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「しかしおっきいねぇ」
「え!名前さんも別に小さくないじゃないですか!」
「まぁ、そうだね……」

先日の結婚式の写真を新郎新婦がSNSに投稿して話題になったり、研磨の写真がファンに大好評だったりと、俺にとっては有難い出来事が続いた。

ポートレート、人物写真には今までさほど興味は無かったが、先生にもお褒めの言葉を頂いた。話題になったおかげか新しい撮影の依頼もあり、どうしようか迷っていたところで彼に「何かしらの良い影響を受けると思うよ」と後押しされ、依頼を受けてみることにした。

仕事内容は特に変わっているものではなく、今売り出し中の男性モデルの撮影だった。スタジオに入って最初に思ったのは「でっか!」だった。俺も決して小さい訳ではないが、190以上ある彼と目を合わせるには少しだけ見上げる必要がある。滅多にないこの感覚に内心ワクワクしてしまった。

「もう少しで終わるから頑張ろ?」
「名前さん!俺疲れちゃいました!」
「そっかぁ……リエーフくんは日本生まれなんだっけ」
「そうです!ロシア語喋れないです」
「あはは、そっか。じゃあ、こういうモデルのお仕事以外で好きなことはある?」
「バレー好きです、高校でやってました!」

ロシアと日本のハーフの灰羽リエーフくん。話す前は気難しいタイプだったりするのかなと思ったけれど、口を開いてみれば決してそんなことはなく。人懐っこい素直な子のようだった。動きと表情に疲れと飽きが出始めていたことにもすぐ気が付ける程度には分かりやすかった。

「バレーボール?」
「はい!MBでした!」
「へぇ、今もやってるの?」
「昔の仲間とたまにやりますよ!」
「それは楽しそうで良いね」
「プロになってる人もいるし、辞めちゃった人もいます!色々です!バレー辞めてゲームやってる人もいるし!」

嬉しそうに答えるリエーフくん。東京に高校は沢山あるしな、と思っていたが"バレー辞めてゲームする人"って滅多にいないでしょ。え、そんなことない?いやいや。でも一応、一応確認だけしておこうと、学校名を訊いてみた。リエーフくんが瞳を輝かせながら「音駒高校です!」と答えるものだから、世界って狭いなと思わざるを得なかった。彼は俺の2つ下だっけ。

「俺、音駒に知り合いいるよ」
「わ!凄い偶然!!」
「従兄弟なんだよね、黒尾鉄朗くん」
「エ!!!」
「リエーフくんがもう少し撮影頑張ってくれたら、鉄郎と研磨にリエーフくんが超頑張ってたよって伝えてあげる」

俺がにっこりと笑えば、リエーフくんはぴしりと背筋を伸ばして再びモデルモードになってくれた。それから彼は最初よりも調子良く撮影をこなしてくれて、ハイスピードで撮影を終わることができた。

「名前さん、俺どうでしたか!」
「ふふ、超頑張ってた」
「よっしゃ!撮影、すんごくやりやすかったです!」
「ありがと、それは良かったです」
「名前さん、たまに黒尾さんに似てますね」
「え、そう?俺そんなに胡散臭い?」
「あはは!!違いますよ、名前さんって面倒見が良いでしょ?」
「そうかなぁ」
「また一緒にお仕事しましょーね!」

最後にリエーフくんと一緒に撮った写真を一通りチェックし、撮影は無事終了となった。


「……ってことがあった」
「バレー部だったの?ってくらいバレー部に囲まれてるよな、お前」
「半分くらいはクロのせいでしょ」
「確かに」

20220506
今回は前シリーズでできなかったこと全部やるくらいの気持ちで書いてます!
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テーマ「人外ファンタジー」
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