MHA | ナノ

07


「滞り無く終わるといいですね、USJ」
「あぁ」

職員室で、授業の準備をする消太さんを見る。先日の一件もあり、授業は三人体制で行うことになった。消太さんと13号を見送って、授業のない俺は自分の仕事を片付けている。課題の採点をしたり、質問に来る生徒に対応する。俺は通常授業では数学を教えているから、ヒーロー科問わずいろいろな科の生徒に関わっている。どの科でも、個性豊かな生徒ばかりだ。いや、今の個性は、こういう個性って意味ではなく。

「あ」

この感覚。言葉に言い表せないような、不思議な感覚。これは俺のもう1つの個性によるものだ。猫の第六感。それは霊感だとか予知能力だとか言われるけど、俺の場合は2パターンある。戦闘時にアドレナリンが出ている状況で発動するものは直感が強化されたようなものだし、日常でふいに発動するものは「虫の知らせ」というのが一番近いだろう。これから何かよくないことが起きる、もしくは起きている、というのが感覚で分かる。ということは、つまり。

「あら、名前くんどうしたの?」
「……いえ、ちょっと」

あるとすれば、USJだ。ミッドナイトさんの声を遮って受話器を取った。俺のこの個性は、「よくないこと」を知らせることには変わりないけど、その「よくないこと」の大小は問わないのが問題なんだ。カッターで指を切るなどの些細なことから、大きいことになると、最悪

「……繋がらない」
「え?」
「あの、USJです、電話が」
「……分かったわ、名前くん」

ミッドナイトさんが職員室に居る教師陣を集め、校長へ連絡を入れている。その時だった。職員室にヒーロー科1年A組の学級委員長が駆け込んできたのは。



USJが敵の襲撃に遭ったと、飯田くんが焦りつつもはっきりと伝えた。そうしてすぐさま、その時すぐに動くことができた雄英の教師たちがUSJに向かったのだ。USJに到着してからは、オールマイトさんと敵と思われる人物を横目に捉えつつ、俺はあの人の匂いを探す。

「名前、行っていいぜ」
「で、でも」
「こんだけプロがいるんだ、問題ねぇよ」

だから落ち着けとマイク先輩が背中を叩く。そのおかげか、少しだけ冷静になれた気がする。すみません、短く頭を下げて匂いを辿る。そこには数人の生徒と、地面に横たわる消太さんの姿があった。喉がヒュウと鳴る。落ち着け、取り乱すな、絶対に。

「名字先生!」
「怪我は?他の先生方も到着したから、もう安心していいよ」
「私たちは、でも相澤先生が」
「消太さん…」

そこからはあまり記憶がない。病院に運ばれる消太さんに付き添って救急車に乗ったことは覚えている。次に記憶は、病室のベッドの上で包帯でぐるぐる巻きになった消太さんを見るところから始まった。

「…………」

医師から診断を聞いた。ここで自分というヒーローの無力さを嫌という程痛感する。生徒たちはほぼ無傷らしい。そりゃあそうだ。消太さんと13号が身を挺して守ったんだから。じゃあ俺はなんなんだ。俺は、本人の意思に関係なく発動するこの個性が昔から嫌いだった。虫の知らせとは言ったものの、気付いたからって今回のように何も出来ない場合も多い。というか、戦闘以外においてはほぼ無意味だ。ならいっそ何も知らない方が、自分を嫌いにならなくていいのに、

「……ちゃんと息しろ」
「は、」

俯いていると、頭の方からぐぐもった声がした。

「しょ、た…さん」
「…あぁ、生きてるよ」
「消太さん、消太さん、っ」
「メソメソすんなよ…みっともねえ」

起き上がろうとする消太さんを慌てて止める。治療があったとはいえ、あんな怪我だ。無理に決まってる。

「消太さん、おれ、あの、」
「…ちゃんと聞こえてたよ、ずっと俺の名前を呼んでるの」
「しょ、…っ」
「だから泣くなよ、頼むから」

視界がにじむ。そんなこと言われても止まらないものは止まらない。安堵と心配と後悔がないまぜになったままに生徒の無事を伝えると、消太さんは「それはよかった」と小さく呟いた。

「他に、心配なのはお前なんだよ」
「…………」
「後悔したりするなよ」
「な、だって」
「やっぱり来たか、あれ」
「……来ました、けど無意味だった」
「無意味なことないだろ。気付いてからなにかアクション起こしただろ?それ見て周りも色々と考えてんだよ」

だから、無意味なんて言うな。そう言う消太さんの表情は一切見えない。この人は、なんでこんなにかっこいいんだ。そのせいか、また視界がにじんでくる。顔も手も包帯でぐるぐる巻きになっている消太さんには俺の姿は見えていないはずなのに、だから泣くなよとため息まじりに言われる。全部お見通しらしい。

「消太さん、はやく包帯とって、俺のこと撫でてください」
「……言われなくてもそうする」


160512 猫が顔を洗うと雨が降る
211107 修正
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