バイプレーヤー


そんな顔するならやめればいいのに。
本当はどうにもならないことを知っているのに、なんでそんなにつらそうな顔をしながらあの子を想っているのかな。馬鹿なひと。私だったらそんな顔、させないのに。

隣にいる私の視線に気付いた仁王が眉をひそめながら、なん?と言ったから、何でもないように別に、と返しておいた。

私も感情を殺すのが上手くなったな。今ならドラマに出るのは無理でも、演劇部の準主役くらいにはなれるかもしれない。
こうやって自分で想像してみる時ですら、主役になれないのが切ないところだ。決して華があるわけでもないし、目立つほうでもない私は主役に選ばれたりはしない。それがたとえ自分の人生でもだ。
仁王が想いを寄せているあの子は、間違いなく主役になれるタイプ。あの子自身の人生においても、ましてや他人の人生でも、本人を差し置いて主役になれる。今まさに、仁王の人生では彼女が主役だ。
でも、あの子はあの子で恋をしているらしく、仁王がいくら声を掛けてもなびいてくれないらしい。

「…なぁ、なしてあいつは俺じゃだめなんじゃろ」
「さぁ…、そんなの私に聞かないで本人に直接聞いてみたら?」

珍しく仁王が弱音を口にするから、なんだか泣きそうになってしまう。私だってそのまま仁王に聞いてみたい。だめな理由なんて聞きたくはないけど。
あの子は仁王がだめなんじゃなくて、きっと仁王だって私がだめなわけではない。ただそれ以外に好きな人がいるだけで。
ものすごく努力して頑張ったら少しはこっちを見てくれるかもしれないけれど、あの子は少し微笑むだけで仁王の全てを手に入れられる。神様って不公平だなぁって、ちょっとだけ恨み言を言いたくなる。

「そんなん聞けるわけなか。みょうじには分からんか、こういう繊細な男心っちゅうの」
「分からないし、分かりたくないよ、別に。つらいだけじゃん」

そうやってさ、自分だけ悲しいみたいに言って。
仁王は女心が分かんないからあの子も振り向いてくれないんじゃん、って、言えたらいいのに。
言ってやりたかったけど、言葉に出したらそれはもう止まらなくなっちゃいそうで。
みじめったらしく泣いて、私の気持ちも分かってよ、なんで私じゃだめなの。とか言ってしまいそうだったから、やめておいた。

「本当に、片想いっちゅうのはつらいのう」

そう言って、仁王は私の肩に頭を乗せて、手を握るわけでもなく、私の人差し指だけを握った。

握られた、たった一本の指から伝わる仁王の体温。
隣にいたのが私だっただけで、別に誰でもよくて、ちょっと寂しいからこうしてるだけだって分かってるのに。
嬉しいとかドキドキしたりとか。でもやっぱり悲しくて。それでも手を引けば簡単に離れていく体温を黙って受け入れてる私は、やっぱり演技派だ。

「ちょっとだけこうしとってもええ?」
「どうぞ、ご自由に。今度私が弱ってる時はお願いするから」
「おん、任せんしゃい」

任せろなんて言われたら、今すぐ抱きしめてほしい。
仁王があの子を想って切ない表情をしてる時が私の弱ってるときなんだよ。
そのことを知ったら、仁王はこんなことしてくれなくなるかな。それとも、ただ隣にいただけの私にこんなことをしちゃう仁王は、もっと温もりを求めてくれたりするのかな。

私もさっきの仁王みたいな顔、してるのかな。本当に、やめればいいのに。こんなつらいだけの恋。
結局恋をしたらさ、みんな馬鹿になっちゃうんだろうね。
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