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「ちょ、ちょっと待てよ……!お前の言ってる事はおかしい……!」

誰もが絶望の色に染め上げられてしまった。そう思っていたら、力強く反論したのは苗木くんだった。

「え?わたしっておかしいの?」

江ノ島さんが両手を顎に添え、上目遣いに首をかしげていた。苗木くんはそんな姿に動揺することなく、「一年も前に、そんな事が起きてるはずない!」と否定した。

「だって、ボクらがこの学園に来たのは、せいぜい数週間前の事なんだ……。もし、一年も前に世界が終わるような事件が起きていたなら……それまで、ボクらが暮らしていた世界は、なんだったんだよ!?」

正の字を書いてきた日々を思い出す。ここ数日は慌ただしくて記入すら忘れていたけれど、すでに二十本は記入している。三週間が経っていることは間違いなかった。

「うぷぷ……オマエラが勘違いしているだけじゃない?」

「……勘違い?」

顔色の悪いまま霧切さんが繰り返した。江ノ島さんは楽しそうに言葉を続ける。

「だって、さっきから聞いてれば……一年前の事件が起きたのは、オマエラの入学よりも前みたいな口ぶりでさ!」

オマエラがこの学園に入学したのは、もう二年も前のことなのに。そう呟いた江ノ島さんがモノクマを掲げて、うぷぷぷぷ、とわざとらしく笑ってみせた。

「に、ねん……?」

「は、はは……何を言ってんだべ、この人は……」

「否定したい気持ちはわかるけどさ、でも、真実を否定する事は誰にも出来ないんだ……真実……原因と結果……すべては因果関係だからね。それを否定するとなると、もはや神の領域だよ。さて、ここまでヒントを与えれば、もうおわかりになるでしょう?私が、あなた方のどんな記憶を奪ったのか……」

認めたくない。だんだんと理解し始めている本能を、理性が全力で否定している。直接座り込んだ床からせり上がってくる冷気が、私の体にまとわりついて、緩やかに体温を奪っていった。

「お前の言葉が本当だと仮定すると、ボク達は――」苗木くんがためらい、言葉を切った。しかし、それでもなんとか進もうとするように、続ける。「――入学した以降の二年間の記憶をすべて失ってることになる……」

「クッ……正解よ!やるわね、人間……!!」

言葉とは裏腹に、江ノ島さんはちっとも悔しそうではなかった。むしろ絶望に満ちた謎が解き明かされつつあることに、とろけそうなほど幸せな表情をしている。

彼女は私たちが、この希望ヶ峰学園で二年間の学園生活を送っていたのだと説明した。そしてそれを、すべて忘れているのだとも。葉隠くんも、朝日奈さんも、信じられない、と泣き喚く。私だって、同じように、拒絶したかった。けれど、一つの心当たりがあったせいで、それができなかった。

私が言えずにいたことを、きちんと伝えてくれたのは苗木くんだった。寄宿舎の二階にあったロッカールームについて、みんなに説明してくれる。授業を受けた形跡のある葉隠くんのノート、霧切さんの字でメモが残された手帳。これら全てを目の前にして、江ノ島さんの言葉を否定することなどできないという。

「うぷぷ、そんな証拠まで出てきたら、そろそろ認めるしかないんじゃない?つーか、絶望的に暗くね?謎が解けた割に、お通夜的な雰囲気じゃね?つって、お通夜なんて出た事ねーんだけどなぁ!イエス!!」江ノ島さんだけが一人、やたらとハイテンションだった。「二年間の学生生活……そこには色んな青春があったはずだよ?楽しい授業や、胸躍る学校行事……そこで互いに親交を深め合ったりしたはずだよ?さらに、ちょうど一年前には、とっても悲しい事件が起きたっけ……」

彼女はふと表情を消す。人類史上最大最悪の絶望的事件により世界が終わったこと、そしてそれら全てを私たちが忘れていること。その状態でコロシアイ学園生活に挑んでいたこと。淡々と明らかになった事実をまとめなおす。この三週間、これ以上ひどいことなどないと思っていたのに、それよりも深いどん底を見る羽目になるなんて、考えもしなかった。

沈黙した私たちが黒幕の話をただただ聞いていると、不意にぷつりと言葉が途切れた。「飽きてしまいました」顔をあげた私たちは、どんよりとした表情と、放たれたセリフに耳を疑う。「駄目です……飽き飽きです……。説明することに飽きてしまいました……」

世界に飽き飽きした。ありふれたものしか手に入らないこの世界を、彼女は退屈で絶望的だと言った。私たちが今、この瞬間に味わっている、刺激的な絶望に身を委ねたいという。羨ましいと、憧れのような視線を向けられ、とうとう呼吸すらままならなくなった。狂っている。そう口にするのも馬鹿らしいほどに、正常ではなかった。

いよいよ説明を放棄した江ノ島さん。記憶の接合部はどこにあるのか、という丸投げにされたテーマについて、苗木くんが必死に頭を悩ませる。私はとっくに思考をやめて、うなだれたまま折れ曲がった膝のあたりを見つめていた。胃の中でムカムカしたものが膨らんでいく。

やがて、めげずに推理を続けていた苗木くんが、一つの意見を口にした。玄関ホールから廊下へ足を踏み入れた直後、気を失ったので、その瞬間から二年間の記憶を失っているのではないかというのが彼の考えだった。

「あの後、ボクが目を覚ましたのは、教室だった……。あれは、玄関ホールで倒れた直後だとばかり、思ってたけど……」

「あはは、直後どころか二年後だよ!」江ノ島さんが満面の笑みを浮かべた。かと思うとふっと脱力し、私たちに冷めた視線を投げる。「つまり、初対面なんかではなかったのですよ。それにも関わらず、あなた方は自己紹介なんてしていたようですけど……」

モノクマがヒントとして配った写真を思い浮かべる。幸せそうに笑う自分やみんなが、今になって色濃くよみがえった。あの写真の正体がわからないときは、不気味で、恐ろしくて、まともに見ようとさえしなかったけれど、今は手元に回ってきたときに、もっときちんと見ておけばよかったと思う。私は、誰の隣に立っていた?みんなに、どんな表情を向けていた?もう戻らない過ぎ去った日々を思うと、取り返しのつかない場所へ来たような不安があった。

「つまり、オマエラは二年間を共にした仲間同士で殺し合ってたんだよ!しかも、滅びた外の世界なんかに出る為にね!うぷぷ……酷い話だよね……今さら外に出ても仕方ないのにね……」

「お前が……そうなるように仕向けたんだろ……!」

怒りに震える苗木くんが、こぶしを握り締めて吠える。江ノ島さんが項垂れ、長いツインテールが揺れた。突然、何かに傷ついたようなそぶりを見せたので、一瞬、苗木くんに責められたことにショックを受けたのかと思ったけれど、「私は、あなた達のことを愛しています……」と突拍子もない言葉をつむいだ。

さすがの苗木くんも動揺したようだった。「は?」と漏らした彼を無視して、江ノ島さんは髪の毛の先をいじりだす。

「この学園生活が始まってから……私はあなた達のことばかりを考えていました……。好きになって……当然じゃないですか……」死にそうなぐらいに暗い声を出したかと思ったら、勢いよく面を上げた彼女は上目に媚びるような姿勢をとった。「だから、大好きなみんなの為に教えてあげるね!」

黒幕は、【超高校級の絶望】が考えた“人類絶望化計画”について語り出す。

私たちが入学して一年、人類史上最大最悪の絶望的事件の影響で、希望ヶ峰学園は壊滅的なダメージを受けたらしい。それまで続いていた平和な学園生活は、あっけなく崩れ去った。

「そんな中で……あなた達だけが生き残りました。希望ヶ峰学園第七十八期生の……あなた達だけ」

江ノ島さんが私を一瞥した。ぞくりと背筋が冷え切った理由を探す前に、話は進んでしまう。

生き残った私たちを守るために、学園長の発案で、希望ヶ峰学園のシェルター化が始まったのは、その直後だったという。

江ノ島さんの言葉を引き継ぐように、苗木くんが奥歯を噛んだ。

「学園長は、希望ヶ峰学園をシェルター化する事で、ボクらを守ろうとしたんだ。外で起きている……絶望的事件から……。だからこそ、学園長は、ボクらにあんな約束をさせてたんだ。この学園で一生を過ごすかもしれない、なんて……」

「希望ヶ峰学園の学園長は、きっと、こんな風に考えていたのでしょう。あなた達のような次世代の希望さえ生き残れば、世界は、何度でもやり直せると……。そうです、学園長はあなた達に、そんな希望を託していたんですよ……」

「ボクら自身もそれを知ってたからこそ、同意……してたんだな……。“ここでの一生の学園生活”に……」

二人の会話に疑問が浮かんだ。顔をあげると、江ノ島さんと目が合った。まるで私が聞きたいことを知ったような顔で、待ち受けている。

「じゃ、じゃあ、なんで、私は否定してたの?私は、誰のことを、心配してたの……?」

久しく出した声は震えていた。形の良い唇がいびつな形に弧をえがく。

「それについては後ほどお話しましょう。飽きてなかったらね!」

本題に戻るべく、私を切り捨てた。今までよりも早口なのは、飽きてしまわないための工夫だろうか。彼女はシェルター化が学園長の最大の誤算であったと話す。

「うぷぷ……笑っちゃうよね。学園長のクセに知らなかったんだよ。ボクら“超高校級の絶望”が、すでに学園の中に存在してる事にね!」

私たちを守るはずのシェルターは、私たちを絶望から逃さない檻になってしまった。窓や入り口を封鎖したのも、私たちが外の脅威から身を守るため、自らやったことだと馬鹿にするように補足した。

「ちなみに、校舎が薬品くさかったのはみょうじさん対策。消毒して元々ある匂いをかき消すためにばらまいてたの。初めて解放される階に自分たちの匂いがあったら変でしょ?」

江ノ島さんがこちらを向いている気がした。私はそれに返事もせず、うなだれる。

「じゃあ、俺らは……自分達の手で……自分達を閉じ込めたんか……?」

「そんで、それを忘れて、勝手に騒いでたんだよ!閉じ込められたーってなぁ!!そして、そのシェルター化が完了した後は、ボクとむくろの出番……うぷぷ……コロシアイ学園生活の始まりって訳だよ……」

江ノ島さんと戦刃むくろは、この“コロシアイ学園生活”を人類絶望化計画のクライマックスにする為に、希望ヶ峰学園に潜入した。私たちと共に“平和でつまらない最低最悪な学園生活”を過ごしていたのだという。

「どうして……そこまでして……」

「これが、ただのコロシアイじゃないから」苗木くんの問いかけに、間髪入れずに答えを返す。「これは言わば、残党狩り。残ったすべての希望を終わらせる為のコロシアイなの」

外にはまだ、希望を捨てきれずにいる人がいるらしい。江ノ島さんはそんな人たちを「未練がましい」と罵った後、そんな人々を絶望に叩き落とす為にコロシアイを行ったのだと説明した。

希望の象徴である私たちが絶望に打ちひしがれ、殺しあう姿を見せつけるために、彼女はわざわざ電波ジャックをした。そうすることで残りの希望も潰そうとしたのだ。それこそが超高校級の絶望の本当の目的であり、人類絶望化計画のクライマックスなのだという。

「うぷぷ……テレビってスゴイっすね!!ちなみに、オマエラを助けようとする連中が、放送中に何度か押し寄せて来ましたが……」

「き、来てたの!?助けが!?」

朝日奈さんが遮るように叫んだ。江ノ島さんはそちらに見向きもせず、伊達眼鏡をかけ、フレームの位置を整えた。

「校門に設置した重火器によって、キレイに排除しておきました」

「は……い……じょ……?」

「あなた方のお陰です。希望を捨てられないあまりに実力行使に及ぶ、この上なく未練がましい連中に……最後の絶望である”死”を与える事が出来ました」

「ボク達を……利用したってことか……?外の人間に……絶望を与えるため……」

震える苗木くんの声を聞いて、ようやく黒幕の言葉が飲み込めた。彼女は私たちを餌に、正義感あふれる優しい人たちを、残酷に、害虫のように、一掃してしまったのだ。

間接的に人を死に追いやった事実が、私の指先を痺れさせた。投票の際、ボタンを押した感触がよみがえる。処刑されたクラスメイト達の苦痛に歪む表情も、生々しく脳裏にえがかれた。

「残党狩りにおおいに役立ってくれたみょうじさん」

振り返って見上げたら、すらっとした肌白い脚が見えた。それを徐々に上へとたどりながら、場違いにもモデルのような体型だと考えて、彼女がそうであることに気づく。ツインテールの少女は両手を腰に当てて威圧感たっぷりに見下していた。かと思うと腰を折って私を覗き込み、まるで友人にするように、親しげに声をかける。

「さっきの疑問に答えてあげるね!なまえちゃんが、シェルターから出たがってた理由だよっ!」

彼女は手を掴むと引っ張り上げて立たせた。軽く肩を押されて証言台に腰を預ける形になる。苗木くんが、警戒心をむき出しに私の名前を叫ぶ。江ノ島さんは一瞬、彼に向けて挑発的な笑みを浮かべると、真正面から私を抱きしめ、耳元で息を吹き込んだ。

「ねえ、苗木クンと付き合ってるんだってね……。おめでと!」

頭が真っ白になったのは私だけじゃない。周りから驚きの声が上がって、何故、彼女がそれを知っているのかと疑問を抱くことすらできなかった。

「やったじゃん、なまえちゃん!ずっと苗木クンのこと好き……じゃなかったけど!記憶をなくした学園生活でも苗木クンと付き合ってた……わけじゃないけど!!」

わざとらしく、フェイクを織り交ぜ会話を進める。江ノ島さんが翻弄したいのは、私ではなく苗木くんなのだろう。

「なまえちゃん、苗木クンのどこが好きなの?どこに惚れたの?どこに性的興奮を覚えたの?だってさあ、記憶を失う前の二人はぜーんぜん、ぜ――――んぜん、そんなことなかったんだよ?ただのつり橋効効果じゃないのかな〜?それってホンモノの愛って言えるのかな〜?」

「みょうじさんから離れろよ!」

表情を見なくてもわかるぐらい、苗木くんの叫び声には焦りがにじんでいた。身動き一つ取れず、なされるがままになっている私は、江ノ島さんから漂う化粧品の香りに酔い始めていた。

「でも本当にいいのぉ?ねえ、彼のことはどうするつもり?」

「か……れ?」

「そうだよぉ。二股?なまえちゃんってビッチだったんだね」

「な、なに……なんのこと……」

江ノ島さんが私の両肩をつかんで突き放した。かと思うと片腕を肩に回して支え、反対の手は周囲の注目を集めるように、高々と掲げてみせる。

「はい、注目〜!ここにいるみょうじなまえさんは記憶を失う前、大切で愛しくて大好きで大切な……あれ?大切って二回言っちゃった?あーん、あたしってドジ〜!……ま、それはともかく、彼女にはかれぴっぴがいたわけです!」

「か、かれぴっぴ?」

葉隠くんが素っ頓狂な声をあげた。途端に江ノ島さんが、「彼氏だよ、バーカ!もちろん苗木じゃねーからな!」と中指を立てた。

「だからこいつだけ学園シェルター化計画に反対してた……ってわけ。彼氏は外で危険な目にあってるかもしれないのに、自分だけのうのうと生きるなんて嫌だって、めそめそめそめそ泣いててさぁ。うざったいったらなかったよ」

全く身に覚えのない話を、他人の口から語られるのは気持ち悪い。否定しようにも、記憶がないので何も言えない。ただ固まって、違う、知らない、とうわごとのように呟いていると、突然手を離されて、バランスを崩した私は地面に転がった。苗木くんが私の名前を叫んで、駆け寄ろうとした。けれど、江ノ島さんが「裁判中に出歩くな!」と言い放つと、気圧されたのかそれ以上進めなくなった。朝日奈さんがしゃがみこんで私を支えてくれた。高圧的に腕を組んだ江ノ島さんが、可愛らしい笑顔を浮かべて私を見下ろす。

「でもねえ、わたし感謝してるんだよ?さっきも言ったけど、みょうじさんは残党狩りに役に立ってくれたからね!あんたの元カレさぁ、どうしようもなく面倒な【希望】の中毒者で。中途半端に賢いし、中途半端に人を引き付ける力もあるから、希望の残党まとめて厄介だったのよね。だから〜、手っ取り早く頭から絶望色に染め上げちゃおうと思って、その頭の彼女をコロシアイ生活に参加させました〜!ってわけなんだよ!」

私の前にしゃがみこんだ江ノ島さん。伸びてきた手にひるんだのは、朝日奈さんも同じだった。彼女の手は私の首元のリボンをつかむと、自らのほうへ引っ張りよせる。リードをひかれたような気持ちになった。

「あんたみたいなクソ犬入れたらゲーム的には不便だったのよ。【超高校級の探偵】みたいに、記憶にフタして能力忘れさせればどうにかなるってもんじゃないしぃ?でも、元カレはあんたを妙に神格化してる節があって、普通に殺しただけじゃ絶望に落とせそうになかったから、このコロシアイゲームであんたに対する“評価”を地に落とす必要があったってわけ。そしたら思ってた以上に効果てきめん、って感じ?あっさりほかの男にしっぽ振っちゃってさあ。今ごろ、信じてた彼女に裏切られたショックで、絶望に絶望を重ねて絶望落ちしてるだろうねー」

ぺらぺらとまくし立てられ、半分も理解できない。与えられた情報の量に、混乱は深まるばかりだ。私のことのように語られているけれど身に覚えはなく、何も言えずにただ江ノ島さんを見つめ返していると、あっけなく解放された。

「これできっと、希望の残党もだいぶ崩れたよね。まあ他にも色々派閥はあるっぽいけど」

彼女は身をひるがえすと、すぐに自らの証言台へ戻った。場を仕切りなおすように居住まいをただすので、朝日奈さんも焦った様子で私を立ち上がらせた。彼女に支えられながら、自席にしがみつくけれど、顔をあげて正面にいる苗木くんを見ることはできなかった。

私に、大切な人がいたかもしれない。

漠然とした事実だけが、私の気持ちを無暗に急かす。ただ、そこからどうすればいいのか、どうなればいいのか。どうすれば許されるのか。何一つわからないストレスに、全てを放り出して泣きじゃくりたい衝動にかられた。

「でもそれだけじゃないよ?ここの全校生徒を皆殺しにした時……生き残ってもらうメンバーにみんなを選んだ理由はね……、二年間を一緒に過ごした思い出って言うか……やっぱ、大切なクラスメイトだし…………ウソです。黒幕がクラスメイトだった方が、謎が解けた時の絶望も大きいと思っただけです……これが真実よ!あなた達が欲していた真実なのよ!どう、絶望したでしょう?謎が解けて絶望したでしょう!?」

「まさか、あなたは……謎が解かれる展開すら計算に入れて……?」

霧切さんが、絞り出すような声で問う。

「だとしたら、どうする?」

黒幕は自信たっぷりに、質問に質問で答えた。

「この絶望的状況を作り出すことこそ、最後の学級裁判を受けた私様の真意だったなら……、あえて、あなた達自身に謎を解かせ、絶望的な真相を見せつけることが真意だったなら……だとしたらどうするの?」

誰も、何も返さない。つい、顔をあげて霧切さんを確認すると、真っ青に青ざめて項垂れていた。口元に手を添えて、黙り込む彼女に、この学級裁判に挑んだ時のような威勢は残されていなかった。

「ほらね、真実が希望に満ちているとは、限らないんだよ」

江ノ島さんは、自らの額を片手で覆った。

「絶望に満ちた真実だって存在すんだよぉ!ちょうど、今みてーになぁ!!」

裁判場にこだまする高笑いを聞きながら、私は証言台についたてを固く握った。

二年間、共に過ごしたクラスメイトたちと、殺し合いをさせられた私たち。それも、世界が終わった今となっては無意味な動機を理由にして。

必死にあらがおうとしてきた。頑張って生き残ろうとしてきた。それで、信じたいと思える人に出会えた。

しかし、それさえ誰かの絶望になっていた。私の、苗木くんと頑張りたいという気持ちが、誰かを地獄に突き落としていたんだ。

「も、もう……わかったべ……」葉隠くんが、涙で顔をぐしゃぐしゃにしながら呟いた。「オメーがスゲーのは……もう十分過ぎるほどわかったから……だから、もう助けてくれよ!なんでもするから助けてくれって!!」

証言台にすがりつくようにうずくまった葉隠くんが泣き叫ぶ。そんな彼に冷静な視線を向けた江ノ島さんは、すぐに輝かしい笑顔を浮かべた。

「なるほど、それが人間の命乞いね!さすがの私様も初めて見るほどの無様さだわ!」いつの間にか投げ捨てていたモノクマを、顔の前で抱きかかえる。「でもね、ボクに命乞いは通じないんだよ。ボクは、ただ純粋に絶望を求めているだけなんだ。そこには、一切の理由がないんだよ。理由がないから対策も出来ない……理由がないから理解も出来ない……。対策も理解もできない理不尽さ!それが、【超高校級の絶望】なんだよ!」




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160902