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24


「シュレーディンガーにお客さんが来てますよ!」
「お客さん?」

事務所のスタッフに声を掛けられエントランスに向かうと、見慣れた真っ黒なヒーローが待っていた。任務中以外で会うのは1カ月振りくらいだろうか。

「イレイザーヘッド」
「あぁ、今大丈夫だったか?」
「はい。少し休憩に入ろうと思ってたので」
「じゃあ外でも歩きながら話すか」

事務所を出て、相澤先輩と通りを歩く。最近は気温も上がり、春を感じられるようになった。街路樹の桜の木もしっかりと花を咲かせていた。

「春ですねえ」
「そうだな。4年前を思い出すよ」
「4年前?」
「名前が中庭の木陰で丸くなってた頃だな」
「だって気持ち良さそうなんですもん」
「不用心というか、無防備というかな……」
「あはは、そのおかげで今があるから良いじゃないですか」
「……それもそうだな」

隣を歩く相澤先輩が小さく笑った。流石にもう所構わず昼寝をしたりすることはなくなった。

「名前、手」
「?」
「先月のお返し」

あげる、と俺の手のひらに先輩が何かを置いた。

「これ……先輩、これ」
「大したものじゃないが」
「…………!」
「いや、どういう感情だよ」

手のひらに感じた冷たい感触。先輩に渡されたのは1つの鍵だった。

「あの、念のための確認ですけど、コインロッカーの鍵とかではなく……?」
「それをお前に渡して何がしたいんだよ、俺は」
「違った……」
「だから、俺ん家の鍵だよ」

俺ん家、おれんち。相澤先輩の家の鍵。つまりつまり、合鍵ってやつ?俺の心の声が外に出ていたらしく、相澤先輩は「そうなるね」と笑う。

「今まで休みが合わないことが多かったからな」
「……これは、いつでも来て良いってことですか!?」
「まぁそうだな」
「嬉しいです、俺」

事務所に戻ったらキーケースに付けて、絶対に無くさないようにしよう。きっと自分の家の鍵を開けるときに、先輩の家の鍵が見えたら毎回嬉しくなっちゃうだろう。あ、これは俺も先輩に合鍵作って渡した方がいいのかな。そうしよう、すぐ作りに行こう。

「…………名前、それ本命だからな」

嬉しそうな俺に先輩が一言。本命、本命?「先月お前が言ったんだろ」と続ける。先月のバレンタインデーのことを思い出す。本命のお返しが本命、ってことは。

「はは、お前のそんな顔初めて見た」
「……だ、だって先輩、これはずるいですって」

今、俺の顔は真っ赤になっているだろう。体温も少し上がった気さえする。そんな俺の頭をわしわしと撫でた先輩は「じゃ、俺は仕事に戻る」と言って、気づいた頃には道路の向こう側に居た。相変わらず早い。忍者みたいだ。

「……ほんとに、別の名前つけてくれた」


俺が雄英を卒業してプロヒーローになってから、もう1年も経ったらしい。


20220221
くっついた(おそらく)
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