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「今日はここまで。USJの一件もあったし、明日の小テストは免除してあげるね」
「マジで!?」

ヨッシャーという歓喜の声に隠れて、名字先生が作る応用問題えげつねえんだよなぁ等の声も聞こえるが、仕方なしに目を瞑ってやる。ここは雄英、普通科目だからと言ってレベルを落とすことはできない。でもまぁ、試験では赤点にならないように基礎問題と応用問題のバランスだったり、配点で調整してやってるんだから、そこは感謝して欲しい。他の先生には内緒だからな、と一言残してA組の教室を出る。

「名字先生」
「あれ、蛙吹さん。なにか質問でもあった?」

ひょこひょこと近寄ってくる蛙吹さん。初めの頃は、俺と目が会う度に警戒されていた。蛙の本能か、どうしても猫は危険なモノと思ってしまうらしい。俺だって流石に生徒をとって食ったりしないよと笑えば、徐々に警戒も薄れていった。

「相澤先生に助けられたわ」
「……かっこいいね、相澤先生は」
「名字先生って相澤先生のこと、下の名前で呼ぶのね」
「え」
「2人がただの先輩後輩って関係じゃないってことは分かるわ。だから名字先生の口からありがとうって伝えておいて?」

ケロケロ、と笑ってから教室に戻っていく彼女に観念した俺は、眉を下げて笑うしかなかった。最近の女の子は、なんでこう、変に鋭いんだろうか。



「年頃の女の子ってすごいですよね」
「どうした名前、女子生徒に告白でもされたかぁ!?」
「なんでそうなるんです」
「生徒に告白されたことあるか?」
「ありますね」
「まじか」

卒業式の後とか、多かったな。そういえば。ゆっくりと右手にあるゼリー飲料のアルミパウチに力を入れる。消太さんのお食事タイムだからだ。包帯ぐるぐる巻きだし手は使えないし、ということで俺がこうして餌やり体験みたいなことをしている。表情などは全くと言っていいほど窺えないが、素直にもぐもぐとゼリー飲料を口にする消太さんを見ていると、親鳥にでもなったような気分になる。

「……かわいいですね、消太さん」

マイク先輩が後ろで吹き出しているが、そんなことは関係ない。だってあの相澤消太が、こんな。彼の食事においての主導権を握っているのが自分だという事実に、こみ上げてくるものがある。役得。

「名前は本当に忠犬、いや忠猫だなァ」
「本当は授業に行く消太さんを教室まで送り迎えしたいですし、正直授業中も見学したいです」
「親離れできてねーじゃねーか!子猫か!」
「失礼な」

消太さんの食事が終わったところで、ジャケットのポケットからあるものを取り出す。赤いリボンのついた小さな箱。この前、ファンだという子に貰ったものだ。それを消太さんに差し出す。

「なんだ、これ」
「高級マタタビです。俺の差し入れなんですけど、消太さんが元気になるかなって思ってお裾分け」
「学校で開けるんじゃねえぞ……お前は俺を猫だと?」
「なに言ってるんですか?消太さんって猫だったんですか?」
「名前、全ての生き物がマタタビ好きだとでも思ってんのか」
「え、違うんですか?」

包帯の隙間から、じとりと俺を見る。この視線に含まれる意味合いは分からないけど、分かるのは消太さんは別にマタタビが好きではないらしいということだけだ。そういうことなら仕方ないので、俺の手のひらにあった箱を再びポケットの中へ戻した。

「ていうかお前」
「はい?」
「生徒に告白されたことあんのか」
「まぁ、そうですね」
「聞いてない」
「え?言ってないですもん……イテッ」
「早く授業に行け」

理不尽にも消太さんに脛を蹴られた。なんでだろう。それから、言われた通り授業の道具を持って職員室を出たが、普通科の教室の前まで来た時に予鈴が鳴る。俺が予鈴を聞き逃していたのかと思ったけど、そうではなかったみたい。消太さんの間違いだろうか。


20160701 それから日常へ
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