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08


体ごと向きを変えて黒板を見る名前ちゃんが、整った顔を険しくしている。それもそのはず。教卓の前に立つ学級委員長が口に出した議題は文化祭についてだ。みんなが好き勝手出しあった意見を、後ろに立つ書記長が黒板に書いては消して書いては消してを繰り返している。そろそろ名前ちゃんがため息を吐きそう。「はぁ」ほらね。


「名前ちゃん、文化祭嫌い?」

「別に嫌いじゃないけど、こういう漠然となにがやりたいか考えろとかいうのは難しいからな」

「あ、それは分かるかも」

「そこの色男二人組」

「色男なんてどこにもいないよ、委員長」

「名字と及川、お前らだよばか」


司会進行を務めていた委員長が俺たち二人を指差す。さっきの会話が聞こえてたんだろうなあ。


「いつまでも決まんねえから、お前らが選べ」

「えー」

「顔の良さを前面に押し出していけるやつな、使えるものは使うぞ」


そういえば、学校で1番の売り上げを出したら焼き肉食べ放題券が貰えるってさっき言ってたっけ。そりゃあ及川さんなかなかいい顔してますけど?名前ちゃんなんてそりゃもう眉目秀麗を体現したような人物だからね。完璧に整った目鼻立ち、クセのないサラサラな黒髪、高身長、しかも学年主席で料理も上手いときた。結婚したい。完璧な彼の唯一完璧じゃないところは、このものぐさ具合だろうか。


「及川、好きなの選んでいいよ」

「考えるの面倒なんでしょ、名前ちゃん」

「あはは、バレたか」


目を細めて口元を綻ばすこの笑顔が俺は大好きだ。こんな顔、どこの誰とも知らない奴に見せたくは無いが、委員長からの指名だ。諦めるしかないようだ。


「喫茶店とかどう?わかりやすいし、ベタにコスプレか、男装女装とかで楽しくすればいいんじゃない」


候補のお化け屋敷は構成とか教室の改造と後片付け、演劇は台詞を覚えることがそもそも名前ちゃんはやりたくなさそうだから削除した。あ、俺の思考って常に名前ちゃん最優先だから仕方ないよね。そして全員の拍手で出し物は決まったみたい。


「このクラスに演劇部の部長がいるから衣装もなんとかなるし、手芸部の部長もいる。俺はお化け屋敷の準備は嫌だし、演劇で台詞を覚えたくない。そんな感じの理由でしょ?」

「うん、もちろん」

「俺及川大好き」

「え!?」

「及川いきなり立ち上がってどうした」

「いや、あ、なんでも、ない」


名前ちゃんの突然のデレに驚いて椅子から立ち上がってしまった。向こうで話し合いをしている委員長に突っ込まれたが、当の名前ちゃんは我関せずと口笛を吹いている。ああもう心臓に悪い。


「誰か料理得意でメニューのレシピ考えられる奴いるか?」

「委員長、名前ちゃん料理上手だよ」

「あっ、及川お前」

「ふふん」


俺のささやかな仕返しだ。名前ちゃんは料理は好きだし、そこまで苦にならないだろうし。「お前、それで料理も出来んのかなんなんだよほんと」という委員長の言葉にうんうんと頷く。そうして、困ったように眉を八の字にした名前ちゃんは、予算と可能な設備を指定されメニューを考えることになったのだった。


「やるなら徹底的にやるけど」

「名前ちゃんかっこいいー」

「お前試食係な」

「任せて!」

「いつもみたいに、なんでもかんでも美味いって言うのやめろよ」

「だって美味しいんだもん」


次の日、岩ちゃんに「及川くんっていつも名字くんの手料理食べてるの?って女子に聞かれたんだけど」という報告をされた。


140714
ベタベタな文化祭ネタです
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