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20


卒業を目前に控えた2月。雄英といえど、毎年この日はどこか生徒たちが浮き足立つらしい。

「HEY!ショータ!収穫どうだ!?」
「うるせえ、俺を巻き込むな」
「ちぇ、つれないなァ」

いつも通り山田を適当にあしらう。今日は14日、バレンタインだ。山田は丁寧にラッピングされた箱からコンビニでよく見るチョコ菓子まで、いくつかの貰い物を手にしていた。こいつは交友関係が広く、性格もこんなんだからか、女子にも好かれるタイプだ。

「お前、芸能路線もやってくなら気を付けた方がいいぞ」
「そういうとこホンット真面目だなぁ……あ、あれお前の猫じゃん」
「あ?」

まだ俺の猫じゃねえ、と言う前に視界に入ってきた名前の姿を凝視してしまう。一緒にいた女子生徒が小走りで去っていき、名前が肩を下ろした。普段使っているリュックの他に、左手に大きめの紙袋を持っている。いやいや、まさか。そんなことを山田と話しながら名前に声を掛けた。

「YO!名前!」
「あ、山田先輩と相澤先輩」
「名前チャン今日の調子はどう?」
「調子?あぁ、やっぱり雄英は生徒の数も多いですね」
「「…………」」

左手の紙袋を俺たちに見せる名前。中身はリボンのついた箱や袋が詰まっていた。なんとかの山やなんとかの里みたいなお菓子は見当たらない。互いに言葉を失った山田と、無言のまま顔を見合わせてしまった。

「……俺はもう一回校内ウロついてくる!」
「それは勝手にしろ」
「先輩まだ帰らないんですか?」
「アイツは知らんが俺は帰る」
「じゃあ俺も先輩と一緒に帰ろ」



「中学でもこうだったのか?」
「チョコですか?いや、生徒の数も違いますからね…ここまででは」
「俺にはその違いが分からん」
「あはは、まぁ選別が結構大変なんですよね」
「選別?」
「滅多にないんですが、個性を使った贈り物があったりするんです」
「……あぁ、そういう」
「箱を開けた相手の夢に出る、みたいな個性であればまだ可愛いんですが」
「いや全然可愛くないだろ……手伝ってやろうか?」
「えっ、ほんとですか。地味に大変なんで助かります」

そうして俺は自宅には帰らず、名前の家に寄ることになった。何度か来たことのある名前の自室まで通される。今日は両親が不在らしい。

「全部食うの?」
「クラスの女子が男子全員に配ってたものは食べますよ。感想も伝えてあげたいですし。あとは、流石にこういう明らかな既製品だけです」

結構苦労してるんだな。送り主の名前はしっかりと控えているようで、来月全員にしっかりとお返しをするらしい。そういうところだぞ。そりゃモテるだろ。

紙袋の中身を1つずつ手作りか既製品かで分けていく。2人で淡々と作業を進め、残りも少なくなってきた。紙袋の底から、小包装された金色の飴玉が入った瓶を手に取る。蜂蜜のキャンディーらしい。対面で包装を細かく確認している名前の伏せたまつ毛の間から見える金色の瞳は、この飴玉によく似ている。

「どうしました?」
「いや、なんでもないよ」
「別に食べたかったら食べても……あ、そうだ。ちょっと待っててください」

ぱたぱたと部屋を出て行った名前は、数分も経たずに戻って来た。手にはリボンの付いた箱を持っている。ちょうど今仕分けしているチョコレート達のような風貌だ。

「はい、先輩に」
「…………え?」
「うちの母からです。俺がよく話をするからか、先輩のこと覚えちゃってて」
「……あぁ、そういうこと」
「俺からの方が良かったですか?」

名前は俺を揶揄うように言う。まあ、一瞬残念に思ったことは確かだしな。

「そうだな」

素直な返答に名前は面食らったようだった。女子に貰ったチョコレートの数なんぞには興味はないが、俺も人間だからな。多少の欲はある。それが名前からであれば話は変わるのだ。

「じゃあ来年、用意しますね」
「そうしてくれ」

名前の口から「来年」というワードが自然に発せられたってだけで、俺は結構満足だったりする。



「名前、なんか嬉しそうね」
「え、そう?」
「本命の子にチョコでも貰った?」
「いや別に……」

チョコは貰ってないけど、欲しいとは言われたな……とにやつきそうになる口元を手で隠した。「つまんないわね」と言う母に、先輩がお礼を言ってたことだけ伝えて自室へ向かう。

「……あれってやっぱりそういうことだよな」

バレンタインにチョコが欲しいって、つまりそういうことだって思ってもいいのかな。いや、流石に好きでもない相手から貰いたいとは思わないだろう。あの合理的な相澤先輩なら尚のこと。だって俺も欲しいし。

他人の好意にそこまで疎いわけではない。昔から、比較的沢山の好意を向けられながら生きてきた方ではある。その中から1つを選ぶということは、同時に選ばれなかったものも生んでしまうということだ。それなら最初から好意に気付かないように生きる方が得策だと思った。

「やっぱり、好きだなぁ」

そうやって俺が人と距離を詰めずに過ごそうとしていたら、予想していない所から距離を詰めて来たのが相澤先輩だった。


20220209 学生編B
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