MHA | ナノ

03


「あれ?相澤くん、その顔の傷どうしたの?」
「あぁ…飼い猫に引っ掻かれたんです」
「相澤くん、猫飼ってるの!?見たいなぁ!」

オールマイトさんに話し掛けられ、己の頬に触れると絆創膏のつるつるとした感触がそこにあった。何に反応したのか、マイクとミッドナイトさんも俺の方を見ている。なんだよ。そんな視線を後ろに送っていると、背後にある扉がガラリと音を立てて、名前が職員室に入って来た。

「ねぇ、色は?可愛い?」
「……可愛い黒猫ですよ」

そう答えるとオールマイトさんは「へぇ!見てみたいなぁ、今度写真撮ってきてよ!」だなんて笑顔で言う。後ろの2人は何かを察したのか、「あぁ、なるほど」とでも言いたげな顔をしている。オールマイトさんはこういうのに疎いというか、変に純粋だ。ある意味、ヒーローらしいのかもしれない。

「おはようございます。あれ、みんなでなんの話してるんです?」
「おはよう、名前くん!相澤くんがね、可愛い飼い猫に頬を引っ掻かれたんだって」
「………へ、へー、たいへんですね」

そう言って名前はそそくさと自分の席に戻っていった。俺もHRのために教室に向かいながら、昨夜のことを思い出す。

「名前」
「んー…」
「名前」
「…………」
「…おい」

俺の隣で、名前はノートパソコンのキーボードに両手を置いたままこくりこくりと船を漕いでいた。寝るならベッドの方が疲れも取れるし良いだろうと、一旦声をかけて起こそうと思った。そして名前の方に体を寄せようと手を床に付いたとき、俺の手のひらの下にはなにやらふわふわとした感触が確かにあったのだ。

「……あ」
「ニ"ャッ」
「った」
「…え、あ!?」

しまった、と思った時には既に遅かった。びくりと飛び起きた名前が反射的に腕を上げる。その爪が俺の頬を引っ掻いたのだ。思いのほか傷が深かったようで、頬をつうっと血液が流れていく感覚があった。俺自身は冷静だったが、目覚めたばかりの名前が目を見開き理解できない状況に焦っていた。それでも、俺の頬の傷の原因が自分であると思ったらしく、「あ、ごめ、あの、手当て、手当しないと」と若干涙目で取り乱している。

「尻尾に体重掛けてすまねえ」
「え?あ…なんか痛いと思った…」
「移動しようとしたら、ちょうど下にあった」
「俺は別にいいんだけど、消太さん、顔、」
「いや、大した怪我じゃない」
「駄目です、消毒しないと」

血が出たと言っても、本当に大した怪我ではない。さっきまでうつらうつらとしていた人間の動きとは思えないほど素早く、持ってきた救急箱で手当てをし始める名前。

「痕が残ったらどうしよう…」
「そこまでの怪我じゃねえし、女の子でもあるまいし」
「でも、だって」
「じゃあ、痕が残ったら責任取ってね」
「……消太さん、ずるい」

絆創膏の上を親指で撫でながら、名前は唇を尖らせた。きっとお前は、この頬の絆創膏を見る度に無意識にでも手を伸ばし触れようとするだろう。治っても少しの間だけ、絆創膏を貼り続けていてやろうかな。

「消太さん、だいすき」
「ん」
「俺が絶対に幸せにしますから」

絆創膏の上にキスをしたこいつは、優しそうな表情で笑う。そういうのに疎い俺でも分かるが、こういう時の名前の雰囲気の甘いこと、甘いこと。そのうち映画出演の依頼とか来るんじゃないか。その後はなし崩しだったが。次の日の朝、もとい今朝、あの甘ったるい台詞はプロポーズだったよなと言えば、本人は酷く恥ずかしいことをしたと気付いたようで「忘れてください」と両手で顔を覆っていた。まあ、忘れてやんねえけどな。

「相澤先生、その顔の傷どうしたんですか?」
「あ?あぁ…飼い猫に引っ掻かれた」
「へえ!でも、相澤先生の飼い猫って言われると、真っ先に名字先生が浮かんじゃいますね」


20160509 甘い甘いぬりぐすり
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