06
「おい、フード被れ」
「はい」
隣を歩く消太さんが小声で言う。その言葉に従い、着ていたパーカーのフードを深く被る。尻尾は上着で隠すように腰回りに巻いた。予想はしていたので準備は万全だ。
「オール…小汚っ!なんですかあなた!?」
「彼は今日非番です。授業の妨げになるんでお引き取りください」
誰だ今、消太さんのこと小汚いっつったの。オールマイトさんが雄英の教師になったことを聞きつけたマスコミが押し寄せることは想定済みだった。やっぱりね、って感じだ。消太さんの後ろにぴったりとくっ付いて校門をくぐったところでフードを脱ぐ。俺の名前を呼ばれたから、振り向かずに片手を挙げておく。
「消太さんは小汚くなんてないですよ」
「なんのフォローだよ」
「今日だって俺の好きなせっけんの……に"ゃぶ!」
「……うるせえよ」
「叩かないでくださいよ…」
マイク先輩なんて、こういう時に変装とかしなさそうなタイプだからすぐにマスコミに捕まりそう。目立つから。まぁ、校門をくぐってしまえばあの人たちはこちらに入ってこられない。なんて言ったっけ、えーと、雄英バリアとかなんとかって呼ばれてるシステムのおかげで、関係者以外は校門をくぐることができないのだ。便利なシステムである。と、思ったのも束の間。
《セキュリティ3が突破されました》
校内に響く警報。なんだと思えば、マスコミが校内に入ってきたらしい。まさか、すげえな。消太さんとマイク先輩がマスコミの対応に向かった。逆に俺は生徒たちにこの警報の原因と、特に心配することはないという旨を伝えに行く。生徒たちを落ち着かせてから職員室に戻っても、まだ2人は戻ってきていなかった。ああ、手こずっているんだな。
「俺もあっち手伝いに行きましょうか?」
「相澤先生が、余計に騒ぎが大きくなるから名前はこっちに寄越すなって」
「なんと…」
消太さん、ナイス先読み。それから少し経って、消太さんとマイク先輩が戻ってきた。2人とも少しくたびれてる気がする。
「お疲れ様です」
「はぁ、名前」
「はい」
少しだけ身を屈めると、消太さんが大きな手で俺の頭をわしわしと撫でる。猫好きな消太さんのメンタルリセット法で、俺も気持ちいい。とても合理的だ。すると、その様子を見ていたマイク先輩が何かを思い出したように口を開いた。
「イレイザー、1日名前を貸してくんねえか」
「却下」
「即決!しびれるぜ!」
「とりあえず理由を聞かせてみろ」
「あのなァ」
マイク先輩はいきなり表情を曇らせ、ぽつりぽつりと語り始める。
「今朝な…出たんだよ……」
「何がだ」
「Gが!Gがだよ!Oh shit!」
「G……?」
「消太さん、ゴキブリでは?」
「あぁ」
正式名称を言うな!とマイク先輩に注意された。それがどうして俺に繋がるんですかと聞けば、猫はゴキブリを退治するんだろ?とのこと。しかしマイク先輩、残念でしたね。
「俺、ゴキブリ駄目です」
「ハァン!?」
「退治の面では使い物にならんぞ、こいつは」
「だってきもちわるいし」
お前は猫だろ!?と嘆かれるが、個性が猫なだけで、俺は人間である。探せば、同じような個性でゴキブリ退治も完璧にこなせるような人がいるのかもしれないけど。それとこれとは別なのだ。
「さー、授業授業」
「無慈悲!」
20160510 ひとことください
20211107 修正