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雄英体育祭。かつてのオリンピックに代わる程の一大イベントだ。
俺はクラスを受け持っているわけではないから、招待されたプロヒーローへの挨拶や生徒の誘導、見回り、必要であれば主審であるミッドナイトさんの補佐業務を行ったりしている。

しかし、特に大きなトラブルなどなく、割と俺は暇を持て余していたりする。実況席にいる消太さんがマイク先輩にツッコミを入れる声がたまに聴こえてくるからある意味暇ではないけれど。そんな風に過ごしていたら午前の部はあっという間に終わってしまった。さて、消太さんのとこに行こうかなぁ。

「あ!あそこにいるのシュレーディンガー!?」
「え!?どれどれ!?」
「シュレくーん!」

観客席から俺のヒーロー名が聞こえ、反射的に振り返る。すると多少のざわめきの中に、先程の声の主と思われる一般客の女の子たちと目が合った。笑顔で手を振ってあげれば、喜んでもらえたようだ。さて、とりあえず実況席に行こう。



「おいイレイザー、あれ」
「あ?」

実況席から見える中継用の巨大スクリーン。名前が笑顔で手を振っている様子がドアップでカメラに抜かれていた。数秒遅れて、客席から歓声と共に黄色い声が聞こえてくる。

「マジで絵になるなァ」
「当然だろ」
「なんでお前が得意げなんだよ!」
「お疲れさまです、お二人とも」
「あ、本物」
「何がですか?」

ひょこ、と実況ブースに顔を出した名前。手には見覚えのあるゼリー飲料がある。

「さっきのファンサービス、カメラに抜かれてた」
「エッ!生徒以外も映すんですかアレ!?」
「安心しろ、カメラ映り最高だったぜ名前!」
「そうじゃないでしょ!」

恥ずかしいなぁもう…と尻尾を下に垂らす名前。かわいい。

「そんなことより消太さん、お昼どうします?一応これ持って来たんですけど、教員用のお弁当もあるみたいです」
「お前はどうする」
「後で外の屋台を見に行こうかなって」
「なら俺も行く」
「え、消太さんまだ怪我人じゃん」
「ほとんど治ってる」

ぐるぐる巻きだった両手をゆらゆらと動かして見せる。名前は「嘘でしょ…」という顔をしたが、強引に実況ブースを出た。こいつを一人で外に出した方が厄介そうだろ。「イレイザー、心配性すぎんだろ」という同期の呟きは聞こえていないふりをした。

競技会場を一歩でも出れば、そこは多くの屋台などの出店と客で賑わっている。俺の隣を歩きながら「デートみたいですね」と小声で言う名前は至極楽しそうだった。

「何を買うんだ」
「えーと、たこ焼きと焼きそばとイカ焼きとりんご飴と…」
「そんなに食えるか?」
「一緒に食べましょ、消太さん」
「はあ」

つくづく俺は名前に甘いらしいな。目当ての品を買い集めていく名前の後ろをついて歩く。

「シュレーディンガー!」
「ふぁい?」

後ろから呼ばれた声に、名前は割り箸に刺さったイカ焼きを食べながら振り返る。そこには数名の女性客が立っていて、イカ焼きを食べる名前に「わ、かわい…」と小声で反応していた。それには俺も同感だが。

「あの、もし大丈夫だったら一緒にお写真をお願いしたくて…!」
「あぁ」

ちらりと俺を見る名前に、頷いて返してやる。これは想定内で、俺はこれをある程度時間が経ったら強制的にお開きにさせるつもりでここまで着いて来たからだ。それまでイカ焼き片手にファンサービスをする名前を眺めている。

「消太さんおまたせしました」
「あらかた買えたら帰るぞ」

それから休憩室で食事を済ませ、名前に連れられしぶしぶ実況席に戻った。
なんとか体育祭は閉会したが、これからスカウトだなんだと更に多忙になるであろう未来を想像しため息を吐く。

「お前は良いよな、飼い主に従順で」
「それが俺の取り柄ですもんね」
「まあな」
「いやぁ、爆豪くん元気だったな」

隣で笑う名前の脛を軽く蹴っておく。こっちは笑えねえんだよ。


20211108 雄英体育祭!

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