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04


「名前のクソ童貞!」
「ッおい!言葉が汚い!」
「知るか!もう僕に話し掛けないで!」
「はぁ!?いってぇ!」

そう言って近くにあったやけに分厚い本を投げつけ部屋から出て行ったトムくん。ちなみにその本、"猿でも分かる実用魔法"は見事に俺の顔面にクリーンヒットしたのである。どうしたものか、と談話室に降りていけば他のスリザリン生の「なにがあったんだ」という視線が突き刺さる。

「顔が赤いぞ、名前」
「君がかっこよくて照れてしまうね」
「だろうな…ではなく、童貞なんだって?」
「うるさい殺すぞ」

ギロリと睨めば、すまんすまんと笑いながら両手を上がるアブラクサス。どうやら、珍しいことにトムは防音魔法をかけ忘れていたらしい。いや、わざとか。

「ねぇ、鼻曲がってない?」
「大丈夫だ」

アブがローブのポケットから取り出した手鏡を俺に向ける。…こいつ手鏡なんか持ち歩いてんの。鏡に写る俺の顔は鼻は曲がってないにしても、白い髪の毛と肌に映えるように本が当たった部分が赤くなっている。鏡を仕舞ったアブが事の経緯を尋ねてきたから、ありのままを話す。

「俺はラブレターの返事を書いてたんだよ」
「マメな男だったんだな」
「今までは何も言われなかったんだけどさ、今日はどうせ断るんだから返事書くのやめたらって。でも俺は誠意には誠意を返したいんだよ。そんな感じで少し揉めた結果がこれだ」
「あー…どうせリドルの気持ちも分かってるんだろう?」
「うん。でもトムに話し掛けないでって言われたしなぁ」
「名前は怒ってるのか?」
「全く」

怒ってないけど、あの言葉通り俺からは話し掛けないことにした。食事も一緒にとらない、魔法薬学でもペアを組まない。そんな生活が一週間も続くと、俺たちが険悪ムードだということがホグワーツ全体にまで知れ渡ったようだ。だからこうして寮問わずの女子生徒に囲まれることが多くなったらしい。アブ曰く、普段の俺とトムが一緒にいるとどうも話しかけにくい空気感らしい。

「……名前、仲直りしたのか?」
「仲直りもなにも、俺は喧嘩した覚えなんかない」
「…はぁ」

アブの溜め息を聞き流して自室に向かう。すると、俺のベッドの上に見慣れない封筒が置いてあった。それを拾い上げ、封を開けながらベッドに腰掛ける。

「些細なことで怒鳴ってしまってごめん。でも、僕の気持ちも少しは分かって、」
「声に出すなよ!」
「おや、トムくんではないですか」
「………」
「まぁ座りなよ」

スペースを作ってやれば、素直に隣に腰を下ろす。手紙の内容は、「些細なことで怒鳴ってしまってごめん。でも、僕の気持ちも分かって欲しいんだ。我儘だと思うだろうけど、お返事を待ってます」というもの。

「僕の気持ちって?分からないから教えてくれよ」
「……この、スリザリン」
「なんとでも」
「分かったよ!妬いたんだよ!これでいいのかい!うわっ」

その言葉に笑って、トムを後ろのベッドに押し倒してやる。誠意には誠意を、トムの額にキスを落とすと、くすぐったそうにしてから俺の頬に手を添えてきた。「痛かった?」というトムの言葉に、分厚い本が飛んできたあの日のことを思い出す。そんなこと今の今まで忘れていたくらいには些細なことだ。

「それよりも」
「それよりも?」
「俺さぁ、童貞って馬鹿にされたじゃん?」
「あ」
「俺の気持ちも分かってよ」

二重の施錠とあの時トムが掛け忘れた、もとい掛けなかった防音魔法もしっかりと。俺は満面の笑みで杖を振った。



「ヘタレ」
「……なんとでもどうぞ」

トムが俺の背中を杖の先でつついてくるのを無視してスリザリンのテーブルへ向かう。どこからともなく、リドル先輩がむくれているなんて初めて見たわ、可愛いわ!なんて女子の声が聞こえてくる。むくれる理由が理由なだけに、いや、可愛いと思うけどね。

「仲直り…したのか?」
「アブ」
「もちろん、したさ」
「その後になにかあったわけだな」

アブの問い掛けに口をつぐむ。いや、むしろなにもなかったね。それに、周りの生徒たちが聞き耳を立てているであろう状況で本当のことを言うのはどうだろうか。もうトムに任せよう。

「名前が、仲直りしたからってチェスをやろうって言い出したにも関わらず勝手に寝てしまってね」

そこそこ周りにも聞こえるような音量で言う。なるほど、さすがトムだ。だいたい合っているけど、この場合は俺が泣く泣くチェス盤をレダクトしたくらいは言ってもいい。それは名前に非がありそうだな、と言ってから部屋に戻っていったアブラクサス。それと同時に周りの人間から向けられていた好奇心を含む視線もなくなる。

「君は本当に男かい?」
「女子生徒にでも見える?」
「それなら、スカートでも穿いて貰いたいものだね」

ワザとらしい笑顔で返され口をつぐむ。諦めてテーブルからベイクドポテトを取り、口に放り込んだ。美味しい。隣でトムが俺を見ながら頬杖をついて、溜め息を吐く。いや、俺だって溜め息を吐きたいさ。それからお互いに何かを口にするわけでもなく食事を終え、会話もせずに自室に戻ってきた。すると思い出したように、ベッドに腰掛けたトムが口を開く。

「僕ってそんなに魅力がないのかな」
「だったらこんなに女子生徒の視線を集めたりする?」
「そういう話じゃない」
「そういう話だよ」
「まさか、あの後なにもせず寝るとはね」
「しなかったじゃなくて、できなかったんだよ」
「なに、それ…」

珍しくトムが言葉に詰まる。お得意の開心術だ。どうぞ読んでくださいと言わんばかりに心を開き切っていたおかげだろうか。
だって俺は君が何よりも大切なんだからね。


20151101
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