ここほれわんわん | ナノ
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絶対にアルターエゴを見つけ出して、みんなの役に立ってみせる!

意気込んで、いつもより早く食堂へ向かうと、朝日奈さんと大神さんがいた。こんな日も欠かさずトレーニングをしていたという二人の話を聞き、尊敬の念を抱く。なんでもない雑談から、此処から抜け出す方法まで、三人でとりとめなく話した。

途中、霧切さんが入ってきた時は、少しだけ心臓が跳ねた。朝からしっかりつけてきた香水の匂いが、辺りの空気と交じって停滞している。「似合わない」と言われてなお、この香りを身にまとう私は、彼女にとって不快かもしれない。

霧切さんは朝日奈さんと大神さんのあいさつに返事だけすると、少し離れた席を選んで、腰をかけた。

「……あれ?」

話しに夢中になりすぎていて、モノクマのアナウンスで我に返った。

時計を見ると、確かに七時を示していた。がらんとした食堂を見渡して、朝日奈さんと目を合わせる。

アナウンスと同時に入ってきた苗木くんが、食堂にいるメンバーを見て、怪訝そうな表情をした。

「これだけか……?他の連中はどうした……?」

「……来ないね」

大神さんの言葉に、朝日奈さんが浮かない顔で返した。苗木くんは、私達三人と、霧切さんの間ぐらいの席に座る。

「たった五人……だけ?」

「もうっ!これだから時間にルーズな連中は困るんだよッ!」

困ったような苗木くんの問いかけに、朝日奈さんが憤慨した。

私は、先ほどからたいして変わらない時計を見上げた。

「ともかく、他の連中が集まるまで、もう少し待つしかあるまい……」

大神さんの提案に、誰も反論しなかった。

ぽつぽつと会話をしながら、時間をつぶしていたけれど――。

「ねぇ、もう八時だよ……。集合時間から一時間も経っているのに……」

「……なぜ誰も来ない?」

朝日奈さんの不安気な言葉に、大神さんが続く。

さっきまでとは打って変わり、二人から、怒りの感情は消え失せていた。

「セレスさんなんて、今まで休んだことなかったよね?」私が聞くと、朝日奈さんが、「葉隠もね」と付け足してくれる。

「それに、もっと気になるのは、山田くんと石丸くんだよ。あんなに捜査をやる気だった二人が、揃って来てないなんて……」

苗木くんが落ち着きなく立ち上がった。椅子を引きずる音が、もう一つ続く。

「……何かあったわね」

二番目に立ち上がったのは、霧切さんだった。振り返った私たちに、表情を変えないまま言う。

「うかつだったわ……アルターエゴに気を取られ過ぎてた。モノクマが動機を掲示して、それで何事もなく終わるなんて……そんなはずないのに」

「モノクマが用意した動機って……」

思い出すのは、体育館に積み上げられた大量の札束だった。

「お金のためなんかに……?」

思わずこぼした言葉。すぐに自分の過ちに気づいた。

今までだって、他人の考えを、全く理解できなかった。今回だって、何が起こるかなんて、わかりっこない。

「捜しに行った方がいいわね。来ていない、みんなを……」

「そ、そうだね。ちょっと様子を見に行こうか……」

霧切さんの提案に、おずおずと朝日奈さんが立ちあがった。私も続いて起立する。

「手分けして捜したほうがよさそうね……」

食堂から出るや否や、霧切さんが言った。今まさに、考えなしに駆けだそうとしていた私は、すぐさま足を止め、指示を待つ。

「大神さんは寄宿舎をお願い。みんなの個室を回ってみて。それと、苗木くんは学校の一階を捜して。私は学校の二階を捜すから……」

「じゃあ、私は学校の三階だね」

朝日奈さんが即答した。私は頭の中に学校内の地図を思い浮かべ、残っている場所を思い出そうとした。

「えっと、私は……」

ところが、もうすでに分担が終わっていることに気づき、うろたえる。まさかここでお留守番なんてことは、と不安になった矢先、霧切さんが私に鋭い視線を向けた。

「みょうじさんは、自由に動いてくれて構わない。匂いをたどって。誰かの匂いや――血の匂いがしたら、そちらへ真っ先に行って」

ごくりと喉がなる。血の匂いがすることなんて、なければいい。そう願うけど、その可能性がないことは、完全に否定できなかった。

「無理しないでね。何かあったら、すぐに誰かを呼ぶのよ……」

一足早く背を向けて、霧切さんが誰に言うでもなく呟いた。私は慌ててその後を追い、学校エリアに駆けだした。

マスクを外し、廊下の奥にある階段を目指して走る。

セレスさん、葉隠くん、石田くん、山田くん、腐川さん、十神くん……。

食堂にいなかったメンバーの名前を口の中で繰り返し、その匂いを嗅ぎ漏らさないよう、思い切り息を吸い込んだ。しかし、セレスさんの匂いが強く漂うばかりだった。

朝起きてすぐ、彼女に貰った香水をつけたことを後悔した。他の人の匂いを識別することはなんとかできるけど、これでは、セレスさんを見つけてあげることはできそうにない。

「みょうじさん!」

背後から声をかけられて振り返る。息をきらした苗木くんが、追いついてきた。

「ここまできて、どう?一階に何か変化はある?」

「わかんない、少なくとも人の気配はなさそう……。今から体育館に行くつもりで」

「そしたら、ボクは保健室を見るよ」

廊下で別れ、それぞれの部屋に入る。体育館は不気味なほど静まり返っていて、人っ子一人いなかった。モノクマが積んだ札束だけは、未だに残されている。その光景が、奇妙だった。

私は駆け寄って、舞台上に飛び乗った。鼻を近づけ、地べたを這いつくばって、そこに誰かの匂いがないかを確認する。しかし、他の人が近づいた形跡は見られなかった。お金が本物か確認したり、一枚ぐらい貰ってしまおうと考えたりした人はいないようだ。

「やっぱり、お金が動機になる人なんていないんじゃ――」

「だ、誰かぁ―ッ!来て―ッ!!」

独り言を遮ったのは、遠くから聞こえた朝日奈さんの叫び声だった。考えるより先に壇上から飛び降りると、体育館を突き抜けて、学校エリアの廊下へ飛び出した。

ちょうど保健室を出た苗木くんが、階段の角を曲がる瞬間を見た。その後に続き、彼女がいるはずの、三階を目指して、二段抜かしで駆け上る。

「朝日奈さん、どうしたの……!?」

「な、苗木……!みょうじちゃんも!」

苗木くんから数秒遅れて到着すると、朝日奈さんが私たち二人の姿を見て、今にも泣き出しそうな声で叫んだ。その表情は青ざめていて、私の心臓がバクバクと鳴り響く。全力疾走のせいもあるけれど、嫌な予感が拭えない。

「た、大変なの……そこの娯楽室のドアが開いてて……な、中を覗いたら……」

彼女は私達と娯楽室を交互に見ていた。妙な距離を置いて、室内へ入ろうとしない。嫌な予感がどんどん膨らんでいく。セレスさんの香水の香りが強くなった。

「みんなの事……呼んできた方がいいよね……?私、みんなを集めて来るから……苗木たちは先に行ってて……!」

朝日奈さんは言い終わる前に、転がる勢いで階段を下りて行った。

苗木くんは、躊躇せずに娯楽室へと飛び込んでいく。私は、本当のところ、中を見るのが怖ったけれど、恐る恐る近づいて、そっと娯楽室へ踏み入れた。

「うぅ……苗木くん……!」

「セ、セレスさん……どうしたの!?」

入り口に立った私が目にしたのは、床に倒れこんだセレスさんと、それに駆け寄る苗木くんの姿だった。それを見た瞬間、弾けるように走り出していた。

「セレスさん!!」

彼女の傍に、勢いよく飛び込んだせいで、膝をしたたかに地面へと打ち付けてしまった。

「セレスさん、大丈夫!?」

「う、うかつでした……襲われてしまいましたわ……」

「襲われたの!?誰に!?」

セレスさんを助け起こした苗木くんが目を丸くして声を上げる。

「妙な不審者でしたわ……存在自体が妙である不審者に、“妙な”という形容詞を付けたくなるほどの……まさに“妙な不審者”でしたわ……」

苗木くんに背を支えられたまま、震える腕を伸ばして、一ヶ所を指差した。

「わたくしは、そんな妙な不審者に襲われたのです。そこに落ちている“ハンマー”で」

私たちは彼女の示す先を同時に振り返った。確かに、ハンマーのようなものが、床に転がっていた。ハンマーのようなもの、というのは、それが妙なデザインをしているからだ。セレスさんを支えていて動けない苗木くんに代わって、私はそれを拾いにいく。そして、二人の下へ駆け戻ると、一緒になって見下ろした。

「ジャスティス……ハンマー……1号?」

木槌の先端の塊の部分に、ポップなロゴでそう書かれていた。声に出して読み上げた苗木くんでさえ、訝しんでいる。

「そのハンマーで……襲われたのです。間一髪のところで避けたのですが、その際に転んでしまって……。日頃の運動不足が……たたりましたわね……」

「セレスさん、怪我は――」

私が問いかけようとしたその時、娯楽室の扉が勢いよく放たれた。

「苗木、みょうじちゃん!さくらちゃんを連れて来たよッ!」

飛び込んできたのは朝日奈さんだった。後から続いて部屋に入ってきた大神さんが、倒れたセレスさんを見て、表情を歪める。

朝日奈さんはセレスさんが起き上がっているのを見て、安堵の息をつく。どうやら彼女は倒れこむ仲間の姿を見て、殺人が起きたと早とちりしたようだ。

「セ、セレス……一体どうしたというのだ……?」

問いかけられた彼女は、ようやく詳細を語りだす。苗木くんの手を借りて立ち上がり、いつものように、とまではいかなくとも、背筋を伸ばした。

セレスさんは今朝、七時の少し前に目が覚めた。もうすぐ夜時間も明けるから、少しくらいいいだろうと考え、学校の一階を散歩していると、顔を隠した不審人物がいた。見るからに怪しいと思い、セレスさんはこっそり後をつけることにした。不審者が娯楽室に入っていくので、様子を窺おうとするものの、見つかってしまい、襲われてしまったそうだ。

「ってことは、セレスさんが襲われたのは……」

苗木くんが壁時計を横目に見た。

「わたくしが襲われたのは夜時間が明けた直後……朝の七時過ぎでしたわ」

「今から一時間ぐらい前か。我らが食堂に集まった頃だな」

「わたくしは襲われた際に気を失ってしまいました。そこから今まで……一時間ほど気を失っていたようです」

げんなりとした表情で頭を抑えたセレスさん。朝日奈さんが、そんな彼女を観察して、柔らかい声で言った。

「でも、軽傷で済んでよかったよ……」

「全力で命乞いをしましたから……。『本当になんでもしますから、命だけは助けて下ください……舐められる所は全部舐めますから助けてください……』と」

「見事なプライドの捨てようだ……」

感心した様子の大神さんに、セレスさんは、いつものような笑みを浮かべた。

「これも、生き抜く為の術ですわ。――そんな事より、すぐに不審者を捜しましょう。急がないと……大変なことになりかねません」

「大変なこと……?」

引っ掛かりを感じて疑問を投げかけると、待っていましたとばかりに彼女が続ける。

「わたくしが娯楽室を覗いた時、そこには、不審者の他にもう一人いたのです」

一呼吸置いた彼女が、手を重ね、胸の辺りに置く。

「山田くんでした……」

「や、山田くんが!?」

みんなの表情が険しいものになる。セレスさんは、普段のポーカーフェイスからは想像もできないほど、眉間にしわを寄せた。

「しかも、その不審者はわたくしを襲った後、山田くんを連れ去ってしまったのです……」

「さらわれたという事か!?」

大神さんが吠えるように確認する。静かに頷く彼女に、朝日奈さんが焦りを露わにした。

「急いで探したほうが……よくない?ねぇ、セレスちゃん、その不審者って、何か特徴があった?」

「何か匂いとか、した!?」

食いつくように私も問う。セレスさんは考え込むように、斜め下へと視線を落とした。

「特徴……それは……。匂いは分からないのですが……口で説明するより、見て頂いた方が早いかもしれません」

彼女がそう言って差し出したのは以前、山田くんからもらった、おもちゃのようなデジカメだった。

「驚かないでください。……と言ったところで難しいかもしれませんが」

そんな妙な前置きの後に見せられたデジカメの画像には。

「ええええええッ!?」

苗木くんと朝日奈さんが叫び声を上げた。

私も、唖然とする。

山田くんを襲う不審者は、確かに顔を隠しているが、想像していたものとは、まったく違っていた。

「ロボ……?コスプレ……?」

朝日奈さんが目を丸くする。彼女の言葉の通りだった。

隠されているのは顔どころではなく、全身だった。それも、アニメに出てきそうな、ロボットの格好で。

表情も何もない、大きな体のロボットが、山田くんを背後から羽交い絞めにしようとする姿は、かなり不気味だった。

「えっと、この変なロボに……山田くんは連れ去られちゃったの……?」

「しかも、その画像を撮ったのは、わたくしが襲われた時……つまり、一時間も前なのです」

「じゃ、じゃあ急がないと……!」

セレスさんが言っていた、「大変なこと」を想像して青ざめる。変わり果てた姿になった仲間たちを思い出しそうになって、慌てて意識の外へはじき出した。

「セレスさん、不審者はどこに行ったか分かる?」

「娯楽室を出て左正面に進んで行ったので……」

「左正面となると、二階に降りる階段だな!!」

苗木くんの質問に答えようとしたセレスさんの言葉を引き継いだのは、大神さんだった。

「じゃあ、不審者は二階に!?」

「二階って……霧切ちゃんが捜索しているはずだったよね……」

どくんと、心臓が脈打った。反射的に部屋を見渡すが、いつも冷静に、成り行きを見守っているはずの彼女の姿は無かった。

「あれ……?そう言えば霧切さんは?」

「ごめん、私もまだ二階の方は見てないよ……」

朝日奈さんが謝罪する。苗木くんも、私と同じことを想像しているらしい。だんだんと、空気が重たいものへと変わっていく。

「マズイな。犯人が二階にいるなら、鉢合わせになっていてもおかしくない……」

「……急ごう!霧切さんが危険だよ!」

言い終わるより前に、苗木くんが駆け出した。我に返ったように、朝日奈さん、大神さんが続く。私も一緒に走り出しそうになって、背後のセレスさんを思い出した。

「セレスさん、歩ける?!」

「ええ……なんとか」

「こっちきて!」

私はセレスさんに背を向けてしゃがむ。きょとんとした様子の彼女を、急かすように叫ぶ。

「おんぶするから、早く……!」

「そんな、結構ですわ」

「急がないと!」

セレスさんの腕を掴んで、しゃがませた。ほとんど無理矢理に彼女を背負って、走り出す。だいぶ遅れたけれど、階段を駆け下りて二階に行くと、先に行ったはずの苗木くんたちが立ち止まっていた。

「霧切さんか山田くんを見かけなかった!?」

息をはずませた苗木くんが尋ねるのは、十神くんとジェノサイダー翔だった。

焦る彼に反して、殺人鬼は落ち着き払った様子で応える。

「ないない、見てない」

「この階にいるのか?だが俺達も今来たばかりでな……騒ぎが聞こえたんで、駆けつけて来たんだよ」

「一緒にね!」

「お前がストーキングしているだけだろう……」

目の前で始まる漫才のようなやりとりに、苗木くんはより一層、焦りを帯びた声で叫んだ。

「と、とにかく!一緒に二人を捜して欲しいんだ!」

「……何があった?」

ただ事ではないと察知したらしい。十神くんが腕を組んで、苗木くんを観察するように見下ろした。

「今は一刻を争う。説明は後だ」

答えたのは大神さんだった。こんな言い方をしたら、十神くんは協力してくれないのではないか、そう思ったのは私の勝手な想像だったようで、彼は伏し目がちになって、何が楽しいのかくつくつと笑った。

「……まぁ、いいだろう。何やら面白い事になっているようだしな」

「みょうじちゃん!霧切ちゃんと山田の居場所、分かる?」

朝日奈さんが思い立ったように私を振り返った。セレスさんを背負い直すように体を弾ませて、嗅覚を集中させる。ぴくりと、鼻孔が反応した。私は図書室の方を真っ直ぐと見据え、声をあげた。

「あっち……多分、図書室の方!山田くんの匂いが!」

「図書室だね、急ごうッ!!」

私たちは一目散に図書室へと走った。

先頭の大神さんが勢いよく扉を開けると、そこには――。

「うう……痛い……痛いよ」

頭から血を流す山田くんの姿があった。彼は大きなお腹を抱え込むように、地面に横向きに倒れていた。

「山田くん!?」

「だ、大丈夫!?」

皆が次々に駆け寄る。最後に図書室に入った私も、そっと身を屈めてセレスさんを地に下ろし、慌てて山田くんの元へ走った。

「生きてたんだ……よかったぁ……」

朝日奈さんが安堵の息をつく。山田くんはのっそりと体を起こすと、血液を拭いながら、呟くように泣き言を吐いた。

「よくないですよ……見てください、この血を……」

「その傷はどうしたんだ?」

十神くんが腕を組んだまま、山田くんを見下ろす。

「やられました……あいつに」

「あいつって……?」

「ジャスティスロボです……。今しがた僕が命名しました」

「何を……言っている……?」

心底意味が分からない、といった表情の十神くんに、山田くんが、弱々しい、しかし熱のこもった声で説明する。

「あい、あいつは……ジャスティスロボです……」

「あなたが言うジャスティスロボとは、これの事ですわよね?」

話にならないと判断したらしいセレスさんが、割り込むように間に入った。取り出したのは先ほど見せてくれたデジカメだ。まだ事情を知らない十神くんとジェノサイダー翔が、彼女の手元を覗き込む。

「な、なんだ……このトンデモ物体は……!?」

「これが、セレスさんと山田くんを襲った犯人……そうだよね、山田くん?」

苗木くんが確認するように振り返る。山田くんは、血をぽたぽたと垂れ流しながら、歯ぎしりをした。

「間違いありません……こいつです……ジャスティスロボですッ!!」

反応に困ったみんなが、黙り込む。あの十神くんでさえ、状況を理解しきれず汗を浮かべていた。

「アーッハッハッハッハ!!」

沈黙が訪れそうになった時、すっかり聞き慣れた、嫌な声が響く。

どこからともなく現れたのはモノクマで、図書室の机にちょこんと立って、お腹を抱えて笑っていた。

「出た……ッ!」

青ざめる朝日奈さんを無視して、モノクマは笑い続ける。

「うぷぷ、正義のロボットだって!なんだか楽しそうな展開になってるじゃん!!どんな必殺技使うんだろ?飛べるのかなぁ?お約束の合体とかは、どうなんだろ?にょほほほほー!」

息継ぎもなく言いきったかと思うと、モノクマはそれだけで満足したかのように、図書室を出て行った。

「あいつは……何をしに来たんだ?」

理解不能だと言いたげな十神くん。呆気にとられる一同を仕切るように、セレスさんが声を出す。

「……モノクマのことは放っておきましょう」

「そうだね、それより、山田くんを保健室に連れて行こう。血が、出てるし」

私が提案すると、セレスさんが同意するように、力強く頷いた。

「そうだね!じゃあ、行こっか!」

「うぅ……かたじけない……」

みんなで保健室に移動しようという時、足元に転がっている何かを蹴り飛ばしてしまった。下を見ると、娯楽室に転がっていたものより、一回り大きい木槌が落ちていた。

「ジャスティスハンマー2号……?」

「そのハンマーで襲われたんです。頭をゴチーンと……」

山田くんが私を振り返ってそう言った。「こんなんで殴られて、よく平気だったね」「平気じゃないですよ、血が出てますから……」そんな朝日奈さんと山田くんのやり取りが遠のいていくのを聞きながら、私はしゃがんで、ハンマーを拾い上げた。匂いを嗅ぐけれど、山田くんの匂いしかしなかった。そういえば、娯楽室に落ちているハンマーの匂いを嗅ぎそびれたと思い、立ち上がると、入り口付近でセレスさんが手招いていた。

「みょうじさん。遅れますよ」

「私、ちょっと娯楽室に気になることが……先に行ってて!」

「何を言ってるんですか」

彼女の横をすり抜けようとすると、腕を掴まれて引き留められる。

「今はまだ、不審者が見つかっていないのですから、単独で行動するべきではありません。保健室に山田くんを送ってから、みんなで話し合って行動すべきですわ」

真剣な瞳で言われ、我に返った。私はまた、“匂いを嗅ぐ”ことに夢中になってしまっていたようだ。

「確かに……そうだよね。ありがとう」

彼女の言葉に従い、みんなの後を追った。廊下に響く二人分の足音が、不気味なぐらいに響いていた。




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