OTHER | ナノ

03


俺とトムの取っている授業はだいたい同じだ。ペアと組む時もトムと一緒。彼は優秀だから。別にズルをしているわけではない。


「角ナメクジをすり潰して」
「あぁ、ふあぁ」
「…みっともない声を出さないでよ」
「俺がナメクジ苦手なの知っててやらせてる?」
「うん」
「俺のこと嫌いなの?」
「僕はなによりも君が好きだよ」
「あっそ…」


魔法薬学の授業中。いつも通り、トムとペアを組んでいる。だってこの方が問題も起きずにスムーズに授業が終えられるだろう。俺が弱音を吐きながらなんとかすり潰した角ナメクジを鍋に入れてくるくるとかき混ぜている。これで完成なはずだ。鍋の中を覗きながら1つ頷いたトムをぼんやりと眺めていると、隣の席で調合を行っている女子生徒2人組みが視界に入った。


「トム!」


ぱん、という破裂音が教室に響いた。隣の席の女子生徒が鍋の中に入れたもの。チラッと視界に入ったものは細切りにされた角ナメクジだった。反射的に女子生徒を力一杯押し退け、俺よりも鍋に近かったトムを隠すように抱き締める。

「名前…?」
「トム、大丈夫か?」
「僕は別に、って、名前…!」

俺の顔を見てから、周囲を見渡してなにが起こったかを把握したトムは勢いよく隣の女子生徒を見る。少しずつ瞳に赤がにじみ始めているトムの名前を呼んで制してから、俺が力一杯押してしまったせいで未だに床にへたり込んだままの女子生徒に手を差し出し起き上がらせる。

「あの、わたし、ごめんなさ、」
「突き飛ばしてしまってごめんね、怪我はないかい?」
「そんな、私はなんともないの、でも名字くんが、」
「君たちに怪我がなくてよかったよ」
「先生、調合は終わってるので」

ぐい、後ろから手を引かれてそのまま教室を出た。大股で歩くトムに半ば引きずられながら首を傾げると、君は自分の体のことも分からないのか!と責められるように告げられる。俺の手を握る力がぐっと強くなった。普段のトムでは考えられないほど、力任せに医務室の扉を開け中に押し込まれる。

「顔だよ、顔!」
「顔って……いっ、た!?なに!?」
「だから言ったろう!」
「いたいいたい、いや、本気で危ないやつだこれ」
「マダム、お願いします」

それから処置をしてもらって、毎晩つけるようにと薬とガーゼを受け取った。飛び散った魔法薬がついた左頬、ちょうど頬骨の辺りが赤く爛れていたが、薬を使えば消えるらしい。その言葉に安心したのは俺よりもトムだった。教室から出るときにトムが教科書も一緒に持って来ていたようで、医務室からそのまま寮の自室へ戻る。

「君は、僕よりも己を守る努力をするべきだ」
「なんで?」
「…なんでって、僕が嫌なんだよ。君になにかあることが。ましてや痕なんか残ったら」
「それは俺もだよ。トムが怪我をしていたらと思うと、俺はあの女子生徒に杖を向けてしまうかもしれないからね」

トムは怪我をしていない方の頬に手を添えて、ガーゼの上にそっと口付けた。

「本当に君は…いいかい、毎晩僕がガーゼを取り替えるからね」
「うん、お願い」

次の日、昨日の俺がまさに王子様だったとか、守られるトムがお姫様だっただとかでホグワーツの女子生徒が盛り上がっているということをアブに聞かされたのだった。





「………」
「ねえ、名前」
「……いや、分かってるから言うな」

大広間で朝食を食べている間、明らかにいつもと異なる視線を感じる。憧憬の眼差しとかそういうのじゃなくて、こう、なんていうか。

「でも、間違ってないよね」
「そういう問題じゃない」
「そうかな」
「そうだよ」

トムは俺の耳元に口を寄せて「君がすきだよ」と小声で言う。すると感じる視線の先から微かにきゃあきゃあという明るい声が聞こえる。いやいや、いやいやいや。げんなりとしながら隣を見れば、にっこりと綺麗に微笑んでいるトムがいる。

「名前はどうなの?」
「……俺も君と同じさ」
「だろうね」


20151015
「#ファンタジー」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -