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05


5月6日、烏野総合運動公園競技場。観戦席で一人コートを見下ろす。場所聞いてもしやと思ったら、やっぱり練習試合の相手校は烏野だった。試合が終わる度にあの小さい子、えっと、日向くんがもう一回!と叫んで連戦だ。若いな。それも時間が迫って来たために終了せざるを得なくなったようだ。片付けを始まるのを見計らって、観客席から降りて体育館の入り口を覗いた。


「てつろー」

「うおっ!名前!」

「お疲れさま」

「おう…そんなとこから覗いてないで、入ってこいよ」

「いいの?じゃあお言葉に甘えて」


部外者が立ち入っていいものか悩んでいたが、そんなお堅い場所ではないようだ。鉄朗の隣に並んで体育館に入って行くと、鉄朗と同じ赤いユニフォームを着た子が興味津々そうに駆け寄ってくる。


「黒尾さん、この人誰っすか!?」

「いとこの名前クンだ、惚れんなよ」

「すげー!背高いっすね!どことなく似てる?あ、おれ犬岡って言います!」

「犬岡くんか、よろしくね。俺こんなに目つき悪くないよ、寝癖じゃないし」

「あ?お前今バカにしたろ」

「いや……おっと」


後ろから感じた衝撃に、少し前のめりになる。腰に回される細い腕には見覚えがあったし、俺にこんなスキンシップをしてくるのはこの場所には一人かいない。


「名前、久しぶり」

「研磨は元気だった?」

「まぁ、そこそこ…来てくれてたんだね」

「鉄朗に教えてもらったからさ。顔見に来た」

「…俺、名前に会えただけでいいよ」

「研磨は可愛いな」

「なぁちょっと俺のこと忘れてない?」


昔から休みになると家族で黒尾の家に遊びに行っていた。その時に研磨と出会って仲良くなった。研磨の頭を撫でながら鉄朗をあしらっていると、飛雄が通り過ぎ際に俺を二度見して驚いたのか抱えていた丸められたネットを落とした。可愛い。


「え、あ、名前さん!?」

「おう、飛雄」

「どうしてこんなとこに…ていうか知り合い…」

「あぁ、鉄朗クンは俺のいとこなんだよね」

「……マジすか」


飛雄は俺と鉄朗を見比べて難しい顔をしていた。「俺の方が性格良さそうでしょ」と言うとまさか考えていたことが読まれたのかって顔で驚いていた。鉄朗は唇を尖らせている。別に可愛くない。次に飛雄は、俺の腰に抱き付いたままの研磨を見てなにか言いたげだ。


「…名前さんってセッターに好かれる匂いみたいなもん出してるんすか」

「なにそれ」

「ちょっと待った影山クン?他にもいるってこと?」

「……あ、いや」

「そんなことないから、なぁ飛雄」

「影山クン」

「飛雄」


自分より多少背の高い男二人に気負いする飛雄。「すいません」その言葉は俺に対しての謝罪か。そりゃあそうだよね、鉄朗の方が睨まれたら怖いもん。目つき悪いし。


「…俺も名前さんは好きっすけど」

「まじ?嬉しい」

「それで?」

「…名前さんの学校のバレー部のセッターです」

「飛雄、今日俺がここにいること及川に言うなよ」

「うす、じゃあ片付けが残ってるんで」


あ、逃げた。


「で、そのオイカワくんって?」

「うちのバレー部の主将、幼馴染」

「ふーん、イケメン?」

「あー…すげーモテるからイケメンの部類なんだろうね」


試合での及川コールを思い出しながら苦笑いをこぼす。


「やっぱ無理やり転校させりゃ良かったな」

「ほんとだよクロ、なにやってたの」

「そんなに俺をシティボーイにしたいの?」


烏野と挨拶をした後も俺から離れない研磨に休みに会いに行く約束をしてバスに乗せ見送った…なんて簡単なものではなくて。意地でも離れようとしない研磨にあれやこれやと次に会うのが楽しみになるようなプレゼンをひたすらしたり大変だった。音駒バレー部に助けを求めても鉄朗はニヤニヤしてるし、他の部員たちは研磨がこんなに他人に執着するなんてと喜んでいた。普段のこの子は一体どんなんなんだ。


「こんにちは」

「うわっ、…あ、貴方は烏野の」

「3年の菅原です」

「あぁ、さ…菅原さん!」


あっぶね、爽やか君って呼ぶところだった。なんとか誤魔化せたか…。菅原さんの後ろに少しそわそわしている飛雄がいる。


「菅原でいいですよ。まさか、名字さんが音駒の主将のいとこだとは」

「俺も呼び捨てで。あと敬語いらないっすよ、同い年だし」

「じゃあ俺も名前くんって呼んでいい?影山がよく話しててうつっちゃった」


いいよと笑顔で返しながら、後ろの飛雄に「余計なこと言ってないだらうな」という視線を向けるとふいっと反らされた。黒だな。


「尚更名前くんがバレーやってないのは以外だな」

「あぁ、よく言われる」

「なんか理由とかあんの?運動苦手とか?」

「名前さん中学のとき剣道で全国8位っすよ」

「は!?」

「やめてよそれ俺の黒歴史なんだから…ただ俺がめんどくさがりだってのと、あいつの人一倍努力してる姿を一番近くで見てきたからなんとなくで始めたら失礼だなって思ってさ」

「…あぁ、なるほどな」


二人は少し驚いたような顔をしている。背後から日向くんのスガさんー!という声が聞こえて菅原くんは「今度会ったら連絡先教えてな」と笑顔で告げて、声のした方に走って行った。笑顔が可愛い人だな。


「飛雄、菅原くんに俺の連絡先教えといて」

「うす…やっぱり名前さんはセッターに好かれますね」

「それどういう……あ、電話」

「…………」

「……………」

「………どうぞ」

「はぁ……もしもし」

〈名前ちゃんもしもし〜!俺今合宿終わったよ!〉

「……及川、お疲れ」

「音漏れやばいっすよ」

〈今トビオちゃんの声したんだけど!?名前ちゃん今どこでなにしてんの!!?〉

「内緒」

〈あー!岩ちゃーーん!名前ちゃんが浮気してるんだけどーーーー!!〉

「どういうことだよ、普通に試合観に来ただけだし」

〈俺は5日間も名前ちゃんに会ってないのになんなの!?〉

「うるさいな、まだ学校?」

〈…うん、そうだけど〉

「うちに帰って来なよ、飯作ってやるから」

〈名前ちゃん大好き!!!〉

「うるせ」


5日ぶりの及川の声はとりあえず音量がやばかった。ゴールデンウィーク中にちょくちょくメールが来てたけど、内容が内容で…というか内容が無くて返信していない。でも新しいメールを送ってくる及川のメンタル凄い。俺もスーパー寄ってから帰るか。


「名前さん、及川さんに甘いっすよね」

「俺は誰にでも甘いよ」


140705
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