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(付き合う前の話)



「気持ちは嬉しいけど、ごめん」


その言葉を聞いて階段を上っていた足を止めた。ほどなくして1人の女子生徒が俺の隣を通り過ぎていった。またかと思いながら、屋上へ続く階段の踊り場に探していた人物がスマホと弁当片手に立っていた。まぁ人伝てにここに向かったと聞いたんだけどな。


「盗み聞きかよ」
「ちげーよ、タイミングの問題」
「趣味わりーの」
「ていうか場所が悪いだろ」
「あっちが指定してくるんだから仕方ないだろ」
「まぁいいや、取り敢えずせっかくだし屋上で飯」


錆び付いた扉を開けると相変わらず鈍い音がする。今日は初夏に似合う快晴で、とても気持ちいい。購買で買ったパンを頬張りながら、隣で弁当を広げる出水を見やる。さっきの女の子、確か学年は違うが可愛いと噂の子だった。


「なぁ、なんで断んの?可愛い子だったじゃん、あんま顔見てないけど」
「適当かよ」
「毎回可愛いの子なのに断ってるよな、弾バカちゃん」
「顔だけじゃだめだろ、流石に」
「あ、お前的にまだ顔面偏差値が足りないのか」
「ちげーよ」


俺は欲しいものしかいらないの、弁当のエビフライにソースをかけながらさも当たり前のことのように言う。俺の頭には難しすぎる表現なんだけど。なに?哲学ってやつか。哲学がなんだか知らないけど。きっと俺の頭の上にはクエスチョンマークが浮かんでるだろう。それを見かねた弾バカが「そういえば」と話を切り替える。ありがてえ。


「お前、ここまでくるって俺になんか用でもあったんじゃねえの」
「ああ!そうだったそうだった」
「くだらねえことだったら怒るぞ」
「今日は秀次が風邪ひいて休んでるんだけどさ」
「おう」
「防衛任務、名前さんが秀次の代わりに出てくれるって」
「はぁ!?」
「うお」


弾バカが勢いよく立ち上がったことに驚いて食べかけのパンを地面に落としそうになった。任務も学校もないから暇なんだと、と説明を付け加えてやる。あ、ノーマルトリガーっていうか、弧月で来るらしい。この反応を見て、さっきの哲学じみた言葉の意味が分かった。


「ずりぃ」
「残念、タイミングが悪かったな」
「名前さんの弧月とか絶対かっこいいじゃん」
「彼女作らない理由ってあの人?」
「お前デリカシーねえの?」
「ねえな」
「……まぁそうだけど」
「ふーん」


名前さん。俺らより4つ年上のS級隊員で目の前の弾バカの師匠。柔らかそうな黒髪が印象的な、所謂イケメンだ。この前、C級の女子が騒いでるのを見かけた。そして面倒くさいと言いながらも、俺と模擬戦してくれたりする良い人だ。同じように、太刀川さんの課題の面倒を見てやってるのをよく目にする。


「やっぱり顔面偏差値じゃん」
「ちげえよ!」
「名前さんレベルの恋人とか、絶対探すの難しいぞ。俺から見てもかっこいいもん」
「だろ」
「お前がドヤ顔すんなよ」
「つーかさ、なんでお前に恋話しなきゃなんねーんだよ」


20170120
20220216修正
どこにも載せてなかったハズの話です。
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