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05


「お邪魔します」
「おかえり、名前」

なんの戸惑いもなく俺を出迎える研磨の声に笑いながら「ただいま」と返す。居間に荷物を置き、凝り固まった肩を回しながらネクタイをゆるめた。

「スーツだ」
「結婚式だったんだよね」
「同級生?」
「あ、参加じゃなくてカメラマンしてた」
「そういうのもやるんだ」
「多分、最初で最後だよ」

俺には写真を教えてくれている先生がいる。初めて賞を貰った時の審査員の1人で、その時に声を掛けられた。現在は先生のスタジオで色々と教えてもらっている。

今日の結婚式もその一環ではあったが、ネットで俺の写真を見た新郎新婦がわざわざ俺を直接依頼をしてくれたことがきっかけだった。ブライダル専門ではないし、そもそも普段からあまり人物写真を撮ったりしないこともあり最初は丁重にお断りした。それでも是非俺にと2人に頭を下げられてしまい、引き受けることに決めたのだ。

見知らぬ会場での式のため、色々と入念に打ち合わせをしなければいけなくてかなり大変だった。だが、会場を出る前に撮った写真を確認してくれた新郎新婦が大変喜んでくれたので結果オーライとする。

「人間撮るのは珍しいよね」
「そうそう……いや言い方」
「なんか、ちょっと羨ましいかも」
「え、撮る?」
「え?」
「あれ、違った?」

研磨は俺を見つめたままきょとんとしている。予想外の返答だったのだろうか。でも、今日使った機材はここにあるし、なんなら三脚もある。レフ板はないけど。

「…………じゃあ」
「あはは、めっちゃ悩んだね」
「だって撮られるの苦手だし……でも、SNSのアイコンを名前が撮った写真にしたい気持ちもある」
「それは逆にこっちが緊張してくるんだけど」

それから、背景が写り込んでも人物の邪魔にならなそうな一角で撮影会が始まる。俺もこういった撮影の場で撮られる側になったのは七五三とか、幼少期の薄い記憶しかない。

「……すごい」
「なんというか、自分で言うのも何だけど」
「俺はすごく良いと思う」
「眩しい感想」

持ち歩いていたノートパソコンで現像した写真を研磨に見せると、想像以上の好感触を得ることができた。USBにデータを入れて研磨に渡す。

「名前はなんでカメラ始めたの」
「うーん……最初はね、時間を形に残したくて」
「へえ、意外な解答かも」
「それは俺も思う。今は、俺の見てる景色を見せたいってのがあるかな。そのために色々考えて工夫するのは楽しいし」
「……今まで名前が自分から進んで何かを始めることってあまりなかったし、写真撮ってる名前は楽しそうだったから」

俺も嬉しいよ、と言葉を続ける研磨。やっぱり俺は周りの人間に恵まれすぎていると思う。

それから研磨はSNSのアイコンを変更していた。ファンからも好評のようで一安心。

「名前のID載せたら、あの時のイケメンやっと見つけたって言われてるよ」
「あはは!探されてたんだ、俺」


20220308
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