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09


「相澤先輩、ヒーロー名ってどうやって考えました?」
「山田が勝手に考えた」
「あぁ、じゃあ俺も山田先輩に名付けてもらおうかなぁ」

第一印象が「変な人」「撫でるの上手い人」「猫好きな人」だった相澤先輩と、こういった会話をするようになるまで時間はかからなかった。ついでに先輩繋がりで、山田先輩とも知り合いになった。今は学内の食堂だが、俺が焼き魚定食を食べている横で先輩が自前のゼリー飲料を啜っている。

「それは、だめだ」
「へ、なにがですか?食堂でゼリー飲料持参すること?」
「おまえ」
「ごめんなさい」
「…ヒーロー名の話だよ」
「はあ」
「そんな適当に付けんな」

イレイザーヘッドは山田先輩が考えたという話をしてからの、適当に付けんな。山田先輩の扱い…。先輩こそ適当に付けてるような気がするのは気のせいだろうか。

「いつだ、その授業」
「明後日あたりっていう噂です」
「なにか考えてあんのか?」
「黒猫ヒーロー キャッツアイとか」
「…やめとけ」
「ですよね」
「もう少し考えてみろ」
「はぁい」

とはいえ、そんな素晴らしいアイデアは早々浮かぶことはない。次の日も鍋焼きうどんを食べる俺の横で、相澤先輩がゼリー飲料を啜っている。今日はブドウ味のようだ。俺の方は、えーと、鍋焼きうどんを頼んだのは失敗だったなぁ。自分が猫舌だってことを完全に忘れていた。先輩が鍋を凝視している。

「名前、お前ネギは食えるのか?」
「へ?」
「猫は食ったら駄目だろ」
「あぁ…あくまで個性なので」
「そういうもんか」
「……残念そうですね」
「じゃあ、こういう鍋に入りたいとか思わないのか?」

相澤先輩は飲み切ってしまったゼリー飲料の容器で、鍋焼きうどんの土鍋を指す。もしかして、それは猫鍋ってやつですか?先輩、そういうの好きなんだ。なんか可愛いかもしれない。

「流石にないです」
「そうか」
「残念そうですね」
「ヒーロー名、“シュレーディンガー”はどうだ」
「あ、なんかいいかも…」
「他に案でもあったのか?」

案、そうだなぁ。第六感の個性に因んで、シックスセンスとか考えてはみたけれど。イレイザーヘッドって映画があるから、俺も映画で合わせようかなって。そう言うと相澤先輩はぐっと眉間にしわを寄せる。え、こわい。今の会話のなにが地雷だった?ホラー映画苦手だったの?

「……こ、こわいの嫌いでした?」
「そうじゃねえ…猫って生き物が愛玩動物だったことを再確認した」
「?」

最後はお前が選べと相澤先輩は言うが、そんなの考えるまでもなく。

「相澤先輩に考えもらったやつがいいです」
「……そうか」

先輩は目線を下げて、顔にかかる前髪で表情がよく見えないが、少しだけ上がった口角だけは確認できた。この人、こういうとこ本当に可愛いな。

「その前に付く、抹消ヒーローみたいなのはどうしましょうね」
「野良猫ヒーロー」
「野良じゃないですもん。室内飼いですもん」
「……初めて会った時に葉っぱまみれになりながら昼寝してたから、」


これが“灰猫ヒーロー シュレーディンガー”の誕生である。


「灰猫って?」
「火を落としたかまどで暖をとって灰まみれになる猫、だな」
「へえ…あれ?シュレーディンガーの猫って、俺もしかして死んでる?」
「箱を開けるまで分からん」
「殺さないでください」


20160605 合理主義者と猫の昔話

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