賑わう街中、ふと目に入ったチラシにはデカデカと書かれた「急募」という文字。よく見るとバイトの募集だった。しかもたった1日、再来週の日曜日だけ。年齢制限は中学生からで内容がティッシュ配り。全て配り終えて2万円……。
流れるような動作で私は携帯を取り出し、書いてある番号に電話をかける。数回のコールの後、聞こえてきた女の人に広告を見たと伝える。
正直ちょーっと怪しいなと思ったが2万円はデカイ!!話を聞いているうちに案外普通だと思っていた矢先に起こった問題。"二人一組"そう言われた。咄嗟に出たのは
『あっ…私が遊乃 姫龍です!もう一人が赤羽業です!はい、分かりました。再来週の12時ですね、はい、伝えておきます…失礼します』
切った瞬間に出た溜息。やってしまった。まさか二人一組だとは思わなんだ。言わないわけにはいかない、次はカルマの番号を出してそれにかける。
「もしもーし、どったの遊乃ちゃん」
『あー、あの、さ…再来週の日曜、暇だったりする?』
「別に暇だけど、何?デートのお誘い?」
『……来週、カルマが食べたがってたパフェ奢るから再来週付き合って』
『それは良いけど、何があるわけ?』
『ごめん……勝手に1日だけのバイトに、カルマの名前…出しちゃった』
「はあ!?何それ!?…はぁー、ま、いいよ。付き合ってあげる」
『ほんと!?ありがとカルマ!恩に着る!』
「パフェ、忘れんなよー」
『分かってるって!なんでも奢っちゃる!』
◇◇◇
詳しい事はパフェを食べながらカルマに伝えたため、日曜の11:30に集合ということになった。25分頃に目的地に着いた時には、既にカルマはそこに居て私を見つけるなり手を振る。カルマの前を通り過ぎる女の子は皆チラチラと見ては通り過ぎる。わかるよ、かっこいいもんね。
『待たせたね、ごめん』
「全然待ってないよ、行こ。あ、俺場所わかんないから案内してね」
『りょーかい』
―――目的地のビルに着き受付を済ませると部屋に通される。少し待っていると開いたドアの先には、優しそうなおばさんが両手に、結構な量のあるポケットティッシュをカゴに入れた物を持って入って来た。
「初めまして。応募してくれて助かったわぁ!貴方達だけだったのよぉ!」
『え、そうなんですか!?』
「そうなの。ちょーっと場所が場所だからねぇ。だから二人一組なのよ」
『え、と、その場所ってのは…』
私の問にはすぐ答えず、おばさんは向かいのソファに座りカゴをそれぞれ私とカルマの前に置く。そこでやっと口を開いた。
「……よく言われてる、ナンパ街、ね」
『あぁー……』
「だから人の多いこの時間なんだ」
「そ!日曜だからバカも多いけど一般人も多い。人が多いから無茶もしないでしょ。…辞めるならいいのよ?まだ大丈夫だけど…」
『いえ、大丈夫です!やります!』
「よう、よかった、ありがとう。よろしくお願いします」
嬉しそうに笑ったおばさんに、私も一礼してカゴを持ち部屋をあとにした。ビルを出て、溜息。
『カルマで良かった』
「…なにが?」
『一緒に配るの』
返答の意味があまり分かってないみたいで、カルマは少し首をかしげる。
『だってあの辺、ヤンキーとか…多いし、怖いじゃん』
「あぁ、そゆこと。あんなんチョチョイとヤっちゃったらお終いだよ」
『あんたが一番恐ろしかったわ』
ナンパ街とやらに着いたのはいいが、おばさんの言った通り人が多い。正直、予想以上だこれは……ふーむ、近くに居て配っても意味無いかもなあ。
『カルマ、私あっちの方で配ってるね。カルマ、女の子が通ったら、笑ってどうぞって言うんだよ!そしたら絶っっ対貰ってくれるから!』
「何その変な根拠…まぁ、やってみるけど、遊乃気をつけろよ」
『ん、ありがとー。じゃ、後でね!』
小さく手を振り、離れた所まで走る。頑張って配って、ちゃっちゃと帰ろうそうしよう。
『良かったらどうぞー!』
笑顔で声をかけ、ティッシュを配る。やっぱ、おばちゃんは結構貰ってくれる。男の人も案外受け取ってくれるもんなのね。受け取る時にありがとう、と言われると少し嬉しくなる。
どれ程時間が経ったか分からないが、貰ってくれる人が少なくなってきた。カルマの方はどうだろう。イケメンだからなぁー、何度も前を通って貰う女の子とか、すげえ居そう。私でもやるかもしんない…。
まだ半分も減ってないカゴの中を見つめては小さく溜息を零す。勿論配ることは忘れない。
『良かったら、どう…ぞ……』
最初こそ楽しかったものの、時間が経つにつれ作業になってきたため、顔を見ていなかった。言葉の途中で顔を見あげて心底後悔した。している。
金髪、茶髪、タバコに顔じゅうピアス!チャラチャラした格好!いかにも集団きた!うーわ、やっちまった!ティッシュなんて使わなそう!!
だってこんなヤンキーからポケットティッシュ出てきたら笑うよ!あー、思わず笑顔も引き攣る。引き攣ってるのがわかる。
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