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シュレーディンガー大活躍 銀行強盗を確保!

そんなネットニュースの見出しをクリックすると、1番上に名前が笑顔で手を振る写真が表示される。一瞬スタジオで撮影されて宣材写真かとも思ったが、どうやら事件が解決した時の写真らしい。どういうカメラ写りしてんだ。そういう個性でもあんのか?画像はこっそり保存しておいた。

「あ!先輩みっけ」
「……シュレーディンガー」
「今日は同じ区域担当なので」
「あぁ、そうだったか」

かすかに鈴の音を鳴らしながら、彼は隣のビルから飛び移って来たらしい。移動や着地がとても静かで、褒めてやりたいくらいだ。

「コスチューム変えたのか」
「現在お試し中です」

真っ黒なスーツにネクタイという、悪目立ちはしないがかなりかっちりとしたコスチュームだった名前。今はというと、真っ黒ではないしネクタイもない。首元の鈴とリボンタイが目を惹く可愛い路線のデザインだと思う。

「コスチュームを一新しようって話が出てて」
「へえ」
「本当はゴーグルかマスクで顔を隠すスタイルにしたかったんですけど、スポンサーとデザイナーからNGが出て」
「あぁ……そういう…」
「ほんとは真っ黒が良いんですよ、先輩とお揃いだから」
「お前な……」

深い溜息を吐きそうになったがなんとか堪えた。きょとんとしながらも俺を真っ直ぐに見つめる名前から一旦意識を遠ざけたくて、騒がしい同級生のことを思い出す。そういやアイツ、名前に会いたがってたな。

「……名前、任務終わったら飯でも行くか。山田も誘って」
「それは是非!」



「「カンパーイ!」」
「……乾杯」

グラスのぶつかる音がする。隣に相澤先輩、向かいに山田先輩が座っている。この光景に少しだけ懐かしい気持ちになった。

「居酒屋じゃない方が良かったか……」
「え、俺のことは気にしないでいいですよ」
「……気を遣えなくてすまん」
「あはは、2年後を楽しみにしてますね」

相澤先輩は神妙な面持ちのままビールに口をつける。山田先輩と合流し、そのまま目に入ったチェーン店の居酒屋に入ってから俺が未成年だということを思い出したらしい。友人達ともご飯を食べに居酒屋に入ることはあるし、先輩が気にすることではない。話をするなら個室が楽だし、メロンソーダも美味しいし。

「名前チャン久しぶりだけど元気だった?まぁネットニュースでは良く見てるけど !」
「元気です!有難いことに記事にしてもらうことも多くて」
「イイネ!絶好調じゃねーか!」
「先輩も、この前ゲストしてたラジオめちゃくちゃ面白かったですよ」
「YEAH!聴いてくれてんの!?ウレシーぜ!」

山田先輩は全然変わってなくて安心した。近況について話してると、山田先輩が適当に頼んでくれた料理が運ばれてくる。焼き鳥、たこわさ、厚焼き玉子に刺身盛り合わせ。相澤先輩はビール2杯目を空にしたところだった。特に顔色も変わっていない。先輩ってお酒強かったんだ。

「そうだ!シュレーディンガーってSNSに写真載せるのはオッケー?」
「オッケーですよ。俺も先輩と一緒で特に隠してもないですし」
「てかアカウントあるじゃねーか!」
「更新してませんけどね。事務所にはやれって言われてるんですけど」

スマホを操作し、SNSでプレゼント・マイクのアカウントを探す。先輩がフォローしてくれたようで、俺からもフォローした。といってもSNSの使い方も大して分からないし、あまり興味もない。相澤先輩はやってないだろうし。事務所から「この先絶対必要になるから作っとけ!」と言われ使っただけなのだ。それから山田先輩にSNS用にと写真を撮られ、お互いの近況に関する話題に戻っていった。

「メインパーソナリティですか?すごいですね」
「でっしょー?!まぁ、まだ確定してるワケじゃねーけど!」
「でも先輩の番組、今から楽しみにしてますね」
「名前が良い後輩すぎて涙出てきたよ俺は……!」
「大袈裟だなぁ」
「名前は昔から良い後輩だろうが」
「相澤先輩…………それ招き猫です」

相澤先輩は床の間に飾られている30センチ程の招き猫に話し掛けていた。黙々とビールを飲んでるから、お酒には強いんだとばかり思っていたがそんなことはないらしい。

「何言ってんだ、猫は猫だろ」
「それはそうですが……」
「あれま、結構飲んでたもんな。まぁ、こうなったらそいつは記憶残らないぜ!HAHAHA!」

じゃあ俺はこれからゲストに呼ばれてるラジオ収録だから!ここは俺の奢りな!と、山田先輩は伝票を持って出て行ってしまった。だからあの人あまり飲まなかったのか。相澤先輩は黙って招き猫の頭を撫でている。俺じゃないし、招き猫は白いし、全部違うし。

「相澤先輩、帰りましょう?」
「わかった」
「あはは、だからそれ俺じゃないですってば」

店を出て2人で大通りを歩く。先輩の足取りはしっかりしてるようだ。周囲への認識だけが甘くなるんだろうか。

「先輩、おうちどっちですか」
「こっち」

すたすたと歩く先輩の後ろを歩く。たまに塀の上を歩く野良猫に向かって「名前、そっちじゃないよ」と声を掛けたりするから、背後からそっと修正するのはなかなか楽しかった。家の前に辿り着く頃にはそういうのもほとんどなくなっていたから、夜風に当たることで多少は酔いも覚めてきていたのかもしれない。

「ここ」
「ちゃんと鍵はありますか?」
「問題ない」

しっかりとした手付きで解錠した相澤先輩が室内へ入る。そして再び室内から施錠されるまでを見届けてから帰ろうと思ったが、相澤先輩はなかなか扉を閉めようとしない。

「先輩?」
「名前、帰るのか……?」

そして、あろうことか、室内から伸ばされた相澤先輩の手が俺の上着の裾を掴んだ。いや、いやいや。何を言ってるんだ、この人は。無意識でごくりと唾を飲み込む。これは俗に言う据え膳というやつなのかと勘繰ってしまう。もしかして俺は試されている?いやいやいや。

「……自分のことが好きな男にそんなこと言っちゃダメですよ」

手を優しく剥がし、外から扉を閉じた。聞こえていないだろうが「おやすみなさい」とだけ扉越しに声を掛け、逃げるように部屋の前から去る。

「……先輩、まだちゃんと俺のこと好きみたいだ」

緩む口元を両手で隠しながら、帰路に着いた。


20220215
酔い澤は小説版から知見を得てます。
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