いつもと変わらない帰宅路に着く途中、思いがけない人物を見つけた。それが俺の想い人ときたもんだから、緩む頬を抑えられるわけもなく片方の口角が上がるのを実感した。
どうやって脅かしてやろうかと、考え、思いついたと同時に彼女を見ると、そんな思考も全てぶっ飛んだ。……明らかに様子がおかしい。一点を凝視して目を見開いている。視線の先を辿ると俺も目を見開くことになった。
そこには、嫌という程に聞かされた惚気話や、写真を見せられたから目に焼きついている彼女と付き合ってる男が居たから。別にそれだけなら何も思わないし、彼女を見なかったことにして大人しく家に帰っていただろう。そうしなかったのは、男は仲良さげに女と手を繋いで歩いていたから。
「…遊乃ちゃん」
ゆっくりと近づいて、未だに彼を凝視している遊乃の名前を呼ぶ。こちらを振り向いた遊乃は、今にも零れ落ちそうなほどの涙を溜めていた。そして、弱々しい声で俺の名を呟く。
『はは、こゆ、こと…最近冷たいと思ったんだわ』
「……、…」
俺の顔を見て、遊乃はポツポツと髪をかきあげながらに話し出した。
『なんとなく、分かってたんだけどね。直接的見るとキッツイな』
「ねぇ、遊乃ちゃん」
『……カルマ、この後暇?ご飯食べに行こうよ』
「遊乃」
『ッなに!!』
やっと視線を合わせてくれた彼女は俺を睨む。その目にはまだ涙は溜まっていて、何の迫力もない。いいよ、なんでも。八つ当たりでも俺をその目に写して。
ニコリと笑ってやると、更に睨みをきかせる。男はこちらにまったく気づいておらず、女と話している。遊乃の腕を取り男の元へ歩き出す。気づいた遊乃は、必死に帰ろうと連呼しては腕を引くが聞こえないフリ。
「ねー、お兄さん」
もうここまで来たら流石に諦めたのか、俯いたまま黙って俺の隣に立っている。男は俺を見て、遊乃を見て思い切り顔を歪めた。…もう、遅ぇよ。
「遊乃ちゃん」
名前を呼んで腰に手を回し、そのまま引き寄せ小さな頭を俺の胸に押し付けた。
「いらないんなら、俺が貰ってもいいよね?その女の人と仲良くやりなよ。あぁ、お姉さん。ソイツ浮気野郎だから気をつけた方がいいよ〜」
ぎゅっと俺の服を掴む遊乃。頭に軽くキスをして耳元で行こう、と囁いた。無言で頷いたのを確認し、男を睨みつけその場を後にした。
◇◇◇遊乃said
「もー、泣き止んでよ遊乃ちゃん」
公園のベンチに腰掛け、赤髪、もといカルマは目の前…地べたに胡坐をかいて座っている。いつまでも泣き止まない私に苦笑を零しては、何度も何度も涙をぬぐってくれる。
「そんなに…アイツが良かった?」
『っ、ちが、う』
「じゃあ、どうしたの」
そりゃ、悲しかったよ!これでもかってくらい傷ついたし、ショックで頭が真っ白になった。カルマが居なかったらって考えると恐ろしい。それより、それよりも……
『なんであんなカッコイイことするわけえええええ』
言うと同時にまた涙が溢れてきて、当の本人は豆鉄砲を食らった鳩のような顔。
「あは、何それ。そんなことで泣いてるわけ?」
『そんなことって言うな!なんで私あんなやつに傷つけられてんのよ!意味わかんない!なんでカルマが助けてくれて、あぁあ、もう!!』
「ちょ、なに、言ってることわけわかんないよ」
『私もわかんない!!』
カルマはそれに、ふ、と笑みを漏らすと突然真剣な表情を見せた。その表情にドキリと心臓は音を立て目が離せません。
「俺、遊乃のこと好きだよ。このタイミングはかなり狡いだろうけど、問題ないよね。俺じゃダメ?」
『何バカ言って』
「本気だよ」
『ッ……』
「遊乃」
『か、る…ま』
「俺のになって」
どこぞの王子様みたいに、手の甲にキスを落とすカルマに心臓を鷲掴みにされたような感覚に陥る。熱くなる顔を隠すことも出来ず金魚のように口をパクパクさせることしか、今の私には出来なかった。
カッコ良すぎるんだよ、コンチキショー!!!
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