モイラ


「なんで結婚指輪に付いてるのがダイヤモンドか知ってる?」
「知らねー…何で?」
「硬くて傷つかないから永遠の愛の象徴なんだって」
「ふーん。愛なんて簡単に傷付くし壊れちまうのにな」

ほんとそうだよね、なんて言って顔を合わせて笑う私たちにはロマンの欠片もない。
永遠の愛なんて存在しないんだからそんなものを贈るなんて皮肉だとしか思えなかった。
そういう考え方が一致したから私とブン太は恋人同士でもないのにこうやって服も着ないで部屋に一緒にいるわけで。

ずっと好きだよとか愛してるなんて言葉は誰にでも言えるし、それを口に出す人間ほど簡単に離れていく。
その言葉を吐いた瞬間の気持ちに嘘はないかもしれないけど、いつか嘘になるんだったらそんな言葉欲しくもない。
結局、何も言わない人間が一番誠実で信用できるのだ。
かと言ってブン太のことを信用してるのかと聞かれたらそうでもないんだけど。
最初から信用とか安心とか愛情とか関係ないとこにいるから私たちはなんだかんだいって長く一緒に過ごせているんだと思う。
たまに友達に不健全だね、なんて言われるけど大量のドーパミンで頭の中が麻痺してるよりはよっぽど健全だ。
それで正常な判断が出来なくなって痛い目見てる子を私は何人も知っているし、そういう子は決まって別れた後に文句を並べて最初はあんな人じゃなかった、とか言うから笑ってしまう。
それはお互い様でしょ、と口に出して言ってやりたい。相手に言わせてもきっと同じ言葉が返ってくるんだから。

「っつーか、布団引っ張んなよ。さみー」
「だったらもうちょっとこっち来てよ。シングルサイズなんだからくっつかないと。」

そう言えばぴったりと密着してきたから、胸のあたりに勝手に頭を載せる。
スポーツをしているだけあって、しっかりとした筋肉が私の頭を支えてくれた。寝心地はよくないけど寒いんだからしょうがない。

「おい…頭重いんだけど。」
「優しくない男はモテないよー?」
「モテすぎて困ってんだからちょうどいいだろい」
「だったらこんなとこにいないでその子たちのとこいけばー」

自信満々な物言いがなんだか鼻について、起き上がって服を着ようと頭を浮かせると、ブン太の腕が首に絡んで引き寄せられて、頭が元の位置に戻ってしまった。
自分で重いとか言ったくせにこういうことをするんだから本当に気まぐれな男だ。

「なぁ、今のヤキモチ?」
「は、冗談。なんで私がやきもちなんて焼かなきゃいけないの」

天井を見つめたままそう答えると、可愛くねーの、なんて言葉が聞こえてくる。
別に今さらブン太に可愛いと思われたところでいいことなんか何にもない。
それともブン太は私に可愛い女を演じろとでも言うんだろうか。
それこそ周りにそんな子いっぱいいるんだから黙ってそっちに行けばいいのに。
私にそんなの求めてるんならブン太もついに頭がおかしくなったのかもしれない。

「……俺らの関係が壊れるとしたらいつなんだろーな。」

やっぱり今日のブン太はおかしいみたいだ。なんだか柄でもないことを言い始めた。
とりあえず今が楽しけりゃいいって男が言うセリフじゃないなぁ、それ。

「さぁ…いつだろ。案外、今すぐかもよ」
「何、なまえはやめてーの?」
「別に。ブン太が珍しく変なこと言うから言ってみただけ。」
「あっそ。なんかお前、ムカつく。」

そりゃどうもありがとう。と返事をしたところでブン太は体を反転させて私に覆い被さってきた。
塞がれた口唇からは、もう言葉を出すことは出来なくて甘い吐息が洩れるだけ。


ねぇ、ブン太。それでいいんだよ。言葉に出したらいつか嘘になるから。もう何かを伝えようなんて思わないでよ。
下らないと馬鹿にしている永遠の愛なんていうものを、一番欲しているのは本当は私たちで。
だけどそれを実現する術を私たちは知らないし、きっと知ることなんて出来ないんだから。
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