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王馬に目撃される



リクエスト:事故で押し倒された場面を王馬に目撃される



探索のため、廊下を歩いていたら、傾く視界にゴン太君の焦り顔が見えた。

「危ない!」

次に目を開いたときには、至近距離にゴン太君の顔があった。どうやら私は滑ってひっくり返って、後頭部を打ち付けそうになったらしい。それをゴン太君が助けてくれたようで、床と私の頭の間に大きな手を差し込んでくれていた。

「あ、ありがとう」
「ケガはない!?」
「だ、大丈夫。ゴン太君は、手、痛くなかった?」
「ゴン太は平気だよ!」

ほっと息をついてから、自分たちの格好に気づく。床に倒れこむ私の上に、覆いかぶさるゴン太君。大きな体に押しつぶされていることを意識した途端、背中から首裏まで何かが駆け抜けた。人に見られたら誤解されかねない状況に、気持ちが焦ったのだと思う。

ピンチを乗り越え気が抜けたのか、ゴン太君はそのままの姿勢で息をついていた。助けてもらった立場なので、今すぐどいてと頼むのは申し訳なく、じわじわ汗が浮くのを感じながら、ひたすら固まっていた。

ようやくおもむろに起き上がったゴン太君が、ふと顔を背けた。「王馬君!」と声をあげるので、心臓が急激に冷えるのを感じる。よりによって、一番見られたくない人に見つかってしまった。

「あれあれ?ゴン太、盛ってるの?よくみょうじちゃん相手に興奮できたね!」

案の定、不躾でデリカシーのない言葉を吐いた彼に、頭痛がした。王馬君の方に駆けていったゴン太君は、途中で足を止めて「え?」と首をかしげる。私はそんな二人を視界の端に見ながら、ゆっくりと体を起こしていた。

「だって今、押し倒してたでしょ?無理やり犯そうとしてたんじゃないの?」
「そ……そんなことしないよ!!ゴン太は紳士なんだから!!」

からかいを真に受けて弁解するゴン太君をフォローするため、私も遅れて二人の元へ向かう。

「王馬君、ゴン太君は転んだ私を助けてくれただけだよ」
「なーんだ」

心底つまらなそうに言った王馬君が、ふと気づいたような表情をする。

「あれ?でも普通あんな何もないところで転ぶかなぁ?もしかして、転ぶふりしてわざとゴン太にすがりついた?みょうじちゃんって実は演技派の悪女?」

何を言い返しても無駄だと分かっていたので、私は口をつぐむ。ゴン太君が代わりに「王馬君、何言ってるの!わざと転んだとは思えなかったよ!」と言っていたけど、王馬君はそれにはこたえず、ずっとニヤニヤ笑いをこちらに向けていた。

「私、探索つづけるから」

踵を返すと、王馬君が追いかけてくる。

「みょうじちゃん怒っちゃった?冗談だよ!」
「怒ってないよ」
「嘘だね。オレって嘘つきだから人の嘘がわかるんだよねー」
「怒ってないってば」

目線をあわせないように早足に進むのに、わざわざ隣に並んでのぞきこんでくる。

「ひょっとしてホントにゴン太が好きだった?だとしたら本人の前であんなこと言ってごめんね?」
「だからしつこいって――」

思い切り振り返ろうとしたら、また視界がぶれた。傾いていく世界を見ながら、先ほど転んだ場所と全く同じ場所だと思う。きたる衝撃に身構え、強く目を閉じた。

「みょうじさん!」

ゴン太君が走り寄ってくる足音を聞いた。全く痛みがなかったので、てっきりまた彼が助けてくれたのかと思ったのに、違うらしい。じゃあ今、私を抱きしめているのは誰なんだ。うっすらと目を開くと、予想外に真面目な顔つきの王馬君がいてドキっとした。

しかし彼は、私が目を開けていることに気づくと、すぐに軽薄な笑顔に戻った。

「みょうじちゃん、もしかしてオレにも押し倒されたかったの?」

思い切り肩を突き飛ばしたら、「痛っ」と悲鳴をあげて容易く退いた。

「ひどいなあー。オレは恩人なのに……」
「みょうじさん、大丈夫!?」

ゴン太君が私を助け起こそうと手を伸ばすけど、それにすがる余裕もなかった。ただ自らの身体を抱きしめ、ばくばくする心臓を意識する。

「どうしたの?みょうじちゃん。どこか痛むの?」

また覗き込んできた王馬君に、顔が熱くなった。私は一人で素早く立ち上がると、急いで後ずさりした。きょとん顔の彼から視線をそらしながら、まだうるさい鼓動に耳をすませる。

違う、何かの間違いだ。こんなにドキドキしているのは、ゴン太君に比べて安心感のない救出だったせいで……。

「みょうじちゃん、まさかオレのこと――」
「ぎゃあああああ!」

続きを言われたくなくて、叫んで止めた。ゴン太君がびくりと肩をふるわせるのを視界の端に見ながら、涙目になる。

「絶対違う!!」

自分に言い聞かせるつもりで強く否定すると、とても二人の前にいられなくなり、急いで駆けだした。しかし角を曲がる直前、私はまた滑って転んだ。当然、今度は誰の助けも入らなかった。

「みょうじちゃん、パンツ見えてるよー」

さすがの王馬君の声にも呆れがにじんでいた。私は急いで起き上がると、泣きたい気持ちでその場を逃げ出した。

170129