▼ 手作りには気持ちが詰まっている
「一緒に申し込んでくれたら弟子にしてやるよ」
「申し込みましょう!」
という流れがあったという事をサイタマさんが教えてくれた
夕飯時にお邪魔している私は彼の部屋でくつろいでいて
ジェノスくんがハミングしながら夕飯を作っていた
「ジェノスくんって成長早いよね」
「は、何の話だよ」
「なんていうか、誠実な男の子って感じがします」
「あ、そう…」
同性を褒めてもつまらなかったのか、私が持ってきた醤油せんべえをガリガリと頬張るサイタマさんはつまらなさそうな顔をしている
台所から甘い香りが漂いはじめています
「ところで、サイタマさん」
「んー」
「一番弟子のジェノスくんは何を作っているのかな」
「もう前言撤回したいおもいでいっぱいなんだけど」
「話をそらさないでください」
「知らねーよ、なんかベトナム料理作るんだとよ」
どうしてベトナム料理なのかはわかりかねますが
ジェノスくんの作る料理は失敗したことがないため
今回も少し期待している
ベトナム料理を「さぁ作ろう!」と言って作れる腕は持っていません
それから、サイタマさんと最新刊の漫画を読んで
感想を言い合っていたら、ジェノスくんがお椀を3つならべた
あれ、これだけ?
ひとり、ひとつという計算になるのは私だけだろうか
「ジェノスくん、これは…おかゆ?」
「いえ、『チェー』です」
「「…あ、そうなんだ」」
サイタマさんと言葉が重なり、おそらく心境も同じだと悟る
どうやって、このお花を飛ばしているほほえみジェノスくんを現実に連れ戻すべきなのかが、少し悩みどころです
ふたりで黙り込んでいたらジェノスくんが思い出したように
「あ、れんげですね!ただいま、持ってきます!」
「いや、そこじゃねーよ!!!」
サイタマさんが先手を切った
「サイタマさん落ち着いてください」
「そうです、れんげなら俺が今すぐに」
「だから、れんげの問題じゃねーって!」
「では、……ひえきったビールですね!」
ふたりのコントが終わらなく、しばらく見ていても
つまらないので、私がれんげを持ってこようと席を立ち
戻ってきた頃には、ふたりとも落ち着いていた
「つまるところ、ジェノスくん」
「はい」
「サイタマさんは、肉が足りないと言っているのです」
「…なるほど、俺の配慮が足りなく申し訳ございません」
「そもそも、ジェノスくんはどうしてこのおかy」
「『チェー』です」
「…このチェーにしたんですか?」
それまで、反省していたのか顔を上げてこなかったジェノスくんが顔を上げ
私の隣りであぐらをかいているサイタマさんをじっと見つめる
「先生に俺の今の気持ちを表したい伝えたいと思ったんです」
なに、この女の子な感じ
料理に気持ちを込めて相手に伝えるって女子力高いです!
という気持ちを抑え、ジェノスくんの作ったこのおかy、いやチェーを
サイタマさんに合図を送りながら「食べましょう」と伝える
彼もそれを了承したのか、ふたりでれんげを手に取り一口食べる
「「……………………あっま」」
甘すぎるそのチェーという料理に私たちは完敗した
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