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「#幼馴染」のBL小説を読む
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『オマエラ、おはようございます!朝です、七時になりました!起床時間ですよ〜!さぁて、今日も張り切っていきましょう〜!』

「え、……え、嘘っ!?」

飛び起きてモニター画面を注視する。自分で選んだ本が思った以上に面白くて、徹夜で夢中になってしまったらしい。

ハッとしてベッドの横のゴミ箱を見ると、鼻をかんだちり紙でいっぱいになっていた。うわぁ、と呆れて息をつくと、また鼻水がたれてくる。気づけば咳もひどくなっていた。悪化してしまったかもしれない。

布団の温もりを名残惜しく思いながらも起き上がった。メモ帳に正の字を刻んでから、大きく伸びをする。凝り固まった体がバキボキいうのを聞きながら、いまさらになって訪れた眠気に困ってしまった。

食堂に向かうと石丸くんと大和田くんが肩を組んで仲よさげに笑いあっていた。昨日の夜、苗木くんに二人が喧嘩していたことを聞いていたので、自分の目を疑ってしまった。

「朝日奈さん、なんでこんなことになってるの?」

「さぁ……?よくわかんないけど、ずっとこの調子なんだよ」

うんざりといった様子で説明した彼女の隣に座る。それから不二咲さんたちに、パンとサラダのお礼を言った。

石丸くんと大和田くんが私に気づいて、二人三脚みたいな調子で近づいてきた。

「おはようみょうじくんッ!風邪の調子はどうだね!?」

「石丸くん、おはよ〜。まだ治ってないよ。昨日はしょうが湯ありがとうね」

「ずいぶん軟弱だな。オメェはこれでも舐めてろ!」

「あ、のど飴?大和田くんありがとう!」

もらったのど飴をポケットにしまうと、二人はまた、大声で笑いながら離れて行った。

全員がそろっても、彼らの様子は変わらず、今日の朝食は、二人の暑苦しい会話を聞かされる会となった。





部屋に戻った私は、大和田くんにもらったのど飴をなめながら、残りわずかだった本を読み終えてしまった。ついでに十神くんに渡された推理小説も、パラパラとめくってみる。通常より小さい文字がびっしり並んでいて、目の前が眩んだ。

いいや、読まずに返してしまおう。少しだけ無責任な結論を出して、私は二冊の本を抱えた。

図書室についた私は、中が少し騒がしいのに気づき、緊張に体を強張らせた。十神くんがいたら気まずいどころの話じゃない。いるのが別の人であることを祈りながら、こっそり覗き込むと、中にいたのは十神くんと腐川さんと苗木くんという、珍しい顔ぶれだった。

「『弱い男を支配するより強い男に支配される女になれ』……あなたの言葉よ」

「俺はそんなこと言ってない」

「あ、あたしが考えたのよ。あなたの言いそうな言葉をね……」

腐川さんと十神くんのやり取りが聞こえたけれど、何の話をしているのかさっぱりだった。苗木くんも同じようで、困ったように曖昧な笑みを浮かべている。

「……出ていけ」

十神くんは読んでいる本から顔も上げずに言った。

「それとお前は風呂に入れ。匂うぞ」

「……ッ!!」

冷たい言葉を向けられた腐川さんは、自分の三つ編みを掴んで唇をかみしめていた。

私はというと、十神くんのはっきりとした物言いに、失礼だとは思いながらも、スカッとしてしまった。というのも、実は私も腐川さんの匂いがだいぶ気になっていたのだ。今は鼻がつまっているから大丈夫だけど、日に日に香りの強くなっていく彼女のせいで、呼吸がままならないこともあった。今回ばかりは十神くんの物怖じしない性格に助けられたような心持ちだった。

「何度も言わせるな。さっさと出ていけ。部屋中が臭くなるだろう……」

十神くんの追い打ちの言葉を聞いて、さすがに胸が痛くなってきた時、腐川さんと苗木くんが図書室を出てこようとしたので、反射的に逃げてしまった。

曲がり角まで引き返して、壁に隠れてから振り返った。図書室から出てきた二人は扉の前で立ち止まり、私に全く気づいていない。安堵し、部屋に戻ろうと階段を目指したら、苗木くんの声が聞こえてきた。

「お、怒られちゃったね……。機嫌悪かったのかな……」

どうやら傷つけられた腐川さんのフォローをしているらしい。つくづく優しい人だなあと感心していると、腐川さんは予想外に興奮した様子で叫んだ。

「十神くん……あんなに……あたしのこと心配してくれてたッ!」

「……は?」

「あ、あたしのこと……心配してくれて……お風呂に入れって……言ってくれたわッ!!」

自分の耳が信じられなくて、思わず曲がり角まで戻って二人の様子をうかがってしまった。けれど、恍惚とした彼女の表情を見る限り、先ほど発言は聞き間違いではないようだ。

口の端がひきつるのを感じながらも、十神くんと自分の行く末に想いを馳せる彼女から視線を逸らし、今度こそ自分の部屋に帰ろうとした。階段を下りながら、抱きかかえていた十神くん推薦本を見下ろす。

十神くんの言い方は、すごく問題がある。わざと冷たくて厳しい言葉を選ぶから、相手を傷つけることに特化している。

だけど、そんな言葉が、腐川さんを喜ばせた。彼女がかなり特殊な性格というのを別にしても、少し腑に落ちない結果だった。

腐川さんを傷つけないために、我慢して黙っていた私の行動は、間違いだったのだろうか。

「んー……」

階段をおりきったところで、壁に寄り掛かるように頭をつけた。熱はないはずだが頭がぼんやりして上手く働かず、部屋までの道のりがすごく長く感じた。深く息を吐いたあと、重い一歩を踏み出した。

『このまま互いを丸っきり信じないのは……どうかと思うわ。それって、互いを丸っきり信じるのと同じくらい、悲惨な結果を生むはずだから……』

舞園さんの事件が起きた時、霧切さんが言っていた言葉を思い出した。

「まるっきり信じるのもだめなのか……」

疑ったり信じたり、そういう器用なことはできない。役割分担だったらどうだろう。私が信じる代わりに、十神くんが疑う部分を担ってくれている。もしかしたら、今、そういう状態なのかもしれない。言えない私と言える彼。そういう違いの一つなんだ。

ちょっと好意的すぎる解釈な気もするけれど、そう考えると彼の意見を尊重できる気がした。

十神君がすすめてくれた本、頑張って読んでみよう。

見下ろした推理小説を抱きしめ直し、心の中で決定した。だけど、部屋に戻って横たわった途端、寝不足がたたって、一ページも読まない内に、眠りについてしまった。





インターホンが鳴る。顔の上にのっていた何かをどかし、読みかけの推理小説だと気づいた。その本はベッドに置いて、靴を履く。部屋の扉を開けると不安気な表情の苗木くんがいた。

「みょうじさん」

「苗木くん……」

「体育館集合だって。……寝てた?」

「う、うん」

寝ぼけた顔になっているのかと思い、慌てて表情を引き締める。すると、彼は笑いを噛み殺したような表情になって、「寝ぐせついてる」と言った。

慌てて自分の髪を撫でつけるけど、見当違いの場所だったらしく、彼が手を伸ばしてきた。

「そっちじゃなくて、こっち」

丁寧に、何度も上から下に撫でつけられる間、きょうつけの姿勢で待っていた。しばらくしてようやく満足のいく仕上がりになったらしく、「それじゃあいこうか」と笑った。





モノクマが私たちを体育館に集めたのは、新たな“動機”を与えるためだった。

二十四時間以内に殺人が起きなかった場合、私達の“恥ずかしい思い出”や“知られたくない過去”を、世間にバラしてしまうと宣言した。

それぞれの名前が書かれた封筒を、モノクマは壇上からばらまいた。慌てて自分のものを拾いあげ、緊張に震える手で開く。しかし、そこに書かれていたのは、確かに恥ずかしい思い出ではあったけど、人を殺してまで隠さなければならない内容ではなかった。

ほっと安堵の息をついたのもつかの間で、周りの皆から悲鳴のような声があがった。むしろ、声を出す余裕があるメンバーは、いいのかもしれない。紙を見つめたまま動かなくなった者、隠すように握りつぶした者、深刻そうな彼らの反応に、ぴりっとした空気が肌を伝わった。

石丸くんが、いっそこの場で互いの秘密を打ち明けてしまえばよいのでは、と提案したけれど、それに賛成する人は一人もいなかった。今朝、あんなに仲良くしていた大和田くんでさえ、暗い表情で却下した。

足元から見えない何かが這い上がってきて、体に纏わりつくような、妙な予感がする。人を殺してまで知られたくない過去なんて、あるわけない。そう信じたいのに、漠然とした不安だけが胸に残った。

「では、秘密の話し合いはやめておくが……期限となる二十四時間以内には、それぞれ覚悟を決めておくのだぞッ!世間に秘密をバラされるのは屈辱的だが、命まで取られる訳じゃないんだ!だから……その……早まった真似はするんじゃないぞ……」

「そんな念を押されると、逆に不安になるんですが……」

尻すぼみになった石丸くんの言葉に、堪えきれずと言った感じで山田くんが指摘した。石丸くんは謝罪したけれど、やはり不安が拭えずにいるようで、さらに言葉を濁すばかりだった。

私は周囲を見渡して、今にも泣きだしそうな不二咲さんにかけ寄った。彼女は私に気づくと少し怯えたような表情を見せたけれど、大和田くんとの男の約束を覚えているのか、涙は流さなかった。

「大丈夫だよ!私は不二咲さんの秘密あばこうなんて思ってないし!」

「う、うん……」

「それよりね、見て欲しいものがあって……」

私はポケットに入れていた、紙切れの束を取り出した。彼女の前に扇形に広げてみせると、悲しげに歪められていた表情が、驚きに染まった。

「わぁ……これって、トランプだよねぇ?」

「そうだよ!ちょっと不恰好だけど……ちゃんとジョーカーとかもあるんだ!ほらほら、これモノクマの顔〜!」

「すごい!みょうじさん器用だねぇ」

「全然だよ〜!でも頑張った!」

私と不二咲さんがきゃあきゃあ騒いでいると、近くで見ていたセレスさんが歩み寄ってきた。

「こんな時に能天気ですこと……。なんですか?それは」

「あのね、不二咲さんがプールで遊ぶの苦手だから、トランプ遊びしようと思って作ったんだ。セレスさんもよかったらどう?」

彼女にトランプを手渡すと、一枚一枚品定めするように確認された。そして、歪なところも多いけれど、メンバー全員の似顔絵を描いている点は面白いと評価してくれた。

「ふふ……命知らずな方がいたものですね。この私に勝負を挑むなんて」

「ふ、普通に遊ぼう!ばばぬきとか!」

不敵に笑うセレスさんに恐怖し、慌てて平和そうなゲームを提案すると、不二咲さんがくすくす声をもらした。それを見た私は肩の力が抜け、つられて笑顔になった。

「今あそんだら風邪うつしちゃいそうで申し訳ないから、私が治ったらね。約束だよ!」

「うん。楽しみにしてるねぇ」

「手加減しませんよ」

ほら、大丈夫だよ。自分に言い聞かせるように、心の中でつぶやいた。

秘密なんて、たいしたことない。誰だって一つや二つ、人には言えない思いを抱えているものだ。それが、なんだっていうのだ。仲間を傷つけてまで隠す価値のある秘密なんて、絶対にないよ。




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131105