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モノクマに見せられた映像が、足りないとされていた“動機”になってしまった。DVDを見せられた日の翌朝、舞園さんが、何者かに殺されてしまったのだ。

モノクマは全員を体育館へ集め、舞園さんを殺した犯人は私たちの中にいると断言した。一定時間の捜査を行った後に開かれる“学級裁判”でクロを当てられなかった場合、犯人以外の全員が処刑になるとも付け足した。

それに反抗し、モノクマを攻撃した江ノ島さんは、校則違反とみなされ“おしおき”された。一瞬で体育館に血の匂いが充満する。マスクの上から手で押さえたけれど、ほとんど意味がなかった。もよおした吐き気に必死で耐えていると、モノクマが消えてすぐ沈黙が訪れる。

「落ち込んでる場合じゃないわよ」

普段と変わらないトーン。全員の視線が霧切さんに集中した。

「それに、このまま互いを丸っきり信じないのは……どうかと思うわ。それって、互いを丸っきり信じるのと同じくらい、悲惨な結果を生むはずだから……」

「……は?」

何を言っているのだ、と言いたげな桑田君の視線にひるむことなく、彼女は続ける。

「協力は必要よ。誰を信用して、誰を信用しないかは、自分次第だけどね……」

霧切さんの言葉に胸の奥が冷やりとした。信用という言葉はここではやけに重く、私たちの背中にのしかかる。ふと、誰にも信用してもらえない自分を想像しそうになって、打ち払うように頭をふった。

犯人を突き止めないと。そういった霧切さんに、十神くんが賛成する。続いて大神さん、朝日奈さんや桑田くんも、覚悟を決めたようだった。

「舞園さん殺しの捜査を始める前に……現場の保全はどうする?」

「現場の……保全?」

霧切さんの問いかけに、疑問の声を上げたのは苗木くんだった。

「現場が荒らされない為の“見張り役”のことだろう?犯人に証拠を隠滅されてしまっては手詰まりになりかねん」

代わりに説明したのは十神くんだった。それなら考えるのが苦手な自分が、と名乗り出たのは大和田くんだった。しかし即座に十神くんが、一人に任せるのは危険だ、犯人の可能性があると切り捨てた。反論しかけた大和田くんをなだめるように、今度は大神さんが名乗り出て、二人が殺害現場を見張ることに決定した。

「あら……?」

ふいに声をあげたのはセレスさんだった。彼女は死亡時刻や死因が記載されたモノクマファイルをいち早く眺めていた。

「うふふ……気づいてしまいましたわ……。先ほど配られたモノクマファイルに目を通していたのですが……とても簡単で、とても妙なことに気づいたのです」

彼女が色恋沙汰リングをつけた指で、ファイルをなぞる。

「ご覧になってください。舞園さやかさんの死亡現場は……『苗木誠の個室』となっていますわよ」

私は反射的に、苗木くんのほうを見てしまった。誰もがそうしたせいで、一斉に注目を浴びた彼は、動揺をあらわにし、「ちょ、ちょっと待ってよ!」と叫んだ。

「違うんだって!ボクは一晩だけ……舞園さんと部屋を交換してただけなんだ……」

彼は額に汗を浮かべながらも、必死にみんなの目を見て主張した。

「それって言うのも、彼女が怯えてたから――」

「ウソ臭い……わね……し、真実だけ言いなさいよ……!」

遮ったのは腐川さんだった。彼女にしては珍しい明瞭な口調で、苗木くんを批判する。

誰もがその目に恐怖や疑惑の色を宿し、彼を見つめていた。私は思わず踏み出して、苗木くんを隠すように立ちはだかった。

「ま、待って!こんなとこでにらみ合いっこしてたって、意味ないよ!早く捜査を始めようよ!」

「そうね、そろそろ始めましょう」

あくまで冷静に肯定してくれたのは、霧切さんだった。彼女は長い髪をなびかせて歩きはじめると、体育館を出る間際に振り返る。

「ここからは別行動よ……。誰が舞園さんを殺したのか、その答えに辿りつくために……根拠となる手がかりを集め、そこから推理を組み立て、正しい判断を下さなければならないわ。もし、間違った答えを出してしまえば……その先は言わなくても、いいわね?」

「むしろ言わないで欲しい……」

大きな体を震わせて、山田くんが呟いた。私も同感だった。

颯爽と出ていった霧切さんに続き、十神君、見張り役の二人と人が減っていく。苗木くんもしばらく俯き考え込んでいたようだったけれど、やがて、何か決心したように、歩き出した。私もあわてて体育館を出て、彼のななめ後ろにつく。

「苗木くん!」

振り返った彼の表情はこわばっていたけれど、私に気づいて無理に笑顔を作ろうとしたのが分かった。私は苗木くんの横に並ぶと、置いて行かれないように早足で歩く。

「あの、私は、さっき霧切さんがいってた、信じる人を選ぶっていうの、苗木くんを選びたい」

「みょうじさん」

苗木くんは驚きに目を見張った。それからふっと顔を歪ませ、泣きそうな顔を隠すように笑った。「ありがとう」と言うのを聞いて、絶対に彼は犯人ではないと確信する。

誰より舞園さんを大切にしていて、誰より舞園さんの死を悲しんでいる苗木くんが、彼女を殺すわけがないんだ。




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