二人の間に吹いた、とても冷たい風は私の肌に突き刺さる。私達以外の人は見当たらず、ガラリとした駅にベンチで並んで座っていた。
別段喋るわけでもなく、ただただ無言で。無言が気まずいわけではない。むしろ今は、丁度いいと感じるくらいで、寒さからか、悲しみからかマフラーに顔を埋めた。
電車が来るまで、あと10分もない。それに乗ったら何時間と揺られて、自分の住むところへ帰らなきゃいけない。
『三日間、あっという間だったね』
「…そうだね」
その言葉とともに、強く握られた手を私も握り返した。寂しい。とても…とても寂しい。何故、遠距離恋愛なんだろう。
『帰りたくないなぁ…』
ボソリと零れた言葉は、心の底からの本心。帰りたくない。やっと、やっと会えたのに、また耐えなきゃいけない。中学生の彼に来させるわけにも行かないし、そんな負担などもってのほか。
かといって私も成人してるわけじゃないから、そう簡単には会いに来れない。左手に付けてある時計を見ると、もう5分と無かった。それを実感した瞬間に猛烈な寂しさに襲われる。
じわりと溜まる涙。気づかないフリをするには、遅いし止められない。ボロボロと遠慮なしに流れる涙を、拭うでもなく、ゆっくりとカルマの肩に額を押し付けた。
「遊乃、冬休み、会いに行くから待ってて」
ふわりという効果音がつきそうなほど、優しく撫でられた頭。耳元からはそんな言葉が響いてきて、余計涙が溢れる。
顔を上げると、どこか、泣きそうで、でも微笑んでいて、そしてとても寂しそうな…そんなカルマの表情。その奥からは目当ての電車が見えて来て、近付いてくる。
『かるま、かる、ま…大好き。学校、と、勉強、頑張ってね、ほんと…だいすき』
「遊乃ちゃんも、頑張ってね。俺も頑張るから。…ほら、もう泣かないで」
『〜〜っ、無理ぃいい、寂しいよぉおお、もおおお!』
「ははっ、俺も……すげぇ寂しい」
思わず、言葉に詰まった。だってこんなにも、弱いカルマを私は見たことがない。だめ、私が泣いちゃ、だめだ。
カルマの前髪をかきあげ、おデコにキスをする。驚くカルマに笑って見せて、荷物を手に取り立ち上がる。目の前には電車が止まり、開くドア。
ゆっくりと歩き出しては、入る直前で止まる。また、溢れてきそうな涙を我慢して「またね」そう言おうと口を開いた直後に、肩を掴まれキスを、されていた。
『ッ!!』
「愛してるよ。またね、遊乃」
優しく背中を押され、電車に入る。さっき、泣いちゃだめって思ったばっかなのに。ドアが閉まり、あぁ…さよならだと嫌でも実感してしまう。私の涙は止まることを知らないらしい。
『(あ い し て る)』
「(お れ も)」
口パク、だが通じたことが嬉しくてお互いが笑みを浮かべた。ゆっくりと動き出した電車は、確実に私達を遠ざけて行く。最後まで、最後まで見つめていた赤は次第に小さくなり、見えなくなった。
負担だから来させたくない、そう思ってたのに、カルマは行くからと行ってくれた。それだけで嬉しいし、次まで頑張れる。
『…大好きだよ、カルマ』
カルマから貰ったネックレスを、私は強く握りしめ頑張ろうと心に決めた。
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