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19


「先輩」

実技訓練が終わって教室へ戻る途中、通りかかった中庭で相澤先輩の後ろ姿を見付けた。なにしてるんだろう。授業で褒められたことを伝えてあわよくば撫でて貰おうと思いながら近寄る。俺の声に振り返る相澤先輩の後ろに女子生徒が居る事に気付いた。話し中だったようだ。

「名前、実技か?」
「あ、はい、それで……いや、先輩を見付けたので挨拶に」
「おつかれ。そりゃ丁寧にドーモ」
「じゃ、俺はこれで」

そのまま逃げるようにその場から去ってしまった。初めてだ。相澤先輩と女の子が2人きりで居るの。いや、俺が見ていなかっただけか?静かな中庭で、2人で……え、もしかして彼女?いやいや、あの合理的な相澤先輩がそんな非合理的存在を……そんなこともないか。ハグでストレスが解消されるらしいし。って、俺は先輩をなんだと思ってるんだ。

それからも校内で何度も2人が一緒に居る姿を見かけた。なんとなくその度に身を隠していたから、最近は先輩と話していない。2人の邪魔にならないように、というのもあるが、あまり見ていたくなかった。そのうち1人の時の相澤先輩からも逃げるようになってしまった。

「名前!」
「わ!」
「やっと捕まえた」
「ひえ……」

HRが終わり担任が教室を出た直後、凄い形相の相澤先輩がズンズンと俺の席まで歩いてきた。え、チャイムが鳴ったばかりだけど、どうやって…?相澤先輩は俺のネクタイをくっと引っ張る。

「ちょっと来い」
「にゃい……」

逃げることは諦め、相澤先輩について行く。クラスメイト達は3年の先輩の迫力にびびってしまって、目も合わせてくれなかった。薄情だな。とてつもない居心地の悪さを感じながら先輩の背中を追って、普段使われていない空き教室へと入る。空き教室ではあるが、流石雄英。掃除が行き届いているらしく、埃っぽさは全くなかった。

「俺、お前に何かしたか……?」
「へ?」
「だから、お前最近俺を避けてるだろ。覚えてないところで何かしたんじゃねえかと……してたんなら謝りたくて」
「いや、何かした訳じゃないですよ」
「……あぁ?」
「相澤先輩、彼女出来たんでしょ?」

先輩の眉間にグッと力が入る。お前は何を言っているんだ、という顔だ。その顔をしたいのは俺の方なのに。

「だって、先輩も先輩ですよ。あれだけ俺を撫で回しておいて、彼女が出来たからって放り出すのは良くないと思います」
「……そのお前が言う彼女ってのは、背が低めで、髪が肩くらいの長さの生徒で合ってるか?」
「えぇ?確か、そんな感じだったような気が……」

そんなに彼女のことを良く見てないから定かではないが、確かに先輩に隠れて見えなくなくくらいだから背は高くはないだろう。見たことのない顔だったから、きっとヒーロー科ではないと思う。俺の言葉を聞いた先輩は、何かを考えるように顎の辺りに右手を持っていった。

「彼女じゃないよ」
「え」
「サポート科の課題で、ヒーロー科の生徒のコスチュームのデザイン案を出すんだと。結構細かく打ち合わせしてんだよ。あっちも成績に関わるから必死なんだろ」
「……」
「ちなみにペアはくじで決まるらしいぞ」
「ほう……?」
「はは、ほうじゃねーよ」
「に"ゃ」

ぱちんと額を指で弾かれた。俗に言うデコピンってやつ。どうやら俺の早とちりだったらしい。……そうか、サポート科の課題か。それなら確かに、2人で打ち合わせをするのも分かる。

「名前も大概、俺のこと大好きだね」
「……バカにしてます?」
「いや、そんなことないよ。でもまぁ、俺にそんなこと言うのはお前くらいなもんだから、心配いらねーよ」
「釈然としないのですが…」

少しだけ不機嫌そうな顔で額を抑える俺を見て、相澤先輩はくつくつと笑っていた。


20220201 学生編A
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