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クリスマス


12月25日夜、出水は機嫌が悪かった。理由は単純明快で、このクリスマスというイベントを狙ったかのようにタイミングが合わず、最愛の恋人と顔を合わせることが出来ていないためである。こうして防衛任務を終え、本部に戻った時にはすでに残り30分足らずで1日が終わろうとしていた。


「そんなむくれんなよ」
「な!むくれてませんし!」
「クリスマスは来年もあるんだから、元気出せよ」
「……っす」


じゃあ俺は先に帰るぞ、と太刀川が作戦室を出て行く。クリスマスは来年もあるけど、付き合って初めてのクリスマスは今日だけだったのにな。そんなことを心の隅でぼやきながらコートを羽織り廊下を歩く。昼間よりも随分と静けさのある中で、ポケットにあるスマホが震えたのを感じ確認してみれば、新しいメッセージの送り主は恋人、ではなく一足先に外に出た太刀川からであった。“そとさむいから、じはんでコーヒーかってせいかいだったわ”という平仮名ばかりのメールに、悲しくもなりすましではなく本人であることを悟る。じゃあおれも自販機でココアでも買って帰ろう。そう思って、ラウンジに設置されている自販機を目指して歩みを進めた。


「………あれ」


自販機の隣に置かれているベンチに人影を見つけた。出水は脚と腕を組んで俯くそのシルエットに見覚えがある。できるだけ音を立てずに近寄れば、その人物は会いたくてたまらなかった恋人、名前だった。


「………名前さん?」


返事はない。規則的に聞こえる息使いから、彼が眠っていることが分かった。そっと隣に座り、顔を覗き込んでみる。目が閉じられていたとしても、相変わらず端正な造りをしていることを実感した。チラリと時計を確認すると、クリスマスもあと10分足らずで終わってしまう。迷った出水は、そのまま名前の唇にキスをした。


「………ん、…いずみ…?」
「…は、はい」
「今、俺にキスした?」


出水は無言のまま頷いた。なんていうタイミングで目覚めるんだと思ったが、キスで起きるなんて童話のお姫様みたいだと言う名前の笑顔に一瞬でどうでもよくなってしまった。


「名前さん、なんでこんなとこで…?」
「そりゃあお前に会いに」
「もうすぐ12時過ぎますよ」
「出水は俺になにも言わなかったけど、クリスマス楽しみにしてたろ?」
「……し、てましたけど!クリスマスは、来年もあるし、名前さんが無理しなくても、」
「付き合って初めてのクリスマスは今日だけだから」
「名前さん、おれの考えてること分かるの?」
「このくらいならなぁ」


立ち上がって伸びをした名前は、出水の最初の目的であった自販機でココアを二本買う。一本を出水に手渡し、ゴホンとわざとらしく咳払いをしてから口を開いた。


「明日は土曜日だよなぁ」
「……あ」
「駅前のイルミネーション、朝方までやってるんだって」
「名前さん」
「デート、しよっか」


ケーキだって買ってあるんだぞ、と笑った。悩むまでもなく返す答えが決まっていた出水は、ココアを持っていない方の手で名前の手を取る。「メリークリスマス、名前さん」そう言って急かすように歩き出した。



160117
み、みなでいうな…。完全に更新した気分でいました本当にごめんなさい。……メリークリスマス!!!!!(勢いで誤魔化す作戦) どうでもいい設定なんですけど、太刀川さんには任務が終わるのを待ってる旨を伝えてました……実に分かりにくい…。
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