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赤い扉の先にあったエレベーターはゆっくりと下降していく。“学級裁判場”は学校エリアの地下にあった。モノクマに促され、それぞれが指定された席へと向かう。円状に陣取るように配置され、みんなの顔がぐるりと見回せるようになっている。

学級裁判のルールを改めて解説した後、モノクマが開廷の合図をだした。議論はまず、被害者が舞園さんであることを確認し、部屋に争った形跡があるところから始まった。それからすぐに凶器の話へ移り、苗木くんが厨房の包丁が一つ減っていたことを主張したのだが、すぐさまそれに口を挟んだ人物がいた。

「凶器が包丁っつーのはわかったけどさぁ……だから、どーしたっての?つーかさ!結局のところ、苗木が犯人なんだろ!?」

桑田くんだった。彼が大げさな身振りをするたび、現場にあった香水の匂いが漂ってきて腹が立つ。すぐさま否定しようとしたら、腐川さんが彼に同意してしまう。

「そ、そうよ……現場は苗木の部屋だったのよ……。これ以上の根拠は……ないじゃない……!」

「ちょ、ちょっと待ってよ!ボクは……!」

「違うよ!!」

私は目いっぱいの声を張り上げた。マスクで若干こもった声になってしまったのに気づき、次からはちゃんと伝わるようにとあごの位置まで下ろす。みんなの視線が一斉に集まったけれど、緊張している場合じゃない。力をこめるように脚を開いて仁王立ちした。

その時の私を支配していた感情は怒りだ。何故舞園さんが殺されなければならなかったのか。犯人は――桑田くんは平気な顔して苗木くんに罪を被せようとしているのか。みんなはそれをどうして信じてしまうのか。自分なりに捜査をしていたなら、矛盾の一つや二つ、見つけられたはずだ。

「舞園さんを殺したのは苗木くんじゃないよ!犯人は――」

勢い余って言いかけた時、霧切さんと目が合った。彼女の言葉が脳裏をよぎる。

『この謎は、彼に解かせてあげたいの』

私は大きく開いていた口を閉じた。みんなの目が訝しげに歪む。

「犯人は?」

十神くんが苛立ったように促したので、私は慌てて「他にいる!」と叫んだ。

「そう思った根拠は何ですの?」

セレスさんにまで追い打ちをかけられ、言葉に詰まった。私は先ほどまでの勢いはどこへやら、両足をぴたりと閉じて、体を縮めた。

「……な、なっ、苗木くんからは血の匂いがしなかったから!」

苦し紛れに放った私の言葉に、十神くんが露骨に顔をしかめた。何人かも「はぁ?」と言わんばかりの表情をする。咄嗟にしてはなかなか良い返しをできたと思っていたので、予想外のみんなのリアクションに怯んでいると、大和田くんが「あの女は超高校級の犬で、嗅覚が優れてんだったな」とフォローしてくれた。それを聞いて、私は自分がまともにコミュニケーションをとっていなかったことに気づいた。

「なるほど……捜査中に這いつくばっていたのは匂いを嗅いでいたということか。まさか本当に犬とはな」

納得した様子で十神くんが言った。彼があの時「犬」という単語を持ち出したのは、私の超高校級の能力を知っての上だと思っていたので、少なからずショックを受けた。みんな、私に興味なさすぎだ。

「それではみょうじなまえ殿は犯人の匂いも既に嗅ぎ当てている……ということなのですかな?」

話題の軌道修正を図るように、山田君が問いかけてきた。

「そりゃ、【超高校級の犬】なんだから当然だよっ!みょうじちゃん、血の匂いがしたのは誰なのっ?」

朝日奈さんが期待に満ちた瞳で私を見つめてきた。私はというと、彼女の質問に答えようとして、先ほどエレベーターに乗り込んだ際、さりげなく匂いを確認した桑田くんが、血の香りをさせていなかったことに気づいた。

もしかしたら桑田くんは犯人じゃない……?不安がよぎったけれど、打ち消すように首を横に振る。ううん、現場に残っていた香水の香りは確かに彼のものだった。桑田くんは犯行後にお風呂へ入ったのかもしれない。犯行時刻の夜時間はシャワーの水が出ない。でも、彼は今朝の朝食会に遅れてやってきた。もしシャワーを浴びていたせいで遅刻したと考えれば、筋は通る。

「おい、どうした?」

十神くんが黙りこくったわたしに先を促す。はっとして、すがるような気持ちで霧切さんの方を盗み見たけど、今度は目が合わなかった。

「血の匂いがした人は……いない」

「そんなの、苗木がお風呂で洗い落としたんじゃないの!?」

すぐさま腐川さんが食いつく。私は苗木くんが早い時間から食堂に来ていたことを説明して反論しようとしたのだけれど、それは意外な人物が割り込んできたことで遮られた。

「その結論は、議論を進めた後で出しましょう」

白熱したこの場に似合わない、静かな声。霧切さんだった。彼女は肩にかかった髪を払いのけてから、腕を組んで言う。

「でないと、学級裁判の意味がないわ……」

「けど、これ以上話し合ったって、どーせ、結論は変わんねーって……」

すかさず桑田くんが議論を終わらせようと口を挟む。霧切さんはそんな彼を一瞥すると、あくまで冷静に反論した。

「いいえ、そんなことはないわ。議論を続ければ、きっと突破口は見えてくる……」

議論は再び開始された。彼女の仲裁のおかげでいくらか落ち着きを取り戻した私は、深呼吸を繰り返してからみんなの顔をぐるりと見渡す。表情はそれぞれ違っていたけれど、ほとんどが自分たちを包む謎に対して、不安や憤りを感じているような顔つきだった。

私はそこで、ようやく学級裁判の本質を理解する。犯人が分かっていても、犯行を順序だてて説明することができなければ、意味がないと気づいたのだ。

“クロ”はみんなの投票で決めるのだから、みんなを納得させ、理解してもらうことが重要になる。犯人の名前を主張したって、殺害のトリックや証拠を暴かない限り、協力してもらえないだろう。

もしも私が霧切さんとの約束を忘れて桑田くんの名前を出していたら、みんなにうまく根拠を説明できず、不審がられていたかもしれない。私は頭がよくないから、桑田くんに言いくるめられ、逆にクロに仕立てあげられて――。ゼロとは言えない可能性を思い、背筋がぞっとした。

私が勝手に悩んでいる間にも議論は進む。

苗木くんは自分が包丁を持ち出していないことを朝日奈さんに証言してもらい、自ら疑いを晴らそうとした。けれど、食堂に来たのが舞園さん自身だったということが判明し、十神くんが「包丁を持ち出していないからといって、容疑が晴れたとは言えない訳だ」と指摘した。

再び苗木くんに疑念が集中しかけたとき、またしても霧切さんが議論を止める。犯人が部屋の持ち主なら有り得ない行動をとっていることを彼女が指摘すると、苗木くんはひらめいたように、現場に髪の毛が一本も落ちていなかったことを報告した。

苗木くんが犯人なら、部屋に髪の毛が落ちていても自然なはずだ。犯人が掃除をしたのは自分が部屋に訪れた痕跡を消すため。つまり、部屋の持ち主である苗木くんは除外されるというのが霧切さんの考えだった。

さらに、彼女はそれを裏付けるような根拠を述べる。犯人はシャワールームに逃げ込んだ舞園さんを追いかけるために、ドアノブを壊していると。

苗木くんの部屋のシャワールームは偶然建て付けが悪く、開けるためにはコツが必要だったらしい。舞園さんと苗木くんは、一晩だけ部屋を交換していた。それを知らずにやってきた犯人は、扉が開かないのを女性の部屋だけにある鍵のせいだと思い込んで、無理やり壊したと考えられる。だから、建てつけのことを知っていた苗木くんは犯人じゃない。犯人は、二人が部屋の交換をしていたことを知らない人物――要するに、苗木くん以外ということになった。

話し合いが振り出しに戻ったことで、みんなに焦りが生じる。沈黙が訪れるかと思った時、朝日奈さんが、そもそも犯人はどうやって苗木くんの部屋に入ったのかと疑問を投げかけた。

落ちていた鍵を拾ったんじゃないかとか、舞園さんが招き入れたんじゃないかという発言は、苗木くんが全て否定した。舞園さんはひどく怯えていたからこそ部屋の交換を希望したのだから、出歩いて鍵を落としたり、訪問者を部屋にあげることは絶対にありえないはずだ、と。

しかし、ここで待ち受けていたように霧切さんが提出した新しい証拠が、議論をとんでもない方向へと導く。なんと、舞園さん自身がメモで犯人を部屋に呼び出していたというのだ。舞園さんは用意していた包丁を奪われ返り討ちにあってしまったというのがみんなの出した結論だった。

「彼女は単なる被害者じゃなかったのよ……」

「被害者どころか……まるで、自らが殺人を行おうとしていたようだな……」

霧切さんの発言に十神くんが答える。

「そう言えば、苗木くんに部屋の交換を申し出たのは、舞園さんの方からでしたわね?もしかするとそれも、苗木くんに自分の罪をなすりつけるため……だったのかもしれませんわね?」

セレスさんが自分の髪をいじりながら、どこか興味なさそうに問いかけた。私は向かい側にいる苗木くんの顔から血の気がさっと失せるのを見て、思わず口を挟んでしまう。

「そんな……!舞園さんがそんなことするわけないよ!だって二人は……お互いに信頼しあってたんだよ!?」

「ですが、そう考えれば、ネームプレートの件もしっくりきますわ。苗木くんの部屋で殺人を犯すことによって、疑惑を苗木くんに向けようとしたのです。そしてそのためには、部屋の交換を伏せたまま標的を呼び出さなければならなかった。標的に部屋の交換がバレてしまえば、間違いなく、怪しまれてしまいますからね」

辻褄のあった主張には反論する隙が見当たらない。でも、だって。そんな感情論ばかりしか出てこなくて、私は言葉を失った。苗木くんのことを見る勇気がなくて、顔もあげられなくなった。

「その計画は危険過ぎやしませんかね?たとえ標的を殺すことに成功しても、その後、苗木誠殿が部屋の交換をバラしてしまったら……」

「それはどうかな?お人好しの苗木に、舞園を切り捨てるような真似ができたとは思えんが……。舞園も、そう思っていたからこそ、部屋の交換相手に苗木を選んだんじゃないのか?」

「そ、それに……彼女は【超高校級のアイドル】よ……。冴えない苗木と……国民的アイドルの主張……ふ、普通なら……どっちの主張を信じるかしら?」

「で、では……彼女はそのことも計算に入れて……?」

「そんなはずないってば!」

ほとんど悲鳴をあげるように叫んでいた。舞園さんがおにぎりを持って初めて私の部屋を訪れてくれた時のことを思い出して、涙がにじみそうになる。

「ありえないよ……ま、舞園さんは、あんなに優しかったんだよ……!?部屋から出ない私を心配して、ご飯を持ってきてくれたのだって、舞園さんなんだから!あんなふうに周りを心配できる人が、誰かを殺してまで外に出ようなんて考えるはずがないよ!」

「餌付けされたか」

十神くんが鼻で笑った。私は彼に怯えていたのも忘れて、強く睨み付けた。

「もしかしたらその時から既に、殺人の計画を練っていたのでは?」

彼の隣にいたセレスさんが、思いついたように声をあげる。

「本当にみょうじさんの嗅覚が優れているのなら、クロにとってはかなり厄介な存在ですもの。苗木くんと同じように自分の味方につけてしまいさえすれば……そう考えての行動だとしたら、自然じゃありませんか?」

「なんでそうやって――」

「ねぇねぇ!なんだか議論が脱線してない?そんなセピア色のお話なんかよりもさぁ……ほらっ!早くクロを決めちゃわないと!時間切れで全員おしおき……なーんてことになったら、大変でしょー!?」

水をさすようなモノクマの声に、言葉をのみこんだ。霧切さんがそれに同意し、議論は再開することになった。

「犯人を決めろっつってもよぉ……。もう、新しい手掛かりがないんだぜ?」

口を開いたのは桑田くんだった。私はかっとなって、霧切さんの約束を破ってでも彼の行いを暴いてしまおうとした。しかし苗木くんが、身を乗り出す。先ほどまで消沈していたとは思えないほどの瞳の強さに、思わず目を奪われる。

「手掛かりならまだ残ってるかもしれない……。舞園さんが残した……ダイイングメッセージだよ……」

現場を実際に見た霧切さんと苗木くんの話によると、舞園さんの背後の壁には『11037』という血文字が残されていたらしい。私達は必死にその数字の示すメッセージを考えたけど、【超高校級のプログラマー】である不二咲さんでさえ、意味が見出せずにいた。

「そうだ……ここに書いてあるのは……犯人の名前だったんだよ……」

苗木くんが驚愕の表情を浮かべ、つぶやいた。私は『11037』と桑田くんをどうしても繋げられずにいたので、彼の言葉に目を丸くする。みんなも同じだった。

「えっ!?手がかりをすっ飛ばして犯人の名前!?」

「だ、誰よ……誰の名前が書いてあるの……!?」

「このダイイングメッセージを180度回転させてみてよ。アルファベットの『LEON』って文字が見えてくるんだよ。『LEON』……桑田くんの名前だよね!?」

「なっ……!!な、何言ってんだよ……たまたまだって……たまたま、そう見えただけだって!偶然の産物だっつーの!!」

しかしこれには霧切さんが反論した。トラッシュルームに落ちていた血の付いたワイシャツの燃えカスと、そこで行われた証拠隠滅の方法を話し合えば、おのずと答えは見えてくると言う。

引き継ぐように苗木くんが説明してくれたのは、トラッシュルームで焼却炉に近づくためには掃除当番である山田くんが持っている鍵で鉄格子を開けなければいけないこと。桑田くんが「じゃあ犯人は掃除当番の山田じゃねえか!」と叫んだが、苗木くんはすかさず、桑田くんには可能な他の方法があることを提示した。

「桑田くん。君は葉隠くんがランドリーに置き忘れたガラス玉を投げて、焼却炉の横にあるスイッチを押し、火をつけたんだ」

苗木くんと山田くんがトラッシュルームを捜査した時、焼却炉の火はつけっぱなしになっていた。これは、犯人が鉄格子を開けず焼却炉のスイッチを押したことを意味するらしい。

「そうやって焼却炉の火をつけたところで、そこに、丸めたワイシャツを投げ込んだんだよ!」

「犯人が鉄格子の中に入っていないことは、証拠隠滅後の状況が物語っているわ。割れたガラス玉……つけっぱなしの焼却炉の火……燃えカスが残ってしまったという雑な処分方法……。掃除当番が犯人なら、もっと丁寧に、証拠を隠滅しているはずよ……」

十メートル以上離れた距離、鉄格子の隙間からガラス玉をなげて、目的のスイッチに当てられるのなんて、【超高校級の野球選手】である桑田くんしかいない。それが彼らの推理だった。

絶対に言い逃れできないほどに追い詰められていると思ったのに、桑田くんはなおも食い下がった。証拠がない、全部推論だ。でっちあげだ。我を忘れて喚き散らす。

「苗木くん、だったら教えてあげるといいわ。彼が犯人だという証拠をね……」

急に霧切さんに言われて、彼は一瞬とまどいの表情を浮かべた。でも、すぐに何かに気づいたようで、自分のあごに指をそえて、慎重に言葉を紡ぎ始める。

犯人はドアノブを壊すのに工具セットのドライバーを使用したはずだ。でも、現場を舞園さんの部屋だと思っていた桑田くんは、苗木くんの工具セットを使わなかった。つまり、彼は自分の部屋にあったそれを利用したのだ。

「桑田くん、キミの工具セットを見せてもらえないかな?もし、ボクの考えが合っているなら……その工具セットのドライバーには、使用された痕跡が残っているはずなんだ!」

意味のない言葉を連呼して苗木くんの推理を邪魔しようとしていた桑田くんが止まった。彼の顔面は蒼白と呼ぶにふさわしいほど血色を失った。

議論が終了したと判断したモノクマが、全員に投票するように呼びかける。私は震える指で、桑田くんに投票した。他のみんなも同じだったらしく、桑田くんがクロとして選ばれた。

「あらら!大正解っ!今回、舞園さやかさんを殺したクロは……桑田玲恩くんでしたー!!」

モノクマの叫びにみんなが三者三様の反応を見せた。愕然としたり、泣きだしたり、怒りに震えたり。どうしてそんなことをしやがったッ!そう怒鳴った大和田くんに、桑田くんは今にもその場に崩れ落ちそうな様子で声を振り絞る。

「し、仕方ねーだろ……オレだって……殺されそうになったんだ……だ、だから……殺すしかなかったっつーか……オマエラだって一歩間違えれば、こうなってたんだ!たまたま、俺が舞園に狙われただけで……ツイて……なかったんだ……!」

最後の方はもう、悲痛な叫びとなっていた。その姿はとてもただの加害者には見えなくて、私は、舞園さんの優しい笑顔を忘れそうになった。

「そ、それとも……大人しく殺されてればよかったってのかよ?」

桑田くんの問いかけに、答えることができずにいた。誰もがそうだったようで、沈黙が訪れる。

「あの……映像のせいだ……」

静まり返った裁判場、苗木くんの震える声が響いた。

「みょうじさんは見たよね?昨日、モノクマに配られた舞園さんのDVDを。あれを見た彼女は明らかに様子がおかしかった。どんな映像だったの……?」

DVDの内容を思い出し、口にするのは躊躇われた。だけど、みんなの視線を一身に受けて、無言を貫き通せる気もしなかった。

「ま、舞園さんの……舞園さんのアイドルグループが、……」

最後まで言うことができなかった。涙がぼろぼろあふれてきて、息がつまってしまう。みんなから顔をそむけるように俯いて、自分の目をこする。それだけでどれだけ悲惨な映像だったか伝わったらしく、苗木くんは静かにうなずいた。

「みょうじさんでさえ、気が動転してしまうような内容だったんだ……当事者の舞園さんだったら……なおさら――」

そこで言葉を切った彼も、何か考えこむように下を向いた。再び沈黙が訪れようとした時、それをぶち壊したのはモノクマだった。

「それにしてもさぁ!やっぱ、芸能界って怖いんだね〜!たかが人間関係をきっかけに、人を殺そうとするなんてさッ!あんなにキレイで性格も良さそうなのに、裏の顔は狂気に満ちていたんだね〜っ!」

「な……なんだって……?」

面をあげた苗木くんは、怒りをあらわにし、モノクマを見つめた。しかしモノクマはお構いなしに、挑発を続ける。

「わかるよ、わかる。うんうん……自分を裏切った舞園さんに、絶望しているんでしょ?愛情友情同情……情が強ければ強いほど、それが崩れた時の絶望も大きくなるモンだしね!」

「ふざけるな!全部お前のせいじゃないか!舞園さんが……あんなことしたのだって……全部全部……ぜんぶぜんぶ……お前のせいじゃないか――ッ!!」

苗木くんは自分の席を飛び出し、モノクマに向かって駆け出した。彼が怒りに我を忘れているのだと気づき、思い出したのは江ノ島さんのことだった。どんなに腹がたっても、どんなに悲しくても、モノクマに暴力行為を働いたら、彼女みたいに処刑されてしまう。慌ててモノクマをかばうように私も飛び出すと、勢いあまった苗木くんを抱きとめる形になった。それでもなお私を振り切って進もうとするので苦戦していると、後からやってきた霧切さんが、苗木くんを引きはがしてくれた。

「今はやめておきなさい……本気で、彼女の敵を打ちたいならね……」

「……クソッ」

抵抗をやめ吐き捨てた苗木くんに、モノクマは爪をぎらつかせて「命拾いしたなぁ!オイッ!」と威嚇した。無駄に命を失わなくてすんだことに安堵したのもつかの間、モノクマが自分の椅子から立ち上がって、仕切り直すように両手を掲げた。

「……てな訳でッ!学級裁判の結果、オマエラは見事にクロを突き止めましたので……今回は、クロである桑田玲恩くんのおしおきを行いまーす!」

体が強張った。必死に抵抗する桑田くんを無視して、それは始まる。どこからともなく伸びてきた首輪に絡め取られた彼は、引きずられてつれていかれてしまう。慌ててその後を追った私たちが目にしたものは――絶望。これをそう呼ばないで、何と呼べばいいのだろう?

フェンスの向こう側に広がるのは野球場を模した景色。バッティングセンターによくある機械がマシンガンのように球を撃ちだし続け、全てが桑田くんの体に命中する。どれぐらいの時間がたったのかも分からない。彼の悲鳴がいつから途切れたのかもわからない。私はただ、その光景から目をそむけることもできず、呆然と立ち尽くすことしかできなかった。

「いやっほうっ!!エクストリ――――――ムッ!!アドレナリンがぁ――――染み渡る――――ッ!!」

絶句する私たちをよそに、モノクマは興奮する。もう嫌だ、と不二咲さんが泣きだせば、それなら外の世界との関係を断ち切って、ここでの生活を一生受け入れろと追い打ちをかける。

散々引っ掻き回すようなことを言った挙句、モノクマはあっという間に消えてしまった。取り残された私たちは、しばらくその場を動けずにいた。目の前で起こったあまりにも残酷な現実を受け入れることができず、ただひたすら困惑し、絶望しかない未来に震えるばかりだった。




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131101