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ダイゴと副社長秘書


「んー、長旅だった」

ホウエンの大地を踏みしめるのは1ヶ月ぶりだった。俺は、はるばるシンオウ地方で1ヶ月のリフレッシュ休暇を満喫したのだ。両手に抱えた紙袋には、沢山のお土産が入っている。これを配る前にとりあえず会社に顔を出そうかな。紙袋を持ち直し、チルタリスをボールから出す。

「頼んだよ、チルタリス」



只今戻りましたと社長に頭を下げ、お土産の入った紙袋を手渡す。それを受け取りながら社長が「1ヶ月満喫できたかい?」と笑うので、こちらも笑顔で頷いてみせた。

「あいつには?」
「まだですが」
「はは、キミもなかなか」
「その前にやることもあるので」

ここはデボンコーポレーション本社。俺の勤め先である。社長室を出て、別の部屋に向かう。目当ての部屋に入り机を確認するが、俺の想像とは真逆の綺麗さに眉が上がった。もっとこう、書類の山かと思ったんだが。おや、俺が顎に手を当てた時、勢いよく背後の扉が開いた。俺以外でこの部屋に無遠慮に入ってくる人物なんて1人しかいない。

「名前!」
「副社長」

デボンコーポレーション副社長、ツワブキダイゴただ1人だ。

「なにが!副社長、だよ!僕になにも言わず1ヶ月も留守にして!」
「休暇ですよ、休暇」
「なんで僕になにも言わないの!」

副社長は俺に掴みかかってきそうな勢いで、問い詰める。

「心配でもしたんですか?」
「するに決まってんだろ!」
「……その言葉、そのまま貴方にお返ししますよ」
「へ?」
「俺になにも言わずに洞窟に篭ったりするのは貴方でしょう。身をもって分かりましたか、俺の気持ちが」
「心配してくれてたの?」
「してないとでも?」

俯き気味に、ゆらゆらと視線を左右に彷徨わせた彼はぽつりと「…そうか」と呟いた。

「これからは、一緒に行こっか」
「なんでそうなる」

にこりと人当たりの良さそうな笑顔でなにを言っているんだ。そうじゃない。行き先と帰りの予定を伝えることと、人並みに仕事をしてくれれば後はどれだけ好きなことをやってくれても構わないのだけれど。あ、できればスーツを泥だらけにするのは勘弁してほしい。かいつまんでそう伝えれば、この御曹司は「こらからはちゃんと伝えることにするよ」と笑顔を俺に向ける。くそ、かわいいな。

「かわいいって思ったかい?」
「……次はイッシュかなぁ」
「ごめんって…あ!違う!僕は無言で1ヶ月もどこかへ行っていたことに怒ってるんだよ!」
「それは副社長が仕事を放り出して行き先も告げずに洞窟にこもるという話を社長にしたら、1ヶ月のリフレッシュ休暇をくださったので。驚いたことに、俺がいない方が副社長は仕事をするようですし」

ねえ、と言うように机に片手を乗せた。俺がいない間、どれだけ仕事を溜め込んだのか心配だったがそれも杞憂だったようだ。

「…それは、君がいつ帰ってきてもいいように、ここに通っていたからだ」
「………」
「だからって定期的に留守にするとかはやめてくれよ。どうやら名前がいないと僕は満足に石も磨けないようだからね」

眉を下げながら困ったような笑顔で頬をかく副社長。顔面偏差値の暴力だ。その言葉に一瞬、家はどんな感じになっているんだ?という心配が頭を過ぎったが今は忘れておこう。

「一緒に帰ろう、トクサネに」


20161105
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