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「先輩、明日で卒業ですね」
「そうだね」
「普通の反応だなぁ」
「まぁ……そこまで特別視はしてねえよ」

卒業式の前日。卒業式には1年生は出席しないから、名前と雄英の校門をくぐるのも今日で最後になる。

「学校、名残惜しくないんですか」
「特に名残惜しくはないな……」
「俺は寂しいですよ、先輩が居ない学校は」
「……あぁ、言葉足らずだったな。名残惜しいよ。こうやってお前と一緒に帰ることが無くなるのは」

名前と出会って約1年。出会った頃は特別表情が豊かでもなく、他人と距離をとる癖があった名前。俺が名前と出会って変わったなら、こいつだって俺と出会って確実に変わっている。笑顔も増えたし、クラスでの友人関係も良好のようだ。

「先輩、俺ね、先輩のことが好きですよ」

隣を歩く名前が口を開く。俺を見る心配そうな表情と、感情と連動する耳と尻尾。可愛いやつ。

「俺もだよ」

素直に肯定すると、尻尾と耳をピンと立たせて嬉しそうな顔をする。1番最初に動くのは尻尾なのか、という発見もあった。ここで友情の好意と、恋愛の好意を勘違いするなんて愚行は犯さない。おそらく互いに気付いてはいたし、気付かせてもいたからな。

「でも今付き合ったりするつもりはないよ」
「それは、俺が男だからですか……?」
「そうじゃねえ。それは俺もそうだし。だから、あー……そうだな。名前がプロヒーローになって1年経つまで」
「うん?」
「それまでお前が俺のことを好きだったら、この関係に別の名前をつけよう」

ずっと考えていた。これはただの俺のエゴだ。名前の将来と人生のことを考えると、きっと俺と一緒にいるべきではない。そもそもこいつは俺が繋ぎ止めていい人間ではない。だから、3年の猶予をやる。その間に、俺なんかよりもっと魅力的な相手と恋でもしてくれたら。そんな相手と結婚して、家庭を持って、名前が幸せに生きてくれるならそれでいい。俺は素直に身を引こう。ヒーロー活動が忙しくて、俺のことなんか忘れてしまうかもしれないし。

もしも、そうじゃなかったら、

「分かりました」
「物分かりがいいな」
「まぁ、自信があるので」
「…………そうか」
「でもそれまでの間で先輩に恋人が出来たら嫌だなぁ」
「そういう心配?それはないよ、断言する」
「じゃあお互い様ですね」

なにがお互い様なのか、とは思ったが口には出さなかった。俺はこれから忙しくなるだろうが、そんな中で名前以外の人間に恋をすることなんて絶対にないだろうし、予定もない。たとえ時間があっても、考えるのは名前のことだと思う。

「先輩、ひとつお願いがあるんですが……」
「なんだ?」
「……制服の第2ボタン貰えませんか」

言い淀むからどんな難題かと思えば、この期に及んでこんな可愛いことを言い出すとは思いもしなかった。実際、雄英の卒業式はヒーローコスチュームでの出席になるから、制服のボタンがあろうがなかろうがどうでも良い。

「構わないが、普通そういうのは学ランですることじゃないのか」
「それはそうなんですが……」
「あー……じゃあ」

首元のネクタイを緩め、そのまま抜き取ってしまう。第2ボタンってのは、心臓に一番近い位置だからどうとかって理由があったような記憶がある。

「あげる」
「え、えっ!良いんですか」
「いいよ。もう使う予定もないし」
「ふふ、嬉しい。なんだか首輪みたいで」
「…………」
「みゃっ」

こいつは人の気も知らないで、という気持ちを込めて軽く背中を叩いた。3年後が楽しみでもあるし、どこか怖くもある。


20220209 学生編C
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