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「しょーたさん、どうしたんですか」
無事体育祭が終わったというのに、なぜか消太さんの機嫌がよろしくない。包帯でぐるぐる巻きになってるから表情も何も読み取れないんだけど、ご機嫌斜めだっていうことだけは分かる。
「……別に、いつも通りだが」
「あはは、絶対嘘じゃん」
ソファに座る彼の隣に腰を下ろす。横顔を見つめても顔色が分からないからどうしようもない。体調でも良くないのかと思い、包帯の上から額に触れてみたが良く分からなかった。まぁ、そりゃそうだよな。そのまま手を髪の毛で隠れている耳元へまわすと、消太さんがぴくりと動いたのが分かる。同時に目線をわざとらしく逸らされる。
「あ、もしかして!」
「……言うな」
「髪、邪魔だから縛りたかったんですね」
「なんでそうなる」
「ハズレかぁ」
はあああとわざとらしく深いため息を吐いた消太さんは、上半身を傾け俺の胸に寄り掛かってくる。
「欲求不満ってことですか?」
「……その表現やめてもらって良いか」
「それは合理的じゃないですね」
「名前相手だと合理性に欠けてしまうことが多いんだよ、俺は」
「……それはただの口説き文句ですよ、消太さん」
俺以外に言わないでくださいよ、と言えば「誰が言うか」と短く返される。かわいい。そう思って、後ろから抱き締めるように彼のお腹に手を回した。
「名前、俺は」
「分かってますよ、俺不足なんでしょ」
「まぁ、それが的確な表現だと思う」
「俺だって消太さん不足なんですからね。撫でて貰えないし」
「……そこか」
「マイク先輩の撫で方知ってます?なんていうか、こう、超賑やかなんですよ」
「アイツらしいな」
俺に寄り掛かるように上半身の力を抜いたので、支えるように腕の力を込めた。身体から伝わる消太さんの体温に酷く安心する。今までだってこうやって大怪我することはあったし、逆に俺がボロボロになることだってあった。ヒーローを務めるうえで、所謂"覚悟"ってやつだってしている。
「明日と明後日は休みですから、2人でゆっくりしましょう。あ、明日はリカバリーガールに会いに行くから、包帯も外せるかもしれませんね」
「大袈裟なんだよ。不自由ったらない」
「ええ、こんなに至れり尽くせりなのに……でも、早く消太さんのお顔は見たいです」
「見ても楽しくないだろ、決して」
「俺は楽しいです」
「…あぁ、そう」
消太さんの可愛い表情は俺だけが知っていれば良い。諦めたらしい消太さんは「……もう少しこのままで」と俺に身を寄せ、瞼を閉じた。今、きっと可愛い顔をしていると思うんだよなぁ。早く包帯が外れますように、そう願いながら腕の力を少しだけ強めた。
20211108 僕らの在り方