した胡蝶と甘露寺も加えて飲み直すことになった。
「なーんであいつらは喧嘩ばっかなんだろうなぁ。もう慣れっこだけどよ。」
「不死川の言葉が足りないからだ。」
「冨岡さん、ブーメランって知ってます??」
「不死川さんの怖いところは素敵ですけど、女の子にはもっと優しくしないとダメです!!」
「よもや!!なまえには優しすぎると常々思っていたのだが!!」
「なまえが嫉妬深すぎやしねえか?」
「宇髄さん?そう言う発言が、世の健全な婦女子にメンヘラのレッテルを貼り付けているんですけれど。自覚ないんですか?」
「そうですよー!でも不死川さんなら、なまえちゃんがどんなに束縛しても喜んで受け入れる気がしちゃいます!!」
『それはある。』
それから暫くして、すっかり酒の抜けた不死川が俺たちが移動した部屋にやってきた。
腕には眠ったなまえを抱きかかえて。
「騒いで悪かったなァ。こいつ連れて帰るわ。」
「おうよ。なまえは寝ちまったのか?」
「あー、大分泣かせたからなァ。」
「よもや!他の女子を触っておいて泣かせるとは!!」
「うるせェ!寝起きで声かけてきた隊士がなまえに背格好似てたから間違えたんだよォ!」
「もう私の屋敷で不埒なことはしないでくださいね。」
特大の舌打ちを残し、なまえを抱えた不死川は帰っていったのだった。