いびつな両思い


俺にはなまえサンの言ってることがよく分かんねぇ。俺はなまえサンのことが好きだし、なまえサンだって俺のこと好きなら両思いってやつじゃん。
なのになんで告白した返事が付き合えねぇなの。

それからしばらくしてその意味が分かる時がきた。
なまえサンといつも一緒にいる女の人が俺に告白してきたからだ。
多分、友達は裏切れねぇとかそういうの。
もし俺が同じ立場だったらどうすっかな。俺だったら……遠慮とかしねぇ。それって失礼じゃん。告白してきた相手にも、友達にも。
でもさ、俺も結構いい性格してるって言われんだよね。その先輩と付き合ったらさ、なまえサンはどんな顔すんのかなーとか思っちゃうわけ。
だってなまえサンはこうなること望んでたわけじゃん。だったらそうしてやる。



「先輩、もう帰るんスか?練習見てって下さいよ、ついでになまえサンも」

下駄箱で彼女である先輩となまえサンを見つけて寄って行って声を掛ける。

「ついでって…いくらなんでも失礼な。ちくしょう、いいなぁ、ラブラブで。邪魔しちゃ悪いし私は先に帰るよー。じゃあね」

そう言い残して早々になまえサンは靴を履きかえて校門へと歩いて行った。
本当は、自分の彼女よりも先に目についたのはなまえサンだったりするんだけど。ちょっと傷付いたような表情だとか、寂しそうな後ろ姿とかを盗み見るのが楽しいと思ったり。

こういうことがある度に俺は性悪になっていく気がする。もっと傷付いた顔しろよ、俺の前で泣いてみろよ、とかさ。
もしなまえサンが告白した時頷いてくれてたら絶対に傷付けたり泣かせたりしなかったのに。なんでこうなっちまったのかな。


いつまで続けりゃ俺も気が済むんだろ。
なまえサンが立ち直れないくらい傷付くまで?
なまえサンが泣くまで?
それともなまえサンが俺に好きって言うまで?
そんな日は来ないってことくらい、分かってるけど。

そのうちなまえサンだって俺が何言っても傷付いた顔なんてしなくなって、新しく好きなヤツ作って、そんで彼氏とかも出来たりして。
それを見て俺は虚しい気持ちになるだけだ。


想像してた両思いってのは、もっとこう、甘酸っぱくて幸せいっぱいなものだと思ってたのに、実際は真っ黒でどろどろしてて。
こんなんだったら普通の片思いのが楽しかった。
なんで告白した時ちゃんと気持ち隠しといてくれなかったんだよ。それって残酷以外の何でもねーし、ズルいじゃん。
言わないでくれたら、知らないまんま忘れられたかもしんねーのにさ。
何、もしかしてそういう作戦だったりするわけ?そうだとしたら、なまえサンも大概性悪だ。
毎日、もうこんなことやめよう、って思ってもなまえサンの顔見たらまた馬鹿みたいなことしてる自分がいて。

「あー、俺ってどうしたいんだろ…」
「ん?何の話?」
「…いや、何でもないッス!じゃあ、一緒にコート行きましょ」

先輩と並んでコートへと歩いていると、怪我しないように頑張ってね、なんて言われて申し訳ない気持ちになる。
まっすぐに俺を好きでいてくれるこの人のこと、好きになれればよかったのに。可愛いし、優しいし、俺にはもったいないくらいの人だけど、どんなに好きになろうと努力しても、俺が好きなのは結局、どこまでもズルいくせに、ズルくなりきれない友達思いのなまえサンだ。

だからさ、せめてもう少しの間だけでも、傷付けさせて。
あんたがそんな顔してる間は俺のこと好きなんだって分かるし、俺がこんなことやってる間はまだあんたが好きだってこと。

こんなことでしか繋がれないじゃん、俺達ってさ。
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