ここほれわんわん | ナノ
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霧切さんのアイディアに、さすがの苗木くんも困惑を隠せずにいるようだった。彼女の真意を確かめるように、凝視している。

「し、死体が勝手に動いたってことぉ!?」

「まあああた……ゆゆゆゆゆゆゆ幽霊かッ!!」

目に見えて動揺した朝日奈さんと葉隠くん。そこに喝を入れたのは、十神くんだった。

「オカルト話がしたい訳じゃないだろう。そこの女が言ってるのは……死んだと思われていた山田が、実は生きていた可能性があるということだ」

「や、山田くんが!?」

「い……生きてた!?」

私の声と朝日奈さんの叫びが重なった。大神さんが勢いづいた様子で、「山田は保健室から運ばれた訳ではなく、自らの足で動いたというのか?」と問いかける。

「じゃあ、私たちが保健室で見つけた山田の死体って、なんだったの?」

朝日奈さんが思い出したのか、泣きそうになりながら問いかける。十神くんが眼鏡の位置を正しながら、「死んだフリ……ということになるな」と、誰とも視線を合わせないまま呟いた。

「そんな事……あり得ませんわ」

「そうだよ、あの時、山田くんはたくさん血を流してて――」

「ええ。あの時の山田くんは、間違いなく死んでいましたわ」

私がセレスさんの言葉を肯定すると、彼女はさらに強い同意で、確固たる自信を示した。

「どうして断言できるの?」

霧切さんの問い詰めるような質問に、私は黙り込んだ。しかしセレスさんは饒舌に言葉を返す。

「あなたも死体発見アナウンスを聞いたでしょう。あれは、山田くんの死体を発見したからこそ、流されたアナウンスのはずですよ」

「あの時の死体発見アナウンスって、山田くんの死体を発見したせいで流れたものなのかな?」

異論を唱えるように遮ったのは、苗木くんだ。セレスさんは表情一つ変えず、「当然ですわ。だって山田くんの死体を発見した直後に、あのアナウンスを聞いたのですよ?」と言った。

「でも、それは、石丸くんの死体を発見した人達も同じだったはずだよ。つまり、ボクたちは勘違いしてたんじゃないかな……?石丸くんの死体発見アナウンスを、山田くんの死体発見アナウンスだとさ……」

十神くんが苗木くんの推理を裏付けるように、「死体が二つ見つかったのなら、アナウンスも二回流れるはずだ」と意見した。

これにセレスさんは、モノクマが横着して一度にまとめた可能性を提唱する。十神くんが横目にモノクマを睨みつけ、「その点に関してはどうなんだ?」と尋ねる。振り返って十神くんの視線の先を確認すると、モノクマが立派な椅子にこしかけ、考え込むように頭を垂れていた。しかし、やがて「とってもセンシティブな問題だから詳しいことは言えないけど」と前置いて、死体発見アナウンスは、三人以上の人間が、その死体を最初に発見した時だけ流れると、いつだったかと全く同じように説明した。

「答えになってないべ。俺等は横着したかどうかを聞いてるってのに……!」

はぐらかされたと感じたらしく、葉隠くんが困り切った表情になった。

しかし十神くんは、「いや、今ので十分だ」と言い切った。狐につままれたような顔つきになった葉隠くんに、淡々と説明する。

「死体を“最初に発見した時だけ流れる”ということは……同じ死体を何度発見しようと、死体発見アナウンスは流れないということだな。だとすると、あの時の死体発見アナウンスはどうして流れたんだろうな……?」

今回の一連の事件で、私たちは、二度、死体発見アナウンスを聞いていると、苗木くんが話した。一度目は保健室と物理準備室で同時に死体を発見した場面で、二度目は、美術倉庫で二人の死体を再発見した時だった。

「あの時はアナウンスまでに気が回らなかったけど……これって、モノクマの言葉と矛盾してるよね?」

“死体を発見した時だけ”流れるのなら、死体を再発見した時に流れるわけがない。私たちが二人の死体を“再発見”した時、どちらか片方の死体は、実は“初めて発見された”状態だったと、推理することができる。

つまり、最初に保健室で発見された時の山田くんは、まだ死んではおらず、私たちが本当の意味で彼の死体を発見したのは、美術倉庫の時だった、というのがたどり着いた結論だった。

「保健室の山田くんが生きていたと考えられる根拠は、他にも存在するんだよ」

さらに苗木くんが挙げたのは、保健室と、美術倉庫で見つけた時の山田くんの、眼鏡の変化だった。最初に、保健室で山田くんの死体を見つけた時、彼のメガネは血で汚れていたが、美術倉庫室で再発見した時には、山田くんのメガネは綺麗になっていたそうだ。

「あっ、それって――」思わず口を挟む。みんなの視線が集まって、緊張に体が強張りかけたけど、勇気を出して言葉を続ける。「――私、見つけたかも。保健室で」

何を見つけたの?と興奮気味に苗木くんに聞かれ、山田くんの匂いがする、血の付いたキャラクターもののメガネ拭きを、保健室のゴミ箱から見つけたことを伝えた。

「それって、今も持ってる?」

「えっと、セレスさんが……」

私の発言で、みんながセレスさんを見る。彼女はしばし沈黙した後、やがて緩慢な動作でメガネ拭きを取り出した。

「そのメガネ拭きのキャラクターって、山田くんが持ち込んだデジカメと同じだよね?」

「『外道天使☆もちもちプリンセス』の、プリンセスぶー子……だったよね?」

苗木くんの疑問に、朝日奈さんが自信なさげに答えた。

「みょうじさんも山田くんの匂いがするって言ってるし、こんなメガネ拭きを持ってたのって、山田くん以外にはいないと思うんだけど……」

彼の言葉を聞いた大神さんが、「この中でメガネを掛けているのは……」とつぶやくと、間髪入れずに十神くんが「俺は、そんな安物使わん」と答えた。ジェノサイダーも、「アタシのメガネ拭きは、ティッシュで十分よ!!」と言い放つ。

このメガネ拭きは山田くんのもので間違いない、ということになった。つまり、山田くんのメガネについていた血が、彼のメガネ拭きで拭かれたということだ。

セレスさんが、山田くん本人が拭いたとは限らないと否定したが、メガネをキレイにして得するのは、メガネを掛けている本人以外考えられないと苗木くんが主張した。大神さんも葉隠くんも同意し、霧切さんが、やはり保健室で見つかった時点の山田くんは生きていた、ということを結論づけた。

「どう?それなら可能でしょう?不可能に思えた彼の死体運搬も……」

霧切さんはそう言うと同時に、先ほど私が言った、たくさんの血液についても解説してくれた。保健室の冷蔵庫に、輸血用の血液が保管されていたので、それを利用したのではないかということだった。

山田くんが生きていたという事実の発覚で、一気に話合いが動き出す。苗木くんが、石丸くんの死体を運搬したのも、山田くんではないかと推理したのだ。私たちが保健室に集まっている隙に、物理準備室の石丸くんを動かしたのは、彼以外に考えられない。

「そうなると、美術倉庫に鍵がかかってた件にも説明がつけられそうだね」

みんなで消えた死体を捜索することになって、大神さんと朝日奈さんは真っ先に美術室を調べに行った。その時、内側からしか鍵をかけられないはずの美術倉庫の鍵がしまっていた。朝日奈さんたちが美術倉庫に行った時、中には誰か人がいたということになる。

「石丸の死体を運んだ直後の山田がいたということか……」

「彼は死んだフリをすることで、みんなを欺き、その隙に、石丸くんの死体を美術倉庫まで運んだのよ……」

「ま、まって。それじゃあまるで」

十神くんと霧切さんの出した結論に、冷や汗がにじんだ。私の震える声を気にした様子もなく、霧切さんは、はっきりと答えを口にする。

「ええ。つまり、山田くんは単なる被害者じゃなく、事件に関与していたのよ」

彼女の考えを耳にした途端、皆の表情に動揺が走った。

「そんな、山田くんが、事件に関わってたなんて……信じらんないよ」

うわ言のように呟くと、霧切さんは、どこか勝ち誇ったような表情で、「信じられないなら、もう一つの根拠を見せてあげましょうか?」と言った。それを聞いて、ハッとした表情になったのは苗木くんで、「霧切さんが言ってるのって、山田くんが隠し持ってたメモのことだよね?」と尋ねた。

朝日奈さんが「隠し……持ってた……?」と、震える声で繰り返した。問いかけられた霧切さんは、「ちょっと待って。苗木くん」と彼を制して、私を振り返った。

「みょうじさん。この匂いを確認してもらえるかしら」

彼女はポケットからくしゃくしゃに丸められた紙切れのようなものを出す。私は自分の場所を離れ、彼女の元へ駆け寄った。受け取って、鼻をつけて匂いを嗅ぐ。間違いなく山田君の匂いがした。わずかに、石丸くんの香りも付着している。

「山田くんの匂いがする。ほんのちょっとだけ、石丸くんの匂いもするよ!」

「そう……間違いないわね」

不敵な笑みを浮かべた霧切さんに、紙切れを返す。私が自分の場所に戻ったのを確認すると、苗木くんが少し言いづらそうに言葉を続けた。

「そのメモは……死んだ山田くんが、パンツの中に隠し持ってたんだ」

「ぱっ」

「あいつの……!?」

「……パンツに!?」

「ふむ……パンツか……」

葉隠くんが、「みょうじっち、山田っちのパンツの匂いを思い切り嗅いでたべ!」と叫んだ。私は恥ずかしくなって、隠れるようなつもりで、マスクをつけ直した。

「パンツは置いといてさ……メモの中身を見てくれるかな?」

苗木くんが困り顔になって、それぞれの反応を示した女性陣をなだめた。

言われて、霧切さんが差し出したメモに注目する。

『抜け道らしき穴を見つけた。外が見える。ここから出られるかも……。モノクマに勘付かれるとまずいから、みんなに内緒で早朝六時に物理準備室に集合』

「あ、俺が言ってたメモってこれだべ!!俺はこのメモで呼び出され……って、あれ?微妙に違うな。確か、俺が受け取ったメモだと……『モノクマに勘付かれるとマズイから、みんなに内緒で深夜一時に娯楽室に集合』って……」

勢いづいた葉隠くんが、途中で首を傾げた。苗木くんは頷くと、「そうなんだ。このメモは葉隠くんが受け取ったのとはまったく別の物なんだ」と答える。

「まったく……別……?」

「つまり、葉隠くんと同じように、犯人に呼び出された人物が、もう一人いたんだよ」そこで苗木くんは一呼吸置く。「それは、石丸くんだよ。このメモで、犯人に呼び出されたのは、殺された石丸くんだったんだよ!」

呼び出し時間の「早朝六時」は、腕時計が壊れた時間と一致している。メモに書かれた集合場所――物理準備室も、石丸くんが殺害された場所なので、間違いないというのが、苗木くんの主張だった。

「じゃあ、石丸っちは……俺と同じように、そのメモで騙されたんだな……。ぐぅ……極悪非道で血も涙もない冷血無比な犯人だべ!“外が見える”なんて言葉で人を騙しやがって……!」

怒りで顔を真っ赤にして、葉隠くんが唸った。

「でもさ、どうして山田は、石丸に渡されたメモなんて持ってたの?」

「しかもパンツに!!」

朝日奈さんの疑問に、ジェノサイダーが乗っかる。

「それは……きっと山田くんが、死んだ石丸くんから奪い取ったからだよ」

「え?奪い取った……?」

「その根拠はなんだ?言ってみろ」

苗木くんと朝日奈さんのやり取りに、十神くんが割り込む。相変わらず高圧的な態度だったけれど、苗木くんは気にした様子もなく、自分の考えを話し始めた。

「死んだ石丸くんの手には、小さな紙切れが握られてたんだけどさ……ボクの考えに間違いがないなら、この紙切れの切り口は……」

彼は霧切さんの元へと駆け寄った。彼女も、彼がしようとしていることを理解しているようで、何の言葉も交わさずに、自然な動作でメモを預けた。

苗木くんは預かったメモと、自分の持っていた紙切れを、重ね合わせる。

「思った通りだ!山田くんが隠し持ってたメモと一致したよ」

「じゃあ、石丸が握ってた小さな紙切れと、山田が隠し持ってたメモって……」

朝日奈さんが瞬く。苗木くんは、自分の場所へ戻りながら答えた。

「そう、元は同じ一枚の紙だったんだよ」

「石丸くんに手渡されたはずのメモを、山田くんが持っていて、その石丸くんの手にはメモの切れ端だけが残されていた……この状況に説明を付けられる可能性は、一つしかないはずよ」

「石丸はメモを握りしめたまま死んだ。山田は、そのメモを石丸の手から奪い取ろうとし、その際、破れた紙の切れ端だけが、石丸の手の中に残ってしまった。……そういうことか?」

「だとすると、山田はそのメモが重要な証拠だと知っていたことになるな……」

大神さんと十神くんが、霧切さんの言葉に唸った。にわかには信じられないようで、表情が強張っていた。

霧切さんだけが、平然と事件のあらましを語る。彼女はいつもと同じで、数手先まで見通したような顔つきだった。

「そう……それが根拠になるのよ。山田くんが事件に関与していた事のね……」

「な、なるほど……!これだけの材料が揃えば間違いないべ。山田っちは、今回の事件に深く関与しとったんだ。というか……犯人は山田っちだべ!!実は、あいつは今も生きてるんだべ!」

「……いや、それはないよ」

苗木くんは、葉隠君の意見を真っ向から否定した。美術倉庫で見つけた山田くんが死んでいるのは、確かなことで、二回目に流れた死体発見アナウンスが、その証拠だと解説した。

つまり山田くんは、真犯人に殺害されたということになる。霧切さんの推理によると、現場は美術倉庫で、石丸くんの死体を運んだ直後に殺されてしまったらしい。

「では、あいつは、石丸の死体消失から、二人の死体が再発見されるまでの間に殺されたのだな」十神くんが人差し指を顎に添えて考え込む。「その間、俺たちは手分けして、消えた死体の捜査をしていたはずだ。つまり、俺たち全員のアリバイがない時間帯だ……」

何が楽しいのか、薄い笑いを浮かべた。朝日奈さんが、途端に食ってかかる。

「でも、私とさくらちゃんは一緒だったよ!」

「あ……!そしたら、苗木くんも私と一緒にいた!」

「さりげなく、アピってんじゃねーぞ!!このスットコオットセイどもがッ!!」

ジェノサイダーがハサミを取り出し、私たちに向けた。怯んで悲鳴をあげた私とは対照的に、朝日奈さんは「誰がスットコオットセイよッ!!」と叫び返していた。

「つーか、殺された時間帯もそうだけど、もっと気になることがあんべ!」

意外にも、脱線しかけた裁判を正したのは葉隠くんだった。

「山田っちは、どんな凶器で殺されたんかなーって。だってよ、モノクマファイルによると、石丸っちと山田っちは、同じような凶器で同じように頭をかち割られてたらしいけど……でもよ、3号のハンマーも4号のハンマーも、保健室と物理準備室に落ちたままだったはずだべ?」

葉隠くんの言葉に、私もハッとする。

「そっか!山田くんが美術倉庫で殺されたってことは……犯人はどっちかの部屋からハンマーを持ち出して、それで美術倉庫にいる山田っちを殺した後、また、その部屋にハンマーを戻したってことになるよね?」

「みょうじっち、そう!そうなんよ!……でもよ、それって危険すぎねーか?」

葉隠くんと私が同時に首をかしげると、聞いていた十神くんが鼻で笑う。

「……こいつは驚いたな。お前らの頭蓋骨の中にも脳みそがあったとは……」

「ギュンギュンに詰まってるべ!!」

「わ、私だって、たぶんあるよ!」

「だが、葉隠たちの言う通りだ。確かに気になるな……」

同意してくれたのは大神さんだ。モノクマファイルを確認し、頭を悩ませる。

「犯人はそれらのハンマーをどうやって持ち運んだのでしょう?見当も付きませんわね……」

頭のいいセレスさんでも、お手上げのようだった。朝日奈さんが1号や2号の可能性を提唱したが、これは苗木くんが、あのサイズのハンマーに人を殺せる威力はないと否定した。

議論が行き詰まりかけた時、十神くんが、それ以外の凶器の可能性をあげた。葉隠くんが、モノクマファイルに「同じような凶器」と書かれている以上あり得ないと否定したが、途端に苗木くんが、閃いたように「そうか、分かった!」と叫んだ。

「美術倉庫のハンマーだよ!犯人はあれを凶器に使ったんじゃないかな?美術倉庫に残されたハンマーは、どれも石の破片や粉なんかが付着してたんだけど……その内の一つだけが、なぜかキレイに洗われてたんだよ」

「洗われてた……?」

「きっと、そのハンマーが洗われたのは、それが山田くんを殺した本当の凶器だったからだよ。犯人は、凶器に付着した血痕を洗い流すために、わざわざハンマーを洗ったんじゃないかな?」

苗木くんが、みんなに同意を求めるように、一人ひとりの顔色を確認していく。

「しかも美術倉庫の壁には、大小様々なハンマーが掛けられてたんだけどさ、その内のいくつかは、歯抜けになってたんだ。ジャスティスハンター自体も、ここのハンマーを元にして作られたんじゃないかな?」

「であれば、同じような凶器という条件も一致するな」

「では、山田は石丸の死体を美術倉庫まで運んだ直後、その場にあるハンマーで殺されたのか……」

大神さんと十神くんが、苗木くんの考えに同意を示す。朝日奈さんが、愕然とした表情で、「それをやったのが真犯人……山田と共犯で、最終的に裏切ったヤツ……」と呟いた。だんだんと明らかになる事実に、翻弄されているように見えた。

ここで、セレスさんが口をはさむ。彼女の疑問は、共犯者など存在するのか?というものだった。

誰かの殺人を手伝ったところで、その人は卒業できないのだから、共犯者の可能性はない、というのがセレスさんの主張だった。

みんなが納得しかけた時、苗木くんが、「でも」と否定する。「今回は二つの事件が起きてたんだ。だったら、共犯関係は成り立つんじゃないかな?」

「それって、どういうこと?」

そろそろ話し合いの内容に追いつけなくなってきた。キャパオーバー気味の頭を抱えて彼にすがるような視線を向けると、霧切さんが口を開いた。

「共犯者の存在が考えられないのは、起きた事件が一つだった場合の話よ。当然よね、一つの事件で助かるのが一人だけなら、共犯したところで、天秤作用が成立しないもの」

「天秤……?」

「天秤作用?」

会話についていけない自分はなんて馬鹿なんだ。そう落ち込みかけたのだけれど、今回ばかりは苗木くんも首を傾げていた。それを見て安心している間に、霧切さんは解説を続ける。

「その仕事と釣り合う額の報酬……殺人を手伝っても助からないんだったら、共犯する意味なんてない……。でも逆に、その天秤作用さえ成立すれば、誰かと共犯関係になることは不可能ではないわ」

「二人の犯人が二つの殺人を犯し、互いの殺人の共犯者になればいい……ということか」

十神くんが納得した様子で頷いた。霧切さんはさらに続ける。

「真犯人は、その計画を山田くんに持ちかけたのよ。自分の犯行の共犯をさせる為にね……。おそらく、最初に石丸くんを殺したのは、山田くんだったはずよ。先に、彼に殺人を起こさせ、逃げられなくした上で、自分の計画を手伝わせたんでしょうね」

「つまり、今回の事件は一人の犯人による連続殺人なんかじゃなくて、二つの犯人が起こした、二つの事件だったんだよ。その後、一連の連続殺人に見えたのは、全て犯人の偽装工作によるものだったんだ」

顔を隠した不審者、似たような凶器、そして死体消失……。苗木くんは次々と事件の共通点をあげ、真犯人が、一連の犯行が同一犯によって行われていると見せかけようとしていることを指摘した。

「犯人はその計画を共犯者に持ちかけ、そして、共犯者を得ることに成功し……最後にその共犯者を殺すことで、一番の懸念材料も消し去ったという訳か。となると、山田を裏切ったのも、当初からの計画通りだったんだろうな……」

「なんなの、その計画って……!いくらなんでも残虐すぎるよ!!」

犯人の計画を推測した十神くんに、朝日奈さんが青ざめる。しかし、十神くんは、「そうか?なかなかよく出来た計画じゃないか。共犯者の人選は別だがな」と皮肉った。

「共犯者の存在が成り立つことはわかったが……では、山田を操っていた真犯人とは何者なのだ?」

大神さんが、核心に迫る。皆が息を呑み、互いの顔を見合わせた。

「わたくしは、みょうじさんが怪しいと思いますわ」

突如として挙げられた自分の名前に、呼吸を忘れた。声のした方を振り向くと、セレスさんが微笑んでいる。

それは、私が「裁判が終わったら、ロイヤルミルクティー淹れるね」と言った時に応えてくれたものと全く同じだった。

上品で美しい、西洋の人形のような微笑が、針となって突き刺さり、そのまま血液の流れに乗って、私の核の部分へと触れた。




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141013