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02


「こいつぁ頑固だ!」

授業を終え、職員室に入ると席に着く相澤先生の後ろでマイク先輩がなにか騒いでいる。いや、彼が騒がしいのはいつものことだろうか。とりあえずコーヒー片手に騒ぎを眺めているミッドナイトさんに声をかけた。

「なにをあんなに騒いでるんですか?」
「あぁ、くだらないことよ」
「ええ…」
「でも名前くんにとっては重要だったりして」
「へ?」

くだらない、でだいたい察したが、俺にとっては重要って?首を傾げてもミッドナイトさんは微笑ましそうに笑うだけ。

「犬もキュートだろうが!」
「猫」
「1回触れ合ってみろよ!」
「間に合ってる」

あぁ、そういう。

「リスナーから送られてきた仔犬の動画を見てもそう言えるかァ!?」
「お前、仕事は」
「ノンノン、論点をずらすなよ」
「はぁ、俺は猫派なんだっつってんだろ」
「消太さんが犬派に転向したらマイク先輩には責任を取ってもらいますからね」

動画を見せようと己のスマホを操作しているマイク先輩を制するように言う。いきなり犬を飼いたいなんて言われてしまったら大変だ。俺のポジションが危ぶまれる。するとなにを思ったのか、消太さんがスマホを取り出して小さく頷いた。

「そこまで言うなら見てやってもいいが、先に猫の動画も見てもらう」
「面白いじゃねーか!いいぜ!」
「なぜ張り合うんですか!?」

消太さんがスマホの画面を俺たちに見えるように調節した。少し面白い展開になったことに気付いたのか、ミッドナイトさんも「私もみたい!」と画面が見える位置に移動してきた。消太さんが画面の再生ボタンを押すと動画が流れ始める。映し出されるのはどこか見覚えのある風景だ。…いや、これは我が家だ。フローリングを照らす日の感じから、時間帯はお昼時だと分かる。静かにカメラは移動し、黒い何かを映し出す。

「げっ」

カメラ(というか消太さん)が近寄ると、その黒い何かの正体は日向で丸くなる自分だった。床に丸まりながら寝ぼけ眼で尻尾をゆらゆらと揺らし、ファンにもらったスピードサーキットのボールを転がしている。レールの上を光るボールが転がる猫用のおもちゃだ。ボールを追うでもなく、ただレールの上を一周して帰ってきたボールを再び転がして、また帰ってきたら転がして、そんな本来の主旨とは違うであろう遊び方をしている。

「いやちょっと!」
「名前、静かに」

猫は気まぐれというが、俺は従順なタイプなのだ。消太さんの言葉に反射的に口をつぐむ。今すぐにでも動画を停止して欲しいところではあるが、それは無情にも進んでいく。

〈名前〉
〈にゃあ〉
〈眠いならベッドで寝た方がいいぞ〉
〈…消太さんがここで仕事してるから〉

そこから無言で消太さんが俺の頭を撫で、ごろごろと喉を鳴らして動画が終わった。これは、居た堪れない。

「俺の動画の出番ないじゃねーか!」
「私、完全に猫派よ」
「でしょう」
「イレイザー、羨ましい暮らししてんな」
「結局はうちの子が一番なんだよ」
「俺が大怪我しただけじゃないですか!」
「名前くん、愛猫ヒーローに改名したらどう?」
「にゃんでですか!?」

それから2人に強請られるように、消太さんが俺の画像やら動画やらを見せているが、それいつ撮ったんですか。ほんと。…でも、消太さんがどことなく楽しそうな顔をしていたので、良しとしようと思います。


20160506 猫派と犬派の攻防
20211107 修正
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